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当社でも記事を出した大丸別荘の元社長、山田真氏が亡くなった。謝罪会見をしてわずか10日余りのことである。
改めて山田氏の謝罪会見を見て辛いのは、山田氏がメディアに晒されることに対してあまりにも無防備であり、氏が正直に答えれば答えるほど、山田氏にとって状況は不利になるばかりという事態であった。最悪の結末に至ったことに、ただただ残念な思いである。氏のご冥福をお祈りする。
氏の謝罪会見を教訓として、我々はここで今一度、考えるべきことがある。
それは、謝罪会見は危機管理の一環であるということだ。
人に伝えることの難しさ
「心を込めて話をすれば相手に伝わる。」
「すべて正直に話をすれば相手は分かってくれる。」上記はすべて真実ではない。万が一、上記が真実であるなら、人生は苦労しない。この文章だって、どうすれば読み手に伝わるかと頭を悩ませる必要はない。相手に何かを伝えることは、難しい技術である。
しかも、単に「伝える技術」に高度な訓練が必要なだけではない。伝える技術をさらに奥深く至難の業にしているのは、状況によって必要とされる「伝える技術」が異なっていることである。
私たちは子どものころから、友達のなかで、家族のなかで、学校のなかで、恋人の間で、会社のなかで、社会のなかで、それぞれに異なる「伝える技術」を身に着ける。もし、家族のなかの伝える技術を会社のなかで応用すれば、伝えたいことが伝わらないどころか、むしろ大きな誤解を生む可能性がある。伝える技術は、それぞれの状況によって効果を発揮する特殊な技術である。私たちは、家族の世界を出て初めて学校に身を置くとき、また学校を出て社会に身を置くとき、これまで培った伝える技術が通用しないことにまごつき、大きな失敗をしながら新しい技術を身に着ける。
しかし、もし失敗できない状況、一発勝負で何かを伝えねばならない状況があるとしたら…。企業が不祥事を起こしたときの謝罪会見はまさにそれである。
謝罪会見の内容によっては、本来の謝罪すべき事柄以上に問題を大きくこじらせてしまうこともある。これまで多くの企業経営者や個人が謝罪会見を行い、それがメディアを通じて世間に流布してきた。そこには明らかに成功と失敗がある。謝罪すべき内容がどんなに大きな問題でも会見そのものは成功することがあり、謝罪すべき内容が些細な問題でも、会見は大失敗して炎上することがある。
いや、YouTuberならいざしらず、企業の謝罪会見で求められるのは成功ではない。失敗しないことである。なぜなら冒頭にも述べたように、謝罪会見は危機管理の一環であるから。YouTuberの場合、それは誘客の一環として成功が求められる。よって、YouTuberのそれとは違う。
謝罪会見は成功する必要はない。最低限失敗しないためには高度な技術は必要なのではない。しかし、決して友人・社内関係や、権威や甘えを持ち込んではならない。それを間違いなく実践するのはやはり技術である。そのことをすべての経営者が認識すべきだ。失敗しない最低限の技術を実践するには、必要な状況が発生したときに、プロフェッショナルに相談する手段を確保しておくことが望ましい。
そしてもう1つ、心に留めておくべきことがある。自分の伝えたいことが相手に伝わらないからと言って、それは必ずしも自分の責任ではないということだ。表現の受け手はどこまでも自分の勝手に解釈して受け止める。だから、自分の誠意が伝わらなかったからといってその責任のすべてを引き受けることはない。どんなに伝えることに大失敗してもだ。
【寺村朋輝】
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