JR東海のドン・葛西名誉会長が遺した「負の遺産」(前)
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JR東海(東海旅客鉄道)の金子慎社長(67)の後任に4月1日付で丹羽俊介副社長(57)が就任する。丹羽氏は1989年の入社、87年の旧国鉄分割民営化後の入社組が社長に就任するのは本州3社で初めて。目標とする2027年の開業が困難な情勢にあるリニア中央新幹線の建設推進に取り組むことになる。リニア中央新幹線は「JR東海のドン」として君臨した(故)葛西敬之・名誉会長が遺した「負の遺産」である。
静岡県知事の反対で静岡県内の工区は着工できず
2027年の開業を目指すリニア中央新幹線が新社長の大きな課題だ。静岡県内の工区では、大井川の水量が減少することを懸念する静岡県の川勝平太知事が反対し着工できていない。
日本経済新聞電子版(2023年1月11日付)は、新社長の記者会見での発言を報じた。
「静岡工区がなかなか着工しておらず、難しい工事もある。いつごろまでにどういうかたちで何をするというのは難しい。地元の方々の懸念解消につとめ、健全経営を大前提に早期開業に全力を尽くす」他方、川勝静岡県知事はJR東海の社長交代の発表を受け、こうコメントを出した。
「丹羽次期社長にはリニア中央新幹線の早期実現と大井川の水資源および南アルプスの自然環境の保全との両立に向け地域住民の理解と協力を得られるよう真摯に取り組んでいただくことを期待する」リニア中央新幹線の着工をめぐるJR東海と静岡県の対立は仕切り直しだ。しかし、どう逆立ちしても2027年の開業には間に合いそうにない。
リニア中央新幹線は、「JR東海のドン」葛西敬之・名誉会長の最後の大仕事だった。
安倍元首相、葛西氏を「国士」と絶賛
JR東海名誉会長・葛西敬之氏が22年5月25日、問質性肺炎で死去した。81歳だった。葛西氏は安倍晋三元首相(故人)と親密で、財界きっての保守派ブレーンとして知られる。
自民党の安倍元首相は葛西氏の死去について、「寂しい気持ちだ。素晴らしい経営者だったが、一言で言えば国士だった。体の重心の真ん中に常に国家があり、常に国家のことを考えておられる人だった」。国会内で記者団にこう語ったと、各紙が報じた。
葛西氏は1963年に東京大学法学部を卒業し、当時の日本国有鉄道(国鉄)に入社。国鉄では労務畑を歩み、余剰人員対策で手腕を発揮した。労働組合から激しい反発を招いたが、自民党の三塚博・元運輸相(故人)と通じ、民営化の旗手になった。三塚氏のスピーチや著書のライターを担うなど、当時から政治のプレーヤーだった。
国鉄改革「3人組」の1人として、後にJR東日本社長となった松田昌士氏(故人)、JR西日本社長を務めた井手正敬氏とともに分割民営化を推進した。
葛西氏は87年にJR東海が発足して以来、経営の中枢にあり、95年から社長、2004年からは会長を務めた。14年に名誉会長に退いた後も20年まで取締役にとどまった。その後も名誉会長として対外活動に専念、「JR東海のドン」として君臨した。
「国士」と「政商」の貌をもつ
ジャーナリスト森功氏の最新作『国商、最後のフィクサー葛西敬之』(講談社)には、「安倍晋三射殺で一気に噴出した日本政財界の闇―その中心にいたのは、この男(葛西敬之)だった」のサブタイトルがつく。
タイトルにある「国商」とは、「国士」と「政商」から著者がつくった造語である。国のために尽くす「国士」と政治家とつながってビジネスを行う「政商」の両面を葛西氏はもつ。
葛西氏は、親米保守派の論客として、安倍元首相の右派人脈につらなる人物だ。
日本最大の右派団体である日本会議の幹部と顔ぶれが重なる「美しい日本の憲法をつくる国民の会」では、代表発起人に名を連ねた。また、安倍首相が第1次政権時代に肝いりでつくった「教育再生会議」のメンバーを務めた。「国士」の貌だ。
「国士」の貌は、前回「NHKの会長人事」に記載した。今回は「政商」の貌を切り口にする。「政商」としての最大の仕事は、リニア中央新幹線建設に当時の安倍首相を引きずりこんだことだ。
(つづく)
【森村 和男】
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