2024年11月22日( 金 )

なぜ、フェリー業界は新造船の導入を進めるのか(前)

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運輸評論家 堀内 重人

 フェリー船社は近年、船舶の更新を積極的に進めている。その背景には、老朽化した船舶を新造船に置き換えることで会社のイメージアップや旅客サービスの向上を図るということもあるが、それにもまして、慢性的なトラック運転手の不足がある。

 新造船は従来の船舶よりも大型化される傾向にあり、トラックなどの積載台数も増加する傾向にある。従来は高速道路を走行していたところ、フェリーに切り替えれば、シャシーや海上コンテナは無人航送が実施される。それらは到着地でトラクターヘッドに連結され、ドレージ輸送される。

 さらに最近の傾向として、フェリーなどの無人運航の試験が実施されていることがある。船舶輸送は、人件費やタグボートの使用、フェリーの場合は専用タ―ミナルを使用するなど、固定費が高い産業である。そこで、船員不足や船員の高齢化に対応し、運航の無人化を進めることで物流の担い手を維持・活性化させる試みが行われつつある。

建造される新造船の特徴

 フェリーは物流の担い手として期待されており、最近建造される新造船は、従来の船舶よりも大型化される傾向にある。大型化することで旅客定員も増えるが、トラックなどの積載台数も増加する。

 だが、全長200mを超える大型船を建造するとなれば、1隻あたり60億円を下回ることがないほどに高価である。船舶の大型化だけでなく、昨今はコロナ禍による「三密」回避に加えてプライバシーの確保やセキュリティーの向上などに対する要望も高くなり、かつてのような座敷席が敬遠される傾向にある。大阪南港と東予港を結ぶオレンジフェリーのように、完全個室化されたフェリーが、徐々にではあるが増加する傾向にある。

 船舶の建造にあたっては、鉄道建設・運輸施設整備支援機構から補助金が支給されるが、それでも数十億円が自社負担となる。

 建造費を負担するためには経営基盤を強化する必要がある。そこで、2011年に商船三井系のフェリーさんふらわあ、関西汽船、ダイヤモンドフェリーの3社が経営統合し、新生「フェリーさんふらわあ」が誕生している。

 新生のフェリーさんふらわあは、2017年に茨城県の大洗~苫小牧間で、2018年に大阪~鹿児島県の志布志間で、それぞれ新造船を導入した。さらに、環境問題の高まりを背景に、2022年末から2023年前半にかけて、従来のC重油を燃料とする船からLNGを燃料とする新造船「くれない」「むらさき」の2隻を、大阪南港~別府港の航路に投入する。LNGを燃料とするフェリーは日本初であるという。「くれない」「むらさき」はデュアル・フューエルエンジンを採用しているため、LNG以外にA重油でも運航が可能であるだけでなく、大気汚染の原因になる硫黄酸化物(SOx)を出さず、CO2排出量の削減に寄与する。のみならず、船内の静寂性も向上する。

 これらの船は、入り口付近が3層の吹き抜け構造となっているに加え、アトリウムの天井には、プロジェクションマッピングとして瀬戸内海などの風景を投映している。さらに、「くれない」「むらさき」では、天井だけでなく壁面のスクリーンも使用し、広範囲のプロジェクションマッピングも楽しめるようになった。乗船時のプロジェクションマッピングだけでなく、毎晩9時15分にプロジェクションマッピングのショーを開催している。

画像1 名門大洋フェリー
画像1 名門大洋フェリー

 大阪南港~新門司港間を結ぶ名門大洋フェリーは、2021年から2022年にかけて、積載台数を5割以上高めた新造船「きょうと」「ふくおか」の2隻を相次ぎ就航させた(画像1)。これらの船舶も、従来船よりも個室の比率を高めるなど、居住性や安全性が向上している。

画像2 フェリーたかちほ
画像2 フェリーたかちほ

    2022年は新造船の建造ラッシュの年でもあった。2022年4月に宮崎カーフェリーが新造船「たかちほ」(画像2)を導入したほか、6月には別府と八幡浜を結ぶ宇和島運輸が、新造船「れいめい丸」を導入した(画像3)。また、10月には神戸港と高松東港を結ぶジャンボフェリーが新造船「あおい」を導入するなど、フェリー業界は新造船の建造ラッシュが続いた。

 そして、これらの新造船は、船内がバリアフリー対応となっている。エレベーターも完備され、高齢者や車いすの利用者に配慮したつくりである。また、ペットと同伴できるウイズペットルームが設けられるなど、旅客ニーズによりきめ細かく対応した設備やサービスが展開されている。

画像3  「れいめい丸」
画像3  「れいめい丸」

無人運航に向けた取り組み

 フェリー事業は、運航コストに占める燃料代の比率も高いが、人件費の占める割合も高い。人件費を下げて利益率を高めるため、フェリーの無人運航の社会実験が始まりつつある。

 日本財団と三菱造船、新日本海フェリーは、2022年1月17日、新門司港から伊予灘までの往復240kmの海域で、大型フェリーを用いた無人運航の実証実験に成功している。実験運航に使用された「それいゆ」は、全長222.5m、総トン数1万5,515tの大型船である。同船は東京九州フェリーとして横須賀~新門司間で運航しているが、最速30ノットの高速で運航しており、関東~九州間の旅客輸送だけでなく、物流にも大きく貢献している。九州の生鮮食品が横須賀港へ21時頃に到着するため、そのまま豊洲の卸売市場へ向かい、セリにかけられたりする。2021年7月の東京九州フェリーの就航により、200mを超える大型船が30ノットという高速で運航することで、物流面で新たな需要をつくり出したといえる。

(つづく)

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