2024年11月03日( 日 )

【倒産を追う】ユニゾHD、「策士、策に溺れる」 従業員による無謀な買収が主要因

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ホテル ユニゾ

 ホテル・不動産運営のユニゾホールディングス(株)が4月26日、東京地裁に民事再生法を申請した。負債総額は約1,262億円。これには社債約610億円が含まれており、国内の公募社債のデフォルトは、2017年6月にエアバッグのリコールで経営破綻したタカタ(株)以来となる。ユニゾHDは4月26日付で(株)日本産業推進機構グループとの間において、スポンサー支援にかかる基本合意を締結しており、今後、同グループの支援の下で再生を図る。ユニゾHD倒産の主要因は何か。すべてはメガバンクで権力闘争に敗れた男の「怨嗟」による(敬称略)。

8億6,000万円の支払いに窮し白旗

 『日経ビジネス』(4月28日付)の「ユニゾHD、『8億6,000万円』で進退窮まる、市況回復期に破綻の理由」と題する記事が目に止まった。日経ビジネスは、ユニゾHDが東京地裁に提出した「再生手続開始申立書」を入手し、次のように報じている。

 〈4月28日に返済期日を迎える約8億6,000万円の債務に対し、「手元流動資金が約10億円に過ぎない」と明かし、返済が不可能であると強調されていた〉

 〈関係者の間では、無担保社債100億円の償還期限である5月26日が「節目」とみられていたが、実態はさらに苦しい状況にあった。最盛期には簿価6,000億円超の資産を抱えていたユニゾHDとしては、さみしい結末となった〉

 同記事を読んで、さほどの驚きはなかった。「やはり」というのが正直な感想だ。筆者はかつてNetIB-NEWSにユニゾHDの追跡レポートを寄稿したことがある。1本は2019年8月の「HIS、ユニゾHDの敵対的買収に発展~それぞれが抱える表に出せない裏事情」(19年8月19日~8月21日付)、もう1本は20年4月の「ユニゾ、上場企業初、従業員による買収が成立~策士、小崎社長が『好んで事をたくらんだ』大立ち回りの顛末」、(20年4月13日~4月15日付)である。

 3本目となる本稿はいわば最終章だ。権謀術数の達人である小崎哲資の「策士、策に溺れる」結末をレポートする。小崎とはどんな人物かを振り返ってみよう。

大秀才が蝟集する興銀でとびきりの“切れ者”

旧日本興業銀行本店
旧日本興業銀行本店

    かつての日本興業銀行(現・みずほ銀行)は、東京大学でもとくに優秀な学生しか入れない超エリートが集まる銀行だった。その天下の大秀才が蝟集する興銀で、とびきりの“切れ者”と評されていたのが、小崎その人である。

 1976年に東大法学部を卒業し、興銀に入行。故・西村正雄興銀頭取の信を得て、旧興銀側の実務責任者として、99年に旧・富士銀行、旧・第一勧業銀行との3行統合構想を推進した人物だ。

 2002年、3行の持株会社みずほホールディングスは不良債権処理で巨額の赤字を計上し、公的資金に対する配当原資が枯渇する危機に直面した。事業再構築推進チーム委員長に就任した小崎は、みずほHDの親会社としてみずほフィナンシャルグループ(FG)を設立し、持株会社を重ねる「二重持株会社方式」を考案。傘下の黒字企業と赤字企業を2つの持株会社に振り分け、みずほHDは配当を実現した。

 みずほFGは不良債権の増大で自己資本比率が8%割れ寸前になり、一時は国有化の危機に直面したものの、経営企画部長の小崎は 03年に取引先3,500社を引受先とする1兆円増資を実現し、救った。

「みずほのラスプーチン」の粛清

 小崎氏はみずほの窮地を2度にわたり脱出させた手腕を買われ、04年にみずほFGの常務取締役に就任した。そして、みずほFGの最高実力者となった前田晃伸FG会長(旧・富士銀)の懐刀として辣腕を振るうことになる。

 〈「オレは“I(旧・興銀)派”じゃない、“M(前田)派”だ」と豪語し、その権勢ぶりは「みずほのラスプーチン」の異名が付いた〉
(『FACTA』2010年4月号)

 ロシア帝国末期に、「影の皇帝」と呼ばれた怪僧ラスプーチンになぞらえたものだ。

 09年、小崎は最高財務責任者(CFO)としてみずほFG副社長に就任。次期FG社長に王手をかけた。だが、政変が起きる。みずほは経営トップが6人もいるという異様に肥大化した組織になっており、そこで金融庁から「トップが6人もいては、誰が意思決定者なのかわからない」と圧力がかかったのだ。

 10年6月、旧3行を率いてきた前田ら3人の会長(みずほFG、みずほ銀行、みずほコーポレート)は辞任に追い込まれた。同時に、権勢を誇ってきた小崎も副社長を退任、旧興銀系のビル賃貸業、常和ホールディングス(株)(現・ユニゾHD)社長に転出した。「ラスプーチンの粛清」として当時、大きな話題になった。

みずほフィナンシャルグループが入居する大手町タワー
みずほフィナンシャルグループが
入居する大手町タワー

    このように、みずほは統合以来、お家騒動が年中行事となっていた。内幸町、大手町、丸の内。みずほグループの内部では、旧3行の本店所在地を使って、行員を色分けしていた。第一勧銀は内幸町、富士銀は大手町、興銀は丸の内に本店があった。

 みずほの3人の会長辞任という首脳人事は金融庁主導で進められた。第一勧銀と富士銀の2人のトップを一気に辞めさせ、興銀出身の佐藤康博を新体制のトップに据えた。佐藤と小崎は興銀の同期入行の同僚だ。出世レースでは統合推進で大きな功績のあった小崎が1歩も2歩も先行していたが、金融庁の裁定により佐藤がトップに引き上げられ、一方で小崎はみずほを追われた。みずほでの権力闘争に敗れた小崎は、“天敵”となった佐藤が率いるみずほに牙を剥く。

国内初のEBOという奇策 非上場化へ

ホテルユニゾ博多駅博多口
ホテルユニゾ博多駅博多口

    みずほを追放された小崎は「脱みずほ」に舵を切る。小崎の得意技はみずほ救済で辣腕を振るった資本政策だ。ユニゾHDは18年5月までの5年間に4回の公募増資を実施。みずほグループの持ち株比率を薄めていった結果、みずほとの関係は悪化した。

 みずほの後ろ盾を失ったユニゾHDのホテルや不動産を手に入れるために、旅行大手のHISや米投資ファンドがユニゾHDの買収に乗り出した。

 投資ファンドにTOB(株式公開買い付け)を仕掛けられたことを希貨として、小崎はみずほ時代を彷彿させる策士ぶりを発揮する。従業員による企業買収(EBO)を実施、ユニゾHDを非上場化して、みずほから完全離脱に踏み切ることを決意したのだ。

 20年4月にEBOが発表される。ユニゾHDの買収額は2,050億円。買付主体はチトセア投資で、出資比率は従業員が73%、米投資ファンドのローン・スター・グループが27%。買収資金はローン・スターが提供するというものだった。

 しかし、それに至るまでの小崎の強引なやり方に、ユニゾHDの従業員が反乱を起こした。EBOの内容には虚偽記載があるとして、従業員が同3月までに小崎を東京証券取引所や証券取引等監視委員会に告発していたことがわかった。告発内容は、(1)小崎社長が主導しており、真のEBOではない、(2)資産売却が進められて従業員利益が害されようとしていることの2点である。

買収資金弁済のため、資産を切り売り

 チトセア投資は従業員によって設立されたというよりは、小崎がシナリオを描いて設立されたものだ。小崎はファンドからのTOB提案に対して、資産の切り売りでは「企業価値の向上」が完全に担保されないこと理由に反対していたが、実際にやっていたことといえば、半分近くの所有するビルやホテルを売りに出していたのだ。なぜドル箱のオフィスビルやホテルを売り急いだのか。

 〈「EBOのための資金を提供してくれる米ローン・スターにお金をEBO成立から半年後に返さなければいけないから、そのお金を確保しようとしている」(ユニゾ幹部)という〉
(『日経ビジネス』電子版20年3月9日付)

 ユニゾHDは20年3月、20年3月期決算の業績予想を下方修正した。売上高は413億円と前期の560億円から26%減に引き下げ、当期純利益は490億円と前期の119億円から4.1倍増に引き上げた。減収となるが、20年に入ってから十数棟のオフィスビルの売却を進めたことで、売却益による大幅な増益になると見込んだのだ。この売却金額は2,341億円にのぼった。

 同4月以降も物件売却を加速させた。3月末で45棟保有していたオフィスビルのうち、ユニゾお茶の水ビルなど14棟を900億円で売却した。27棟のホテルのうちホテルユニゾ銀座一丁目など13棟を400億円で売却した。こうして合わせて1,300億円の資金を調達した。

ホテル ユニゾ    また、新会社のチトセア投資がTOBでユニゾHDの全株を取得していた。TOBにかかる資金はローン・スターがいったん立て替えていたが、TOB成立後に、ユニゾHD従業員が返済しなければならない。その資金をビル売却で工面していたというわけだ。

 ローン・スターに全額返済した暁には、非上場会社となったユニゾHDを小崎は自分の会社にしてしまう意図が透けてみえた。自身の懐を痛めることなく、ユニゾHDの不動産売却によりユニゾHDを手に入れるというシナリオだ。余人が考えもつかない策略をめぐらして、ユニゾHDを「小崎王国」にしようとした知略は恐るべし。「みずほのラスプーチン」と呼ばれた男は「ユニゾの皇帝」になろうとしていた。

小崎の野望が水泡に帰す 「策士、策に溺れる」の構図

 しかし、「ユニゾの皇帝」になる小崎の野望は水泡に帰した。企業買収情報サイトM&A Online(5月5日付)は「ユニゾホールディングス倒産の引き金となったローンスターと旧経営陣の策略」と題する記事を配信した。

 〈ローン・スターの支援には条件があり、決済の開始日から半年後にローン・スターから経営サポートを得て協業体制を継続するか、資金を返済して独立するかの2つの道が提示されていた。

 (中略)ユニゾが選択したのは後者でした。ユニゾはチトセア投資に対して、2,500億円超の短期貸付を行っています。その額は2021年3月末に残高が2,060億円になるように調整されており、買収資金とほぼ一致する内容です。

 ユニゾの現金は2020年3月末から9月末までの間で、1,635億円から550億円まで縮小。1,436億円あった販売用不動産は消失しました。チトセア投資の貸付金に充当したものと考えられます〉

 同記事はこのように、ユニゾHDの倒産について、無謀なEBOによる2,500億円超の貸付金を短期間で返済したことが主要因であり、返済資金に窮して不動産を次々と売却したものの、キャッシュが回らなくなったというのが実情と結論づけている。

 稀代の策士である小崎は、ハゲタカファンドのローン・スターを活用して、「ユニゾの皇帝」になる野望を抱いたが、すべては水泡として消えた。策略を好む人は、策をめぐらしすぎて、逆に失敗することを諺はいう。「策士、策に溺れる」と。

【森村 和男】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:山口 雄平
所在地:東京都港区三田3-4-10
設 立:1959年9月
資本金:320億6,288万4,330円
URL:https://www.unizo-hd.co.jp/

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