2024年12月28日( 土 )

日産、神鋼、東レ 製造業不祥事連発は「納期厳守」が原因か(後)

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 日本のものづくりの現場では近年、品質をめぐる不祥事が後を絶たない。日産自動車やスバルの無資格検査、神戸製鋼所、三菱マテリアルの子会社や東レの子会社のデータ改ざんなど、日本企業の不祥事が相次いだ。どうして、これほどまでにあちこちの工場で、同じような不正が行われるようになったのか。理由ははっきりしている。製造現場では、「納期厳守」が最大のプレッシャーとなっているからだ。

「かんばん方式」の限界と現実

 納期遅れが発生しないような万全の生産体制を敷いていても、納期遅れが発生することがある。納期に間に合わなかったら、組み立てメーカーと部品メーカーとのあいだにシビアな交渉が持たれる。最悪の場合、取引を停止される恐れがある。完璧のサプライチェーンを築いているため、1部での納期遅れが、全体の生産のスケジュールを狂わせるからだ。

 納期厳守は、製造現場で働く人々が身につけなければならない鉄則だ。しかし、納期遅れを根絶することはできない。データを改ざんする不正を行ってでも、納期を守ろうとする。ブレーキペタルは、多少の遊びがないと急ブレーキがかかり危険だ。同様に、サプライチェーンが一分の隙もなく完全に整備されたことで、各工場で不正が蔓延するという皮肉な結果を招いたのである。

製造業の言葉「納期は命よりも重い」

 納期に悩んでいるのは現代人だけではない。1,250年前の天平時代の宮仕えも納期に苦しんでいた。YOMIURI ONLINE(2015年11月5日付)が「天平役人『言い訳文書』・・正倉院展に出展」というユニークなルポを掲載した。
 奈良市の奈良国立博物館で開かれる正倉院展には毎年、70種前後が出展される。15年に出展された目玉は「続修正倉院古文書第四十六巻」。758年から760年に書かれた9通が出展された。いずれも、目上の人に差し出す「啓」という書式で書かれている。現代文に訳された説明がつく。YOMIURIの記事を引用する。

 〈1通は、陰陽師(おんみょうじ)の大津大浦(おおつのおううら)という人物が書いた手紙。すでに遅れている品物の物品の納入を再び延長するよう願っている。
 その理由として「物品を調達するため因幡国(現在の鳥取県東部)に派遣した使者が、現地の長官(大伴家持)と一緒にへんぴな所へ行ってしまったため、そろえることができなかった」と釈明。さりげなく有力者との関係を暗示しながら、「身が焼き付くような心持ち」と神妙にわびている〉

 「納期の遅れを部下のせい」にする天平時代の役人は、「検査データ改ざんを製造現場のせい」にする平成の御代の経営者とちっとも変わっていない。納期へのプレッシャーは、未来永劫続く。人々は、その重圧から逃れることができない。製造業では、こういう凄まじい言葉がある。「納期は命より重い」――。

(了)

 
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