路面電車版SDGs 熊本市が市電経営に上下分離導入へ
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熊本市が、路面電車の経営形態について旅客運送事業者(上物)と施設・車両の保有整備事業者(下物)に切り分ける上下分離方式を、2025年4月をメドに導入する方針を打ち出した。将来的に人口減少が進むなか、路面電車を持続安定的に維持する狙い。九州初の”市電版SDGs”として注目される。
同市は、運送事業者として設立する一般財団法人(以下、財団)の出資金を23年度6月補正予算で手当てするなどして、路面電車を一体経営している市交通局に代わる体制を24年3月末までに整える。
コロナ禍前の乗客は1,300万人
熊本市の路面電車は1924(大正13)年8月の開業。2024年8月に開業100周年を迎える。1960(昭和35)年の最盛時は路線7系統、延長約25kmだったが、現在は2系統、延長約12kmとなっている。
乗客は1963年度の約4,200万人が最高で1989(平成元)年度は880万人台に。その後、2011年3月の九州新幹線の全線開業を機に回復基調になり、コロナ禍前の2019年度は約1,300万人に戻していた。
雇用が不安定な会計年度任用職員
しかし、一方では経費削減のため電車運転士の新規採用を2004年度に中止して退職者分は再雇用職員などで補てん。20年4月の会計年度任用職員制度導入後は、再雇用運転士などを1年間の雇用契約で確保している。
会計年度任用職員の運転士などは22年4月現在で111人。これに対し車両は45編成。また、車両整備の技術職員も高齢化している。
市交通局は、今の状況が続くと車両の運転技術や整備技術が伝えられなくなるうえ、運転士の安定雇用も厳しくなると判断。運送事業は新たに設立する財団が担い、車両や施設は熊本市が保有して財団に貸し付ける。
熊本市は今後、路面電車事業の上下切り分けなどを盛り込んだ「軌道運送高度化実施計画」を作成し、国交省に認定申請する準備に入る。認定されると、財団が運送事業者、同市が軌道整備事業者として路面電車を経営する特許を取得したとみなされる。
法人移行で運転士の雇用安定と年収アップ
国交省都市鉄道政策課によると、軌道運送高度化実施計画は認定申請後8カ月間の審査が一般的だが、市交通局は24年3月末までに認定を得たいとする。
計画では、財団が運送事業者として認定された後、運転士らを5年以内に会計年度任用職員から同法人職員に移して雇用する。その結果、給与水準は平均年収ベースで約75万円アップして雇用安定にもつながるという。
交通局を廃止して市長直属の組織新設
軌道整備事業者になる同市は、地方公営企業会計を残したまま2024年度に交通事業管理者を置かずに交通局を廃止。同管理者の権限を市長が代行する。ただ、地方公営企業の組織を市長部局の組織に組み込めないため、市長直属の担当セクトを新設して別の都市交通関連組織の職員が併任する。
新しい車両の購入や軌道、電停の整備などは市が手がける。また財団の事務職や技術職員は市の職員が出向する。
市交通局の試算では、会計年度任用職員の財団職員への移行によって各種手当が増加するため人件費総額はいったん増えるものの、24年度以降の20年間では約3億2,000万円の削減が見込めるという。半面、乗客は30年度にピークに達し、その後沿線人口の推移に沿って減っていくとしている。
市議選終了後に市電延伸も協議
同市の大西一史市長は、路面電車の東の終点「健軍町電停」から北側の熊本市民病院前まで延伸する計画を表明。20年度に基本設計を終えたが、コロナ禍で中断している。延伸距離は約1.5km、道路中央に軌道を敷く案が有力で概算事業費は135億円となる見込みだ。
市は、4月9日投票の統一地方選の熊本市議選後、新たな議会メンバーと延伸の是非を協議する。ただコロナ禍とロシアのウクライナ侵攻による建設資材など物価高騰で事業費が膨らむ公算が大きい。
路面電車の上下分離は、札幌市交通局と富山地方鉄道(富山市)がすでに導入。今年8月には栃木県宇都宮市・芳賀町の宇都宮ライトレールが上下分離方式で開業を予定する。九州では鹿児島市交通局と長崎電気軌道(長崎市)の路面電車があるが、上下分離については今のところ表立って検討されていない。
【南里 秀之】
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