2024年12月23日( 月 )

企業が入手すべき地政学インテリジェンス

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国際政治学者 和田 大樹

地政学 イメージ    筆者はもともとテロ分野を中心とする国際安全保障の研究者であるが、実務家として企業向けの地政学リスクコンサルティングにも従事している。これまで多くの企業関係者たちに企業が直面する地政学リスクの現状と対策について講演を行ってきたが、最も重要な対策は情報収集と分析、そして共有だと、日頃から訴えている。

 実際、国際政治はこんにちテロの時代から国家間対立の時代に回帰し、しかも政治と経済を分離するハードルが下がったために、大国たちは政治の領域に加えて経済や貿易の領域を主戦場として攻撃し合っている。したがって、経済アクターである企業は利益の最大化、安定化のためにも、政治の領域から侵入してくるリスクに対して率先して対処する必要がある。

 にもかかわらず、いまだに地政学リスクを真剣に経営課題として位置づけていない企業や、その重要性は分かっていても対処する時間や余裕のない企業は依然として多い。では、地政学リスクに対処するにあたり、どういった情報源が存在し、役立つのだろうか。ここでは筆者が重要だと考える情報源を少し紹介したい。なお、テレビで報道されたり、新聞に掲載されたりするものは省く。

 まず、国境を越えて展開する企業にとってとくに重要となるのが、NEWS25 NOW である。これは世界各国のメディアが報じたニュースを集約したポータルサイトで、各国の政治や経済、治安などの最新情報を瞬時に入手できる。テロ情勢など現地のメディアしか報じないような情報にも辿り着けることが多く、日本のメディア新聞でも取り上げられないようなインテリジェンスもあり、大変便利なサイトだ。当然、無料なので無駄な出費も抑えられる。
 また、台湾や中国情勢でより高度な情報を入手したい企業にとっては、米国の「戦争研究所」が定期的に発表する情報が役立つ。戦争研究所は今日のウクライナ情勢でもロシア軍やウクライナ軍の動向について事細かな分析結果を定期的に公表しており、NHKニュースなどでもそれがよく引用されるが、最近は台湾や中国の軍事情勢について頻繁にレポートを公開している。戦争研究所の分析は安全保障の専門家の間でも評価が高く、こういった高度なインテリジェンスを活用することをお勧めしたい。

 一方、もっと一般的な情報サイトを求める企業関係者にとっては、外務省の「たびレジ」が役立つ。たびレジでは、自分のPCやスマートフォンに登録しておけば、各国にある日本大使館や領事館が発信するテロやデモなどに関する情報を常時、瞬時に入手できる。同サービスはサプライチェーンなどモノの安全ではなく、駐在員など人の安全に特化したものだが、世界各国の大使館から日々多くの情報が届くので、日本語で得られるサイトとしてはここが最も役立つ。

 日本語で得られる情報源には限りがあるが、英語で得られる情報源はほかにもたくさんある。英語の情報源は有効活用するには時間がかかってしまうが、こんにち企業には地政学インテリジェンスを率先して入手し、それを積極的にビジネスのなかで活かしていくことが求められている。


<プロフィール>
和田 大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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