2024年08月30日( 金 )

「上場企業の守護神」IRジャパン元副社長の「マッチポンプ」(前)

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 マッチポンプとは、火をつける「マッチ(match)」(英語)と火を消す「ポンプ(pomp)」(オランダ語)を組み合わせた和製外来語だ。自らが意図的に起こした問題を解決することで、報酬や評価を得る行為のことをいう。自分の利益のために「意図的に問題を起こす」というのがポイント。

 なかでも、詐欺行為や詐称による悪質性の高い方法を「マッチポンプ商法」という。インサイダー取引容疑で逮捕された「上場企業の守護神」IRジャパンの元副社長もマッチポンプ事件も引き起こしていた。

元副社長は知人女性2人に
インサイダー情報を提供して逮捕

インサイダー取引 イメージ    東京地検特捜部は5月18日、東証プライム上場企業の株主対応を支援するアイ・アールジャパンホールディングス(以下、IRジャパンHD)元副社長の栗尾拓滋容疑者(56)を金融商品取引法違反(取引推奨)の疑いで逮捕した。報道各社が一斉に報じた。

 報道によると、栗尾元副社長は2021年3月下旬、自社が売上高予想を下方修正するという重要事実を職務として把握した。公表前の4月上旬~中旬、知人女性2人にLINEメッセージなどを送り、損失を回避させる目的でIRジャパンHD株の売却を複数回勧めた。

 2人は下方修正の公表前の同月中旬、計約1万1千株を何回かに分けて売却。購入時の数倍以上の計1億8,000万円で売り抜けていたという。

 栗尾元副社長のインサイダー取引については、22年7月、NetIB-NEWSに「上場企業の守護神「IRジャパン」の驕り、インサイダー疑惑で副社長が退任というお粗末」に記載しており、合わせてお読みいただきたい。今回はマッチポンプ事件について論じる。

有事コンサルタントの立役者は、
野村證券出身の栗尾副社長

 投資家向け広報(IR)や株主の調査を手がけるコンサルティング会社のIRジャパンは近年、買収防衛策などを経営陣に助言する上場企業の「守護神」として急成長していた注目企業だ。

 企業間のM&A(合併・買収)が活発化するのにともない、「物言う株主」や機関投資家が企業側に経営陣の刷新などを求めるケースが増加。IRジャパンは、こうした「有事」に陥った企業の経営陣に対するコンサルティングを専門に行う部門を立ち上げ、業績を伸ばしていった。

 その立役者が、インサイダー取引で逮捕された元副社長の栗尾容疑者だった。証券界トップの野村證券に約20年間在籍し、2013年にIRジャパンHDの寺下史郎社長に迎え入れられ、子会社のコンサルティング会社、IRジャパンに入社。2カ月で同社副社長となり、15年から親会社の副社長も兼任した。

 朝日新聞(5月19日付朝刊)は、栗尾副社長の営業流儀をこう報じた。

 〈「御社のしもべになりますから!」。IRジャパンHD幹部らによると、そう言って顧客を口説くのが栗尾元副社長の営業スタイルだった。高級クラブなどでもてなし、接待費は社内で最多だったという〉

 同社は20年3月期に売上高を前年より6割増やし、株価は19年初めから2年で10倍以上に急伸した。躍進の原動力は、株主還元や経営改革を迫るアクティビスト(物言う株主)への対応で企業を支援する有事のコンサル事業だった。

 業績を上げるなかで栗尾容疑者の行動は、「制御不能」になっていった。

ダイヤモンドオンラインが
マッチポンプ疑惑をスクープ報道

 『IRジャパン衝撃の「買収提案書」入手、東京機械の買収防衛でマッチポンプ疑惑』。ダイヤモンドオンライン(2022年11月10日付)がスクープ報道をした。

 インサイダー取引疑惑の渦中にあるIRジャパンの栗尾拓滋元副社長が2021年春ごろ、投資会社のアジア開発キャピタル(ADC)代表と面会し、新聞輪転機メーカーの東京機械製作所の買収提案を行っていたと報じた。

 ADCは同年夏以降、東京機械株を買い増し、経営権争奪戦に発展したが、東京機械の防衛アドバイザーを務めたIRジャパンのトップが、実はADCに東京機械の「乗っ取り」をけしかけていたという驚愕の事実だ。

 ADCには乗っ取りを提案してマッチに火をつける一方で、東京機械には買収防衛策の助言役を務めて火を消す役割を演じる。典型的な「マッチポンプ」だ。

(つづく)

【森村 和男】

(後)

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