上海の激変~ある日本人経営者から垣間見る(6)
-
2010年上海万博までで上海の激変の勢いはピークに達し、成熟進化都市へとステップする段階に入ってきた。1989年の30年前と比較すると100倍激変した上海も質的変化が感じ取られるようになった。
新開発地区・新天地に見られる変化
25年来の友人・劉が21日(日曜日)ホテルへやってきた。この友人は中国政府労働局所属、研修生派遣会社のナンバー2で采配を振るっている。日本にも3年間仕事で滞在したことがある。
彼が案内してくれたのは、2000年に香港資本によって開発された「新天地」だ。上海中心部東側に位置する。ショッピングモール、レストラン、事務所ビル、居住用マンションと、見た目は従来型の開発区。夜はバーなどがあり観光客がたむろする名所になっている。言わば老舗・外灘に対抗するほどの人気スポットだ
ところが歩いてみると、雰囲気が違うのだ。レストランに座っている人たちもゆったりとしたムードを醸しだしている。一昔前のエネルギッシュな生活スタイルが薄れているのだ。築100年以上経過している富豪の住宅が残っている。それを、入場料30元取って公開しているのだ。当時の金持ちの暮らしぶりが一目瞭然にわかるようになっている。
ふと思いだした。以前歩いた金沢の街並みの光景が浮かんできた。金沢は、街並みに面した住宅の持ち主が、軒先で展示品を並べている。立ち入るには入場料が必要なのだ。言わば隣同士が小さいテーマパークを競い合うような様相を呈している。
この光景こそが都市・金沢の成熟度合の深さを表したものだと感動したことを鮮明に記憶が蘇ったのである。この『新天地』を散策しながら「都市・上海も成熟段階に突入した」と改めて強く認識した。
ハングリー精神の喪失
都市の成熟だけではない。上海人そのものの意識が相対的に成熟してきたと感じた。劉氏の話に移そう。同氏は妻と共稼ぎして月収35万円を得ていた。事務所から4kmのところにマンションを購入したのが、1999年のことである(意外と中心部に近いところに買えたものだ)。現在の価格評価は購入時よりも3倍も上がっているという。劉氏は今年60歳になる。定年の歳になるわけだ。
「我々世代はただ一生懸命に働ければ給料もアップし続けてきた。たまたま購入していたマンションが3倍値上がりする運もついていた。定年後は夫婦年金生活で楽しもうというプランも練っていた」と振り返る。何か一昔前の日本で、定年前の男がのどかに老後を語る風景に似ているようだ。
ところがだ。「息子の代は大変だ。一定の生活水準を保つ生活維持は可能だ。だがマンションが値上がりし過ぎて、彼の給料では買えなくなった。気の毒な世代だ」と嘆く。
1人息子が結婚した。新郎側は自前の自宅を持っていなと恰好がつかない。親父としても世間体が悪いとして、息子に買ってやった。夫婦で貯めた老後資金を吐きだして購入資金に手当てしたのだ。「『最後は面倒見てもらおう』という魂胆もあった」と劉氏は正直に打ち明けてくれたので、議論の材料を投げかけてみた。
「息子さんがあなた方夫婦の老後に対して責任を持って介護してくれるか?疑問だ」と意地悪な発言をしてみたものだ。驚いたことに彼は反論1つせずに「多分、期待はできないであろう」と認めたのだ。
日本も中国も親子関係は同様の環境になっている。「我が夫婦と1人っ子の家族こそが大事」という風潮が蔓延しているのだ。親から受けた恩も忘れる家族絆の疎遠は同じということである。また今の上海の若者が結婚しなくなったことは、日本とも相通じる。「種の保存」意識が希薄になったのである。生物としての本能を忘却するようであればハングリー精神が喪失したと同然だ。
老人大国へ、その負担は!
(5)で述べたように女性の平均寿命は84歳、男性は80歳である。女性の定年は55歳とするならば平均寿命84歳、いや85歳として計算すると、国は30年間の面倒を看る責任が発生することになる。男性は定年60歳であるから平均寿命80歳とすれば25年間の年金生活となる。面倒を看てくれる世代(年金を積み立ててくれる、原資を納めてくれる世代)が増えていけば問題解決の一端は解決できるのだが……。
1973年から導入した1人っ子政策の影響で、中国の労働現役人口は急激に少なくなってきている。いまのところ1人っ子政策を解除したからといっても子どもを産む数が増加したという傾向にはなっていない。年金積立世代が増えないとなれば政府は定年延長を採用するしかない。いかに財政力がある中国政府・上海政府といえども、財政負担が足掛けになってくる。こういう現実に接すると日本こそがトップランナーであることを痛感する。
6回にわたってシリーズを連載したが、野中社長の成功の原因は(1)同氏の卓越した経営能力(2)都市上海の変貌の後押しだと指摘した。そして30年都市上海の変貌を目撃してきた筆者が、この一文をまとめる機会を得たことはこの上なく嬉しい限りである。
(了)
(登場する人物はすべて仮名です)関連記事
2024年12月20日 09:452024年12月19日 13:002024年12月16日 13:002024年12月4日 12:302024年11月27日 11:302024年11月26日 15:302024年12月13日 18:30
最近の人気記事
まちかど風景
- 優良企業を集めた求人サイト
-
Premium Search 求人を探す