2024年08月30日( 金 )

「上場企業の守護神」IRジャパン元副社長の「マッチポンプ」(後)

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 マッチポンプとは、火をつける「マッチ(match)」(英語)と火を消す「ポンプ(pomp)」(オランダ語)を組み合わせた和製外来語だ。自らが意図的に起こした問題を解決することで、報酬や評価を得る行為のことをいう。自分の利益のために「意図的に問題を起こす」というのがポイント。

 なかでも、詐欺行為や詐称による悪質性の高い方法を「マッチポンプ商法」という。インサイダー取引容疑で逮捕された「上場企業の守護神」IRジャパンの元副社長もマッチポンプ事件も引き起こしていた。

東京機械乗っ取り事件は新聞社連合が
ホワイトナイトとなり決着

 筆者はNetIB-NEWSに『新聞業界が震撼!!輪転機最大手、東京機械製作所が乗っ取られる?買収防衛策で、中国・香港系のアジア開発キャピタルに対抗』(2021年10月5日付ほか)を寄稿した。

 新聞用輪転機の名門が買い占めのターゲットになったため、新聞・通信40社の経営トップが懸念を表明する騒動に発展した。

 騒動の発端は2021年7月、ADCは東京機械株を約8%保有したのを皮切りに、一気に32%超まで買い進めた。驚いた東京機械は8月に買収防衛策導入に動き、10月末の臨時株主総会へ向けた委任状争奪戦と買収防衛策を差し止める法廷闘争を繰り広げた。

 臨時株主総会は買収防衛策を承認、最高裁は防衛策を認める判断を示した。紛争は東京機械の「勝利」で幕を閉じた。

 これを受け、ADCは2022年3月、東京機械の株式の大半を新聞社連合に譲渡した。読売新聞東京本社が25%を取得して筆頭株主となり、他に中日新聞社、朝日新聞社、北國新聞社、信濃毎日新聞、北海道新聞社が名を連ねた。

 だが、これにて一件落着とはいかなかった。

第三者委員会は栗尾元副社長の所業は
「マッチポンプだ」と指摘

お金 イメージ    ダイヤモンドオンラインによる栗尾元副社長のマッチポンプ疑惑の報道を受け、IRジャパンが2022年末に設けた第三者委員会(委員長=山口敏昭弁護士)は3月7日、調査報告書を公表した。

 報告書によると、栗尾元副社長は独断専行で営業先に企業買収を提案することがあった。ほかの経営陣に報告しなかった結果、会社が一方の当事者の防衛支援業務を請け負う事態となり、「外形的にはマッチポンプだ」と指摘した。

 同社が扱った東京機械など2事案で、顧客の利害や信頼を害する行為があったと認定した。顧客企業の助言役を担った翌年に敵対側の助言役にグループ会社が就いたケースなどを問題視。株式の過半を持つ寺下史郎社長が「絶対的権力者」となり、異論を挟めない状況だったと指摘した。

マッチポンプ事件に利用された
読売新聞社が激怒

 IRジャパンのマッチポンプ事件におさまらないのが、東京機械のホワイトナイトとなった新聞社連合だ。受け皿に利用されたからだ。読売新聞グループ本社の山口寿一社長が、「IRジャパン」に激怒しているという。

 『週刊現代』(2023年5月20日号)が、『「上場企業の守護神」疑惑のマッチポンプ事件・・・読売新聞社長が「IRジャパン」側に大激怒』と報じた。

 IRジャパンは防衛アドバイザーを務めており、東京機械製作所を守る立場にあった。ところが栗尾元副社長が裏でアジア開発キャピタルに対して「複数のファンドを使い正体を隠して経営権を取得すればいい」と提案していたことが判明。この「マッチポンプ」疑惑に、読売側が怒っているというのだ。

 そりゃそうだろう。昔の総会屋は、それなりの仁義はあった。会社の防衛に回る与党総会屋と、会社を攻撃する野党総会屋に役割を分担していたが、一人二役はしない。ところが、IRジャパンは「守りと攻め」の一人二役の二刀流だ。

 読売新聞の山口社長は、違法な手法での”乗っ取り”をそそのかしたIRジャパンに「相応のけじめ」を求め、さらに同社を信用補完した大手法律事務所や金融当局の問題にも言及しているという。IRジャパンは「栗尾氏の個人犯罪」として逃げるつもりだが、読売は厳しく責任を追及する構えだ。IRジャパンのワンマン経営者、寺下史郎社長はどう落とし前をつけるか。引責辞任するだろうか。

(了)

【森村 和男】

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