【企業研究】看板商品が累計出荷本数3億本突破 ファンベース経営でV字回復目指す
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(株)ピエトロ
オリジナルドレッシングの製造販売やパスタ専門店の運営を手がける(株)ピエトロ。看板商品の「ピエトロドレッシング和風しょうゆ」が累計出荷本数3億本を突破して気を吐く一方で、原材料費高騰の影響によって2023年3月期は上場後初の営業赤字を計上した。
ドレッシングで急成長
始まりは1軒のパスタ店5月10日、(株)ピエトロは看板商品である「ピエトロドレッシング和風しょうゆ」の累計出荷本数(自社調べ)が5月8日付で3億本を突破したと発表した。
同ドレッシングはもともと、同社の前身となるパスタ専門店で、パスタの麺が茹で上がるまでの時間に前菜代わりに出していたサラダにかけられていたオリジナルのドレッシング。パスタ以上にドレッシングの評判が良かったことで、お客からの要望を受けて1981年に店頭販売を開始した。その後、83年には百貨店でも販売を開始したほか、95年からは全国の量販店での販売をスタート。2002年の累計出荷本数1億本突破、14年の2億本突破を経て、発売から42年目で今回の3億本突破となった。
同社は1980年12月、シェフでもある創業者・村田邦彦氏が福岡市天神でパスタ専門店「洋麺屋ピエトロ」をオープンしたのが始まり。前述したように、81年から販売を開始したドレッシングが大ヒットとなり、85年7月に(株)ムラタ(81年6月設立)のドレッシング事業部を分離独立して(株)ピエトロとして設立し、ドレッシングの製造・販売を開始した。一方で、86年2月にはFC第1号店となる洋麺屋ピエトロ久留米店をオープン。以降、ドレッシングの製造・販売と、FC展開を含めたパスタ専門店のレストラン運営を柱として、事業を展開していく。90年5月にはドレッシング製造工場(現・古賀第一工場)を福岡食品加工団地(古賀市)内に竣工し、96年7月には古賀第二工場も竣工。一方で、92年4月に海外1号店を米国ハワイ州ホノルル市にオープンするなど、海外にも店舗を展開。2002年4月に東証二部に上場をはたした。
そして07年9月には、日清オイリオグループ(株)(東京都中央区)と資本業務提携契約を締結した。もともと2社は植物油の取引関係にあったが、資本業務提携によって信頼関係をさらに深め、①ドレッシング事業・ブランドの価値向上、②商品・技術開発力の強化、③販売・マーケティング活動の強化、④コスト競争力の獲得などのシナジー効果を発揮していくことが狙い。これにより日清オイリオグループは同社の「その他の関係会社」に、同社は日清オイリオグループの「持分法適用関連会社」となった。
その後、15年12月には東証一部に指定替え(現在は東証プライム)を行い、海外子会社の清算や国内子会社の吸収合併などを繰り返しながら、現在は同社のほか、子会社3社およびその他の関係会社1社でグループを形成している。
好調な商品事業の一方で苦戦の店舗事業
事業セグメントでは、従来は「食品事業」「レストラン事業」としていたものを、23年3月期より「商品事業」「店舗事業」へと改め、それまで食品事業に含まれていた「直販事業」を店舗事業に組み込んだ。
商品事業は、「ドレッシングカテゴリー」「パスタカテゴリー」「冷凍食品カテゴリー」「その他カテゴリー」の4つのカテゴリーで構成。とくに主力製品であるピエトロドレッシング和風しょうゆをはじめとしたドレッシングカテゴリーは、顧客の食生活の多様化や健康志向に対応するため、ライト、グリーン、オリーブオイルドレッシング等の各種ドレッシングを製造販売し、同社の収益基盤となっている。また、パスタカテゴリーは商品事業の第2の柱として、おうちパスタシリーズや「洋麺屋ピエトロ」ブランド等のパスタソースを中心とした製造販売を展開している。
店舗事業では、創業以来日本人の食の好みに合わせて高菜や納豆、たらこ等の和風素材を取り入れたメニューをはじめ、常に新しいオリジナリティをもたせたメニューの開発を継続しながら、パスタを中心とした料理を提供。既存のレストラン店舗のほか、「PIETRO A DAY」ブランド等の直販店舗を、東北エリアを除く国内のすべてのエリアに展開するほか、米国ハワイ州にパスタ料理の直営店を1店出している。23年3月期末時点での店舗数は、直営店23店(うち海外1店)、FC店12店、直販店6店の計41店。
セグメント売上高で見ると、23年3月期では商品事業58億7,472万円、店舗事業30億7,694万円と、主力のドレッシングを擁する商品事業が全体の64%を占める一方で、店舗事業は33%と商品事業の約半分の比率となっている。また、セグメント利益を見ると、コロナ禍の影響があったとはいえ、レストランをはじめとした店舗事業は近年赤字を頻発しており、全体の足を引っ張っている感は否めない。そのため、店舗事業については、撤退も議論すべきという投資家の声もある。
だが、この点について同社は、自社の始まりがパスタ専門店であり、同社のすべての商品の根幹にはレストランがあるとして、事業を撤退するつもりはないと明言。そのうえでしっかりと黒字化を目指し、主要都市に同社レストランを出店することで、メニューや商品の体験・認知の場、ファンとの交流の場をつくり、事業の柱の1つとして据えていきたい考えだ。
原材料費高騰&価格改定で上場後初の営業赤字
業績面では、02年の上場以降、リーマン・ショック前後やコロナ禍で80億円台に落ち込んだ以外では、概ね売上高100億円前後で推移。利益面でも、03年3月期から22年3月期までの20年間で、最終赤字を計上したのは05年3月期と09年3月期の2回で、そのいずれも店舗閉鎖などにともなう固定資産の減損等の特別損失の計上が要因だ。それ以外の期では、売上高の一進一退はあるものの、毎期着実に利益を積み重ねてきた。
21年3月期は、コロナ禍の影響で店舗事業は苦戦を強いられたが、巣ごもり特需などの影響で商品事業は好調となり、売上高98億6,971万円(前年同期比3.4%増)、営業利益5億8,534万円(同20.3%増)、経常利益5億7,524万円(同20.5%増)、当期利益3億2,055万円(同44.8%増)と増収増益となった。
続く22年3月期は、店舗事業はやや回復傾向となった一方で、商品事業は前期の巣ごもり特需の反動減となった。また、同期より会計方針の一部変更を実施し、一部の取引に対して収益の認識を売上高から販促費などを控除した純額計上に変更。売上高85億4,047万円(同13.4%減)、営業利益3億5,330万円(同39.6%減)、経常利益3億6,903万円(同35.8%減)、当期利益1億6,523万円(同48.5%減)の減収減益となった。
直近の23年3月期は、コロナ禍の影響が弱まったことで店舗事業は好調に推移した一方で、原材料費高騰やそれにともなう年度内の2度にわたる価格改定実施の影響で商品事業が減収減益となり、全体では売上高91億826万円(同6.6%増)に対し、営業赤字7,581万円、経常赤字8,185万円、当期赤字3億9,951万円の赤字決算となった。最終赤字は09年3月期以来の14年ぶり、営業赤字は02年の上場後で初となった。
財務面を見ると、自己資本比率は57.2%(前年同期比3.0ポイント減)、流動比率104.2%(同6.8ポイント減)、当座比率87.5%(同5.9ポイント減)と概ね堅調な水準にある。キャッシュフロー(CF)の推移を見ると、営業CFは毎期プラスの一方で、投資CFおよび財務CFはほぼ毎期マイナスとなっており、営業活動で生み出した現金を投資活動や借入の返済に充てている様子がうかがえる。
24年3月期は売上高101億7,000万円、営業利益2億5,000万円、経常利益2億4,200万円、当期利益1億2,000万円を予想。原材料価格が高止まりしているなかでも、価格改定効果や店舗回復などによってV字回復を見込んでいる。
新工場は25年秋稼働予定
ファンベース経営を推進現在、同社は中長期における事業成長への布石として、「新工場」と「北米事業」の2つを挙げている。このうち新工場は、現在は古賀市の福岡食品加工団地内に構えている第1から第3までの3つの工場を古賀市青柳釜田地区に集約し、生産性の向上を図ると同時に、最新設備を通じて消費者により安全・安心な商品の提供を行うもの。また、工場で働くすべての従業員が快適に働ける職場環境を整備する。新工場内には、年代を問わない工場見学コースを設置するほか、古賀市内への出店としては約20年ぶりとなるレストランも併設。レストランは食育イベントや料理教室の場としても利活用可能で、地域に開かれた交流拠点としての機能発揮も期待される。新工場の建設に先駆けて、21年3月には古賀市と立地協定を締結。今後は24年6月の着工および25年秋の稼働開始を予定している。
一方の北米事業は、北米市場におけるメインストリームと位置付ける米国系チェーンストアへの販促強化およびECモールへの販路拡大を目指して先行投資を行うもの。その一環として、21年7月に米フロリダ州で子会社PIETRO NORTH AMERICA,INC.(以下、NORTH AMERICA社)を設立した。それまで同社の米国におけるドレッシングの製造・販売は、米ハワイ州で現地レストランの経営を手がける子会社のANGELO PIETRO,INC.(10年8月設立/以下、ANGELO社)が担い、西海岸を中心に配荷を行ってきたが、米国本土のNORTH AMERICA社がANGELO社のドレッシング事業を継承。より市場の大きい東海岸もターゲットに見据えながら、北米でのさらなる事業の成長、拡大を目指している。
こうした事業成長への布石を打つ一方で、22年5月に同社が目指す未来の姿である「PIETRO VISION」を公表。これは、20年の創業40周年の節目を機に同社社員全員の「こうなりたい」「こんな未来にしたい」をいう想いを集めて策定したもので、創業者が定めた経営基本方針や行動規範、そして創業者の言葉や想いをつづったスピリッツを土台として、同社のこれからのさらなる成長および企業価値の共有化を目指したもの。目指す姿を「“未来へ”しあわせ、つながる」として、「お客様」「働く私たち」「社会」の3つの幸せが連鎖する未来を描いている。また、テレビCMなどのマス広告を20年4月までで取り止める一方で、自社のコミュニティサイト「ピエトロ ファンコミュニティ」を開設。同コミュニティサイトでの交流をはじめとしたファンとのコミュニケーションを基軸に、ファンを大切にしてその声を経営に生かすことで、中長期的に売上や事業価値を高める考え方である「ファンベース経営」を推進している。
原材料費高騰などの影響で上場後初の営業赤字決算に見舞われた同社だが、新工場の稼働や北米事業の強化などの布石を基に、ファンベース経営の推進によって新たな成長曲線を描いてV字回復となるか、その動向が注目される。
【坂田 憲治】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:高橋 泰行ほか2名
所在地:福岡市中央区天神3-4-5
設 立:1985年7月
資本金:10億4,238万9,760円
売上高:(23/3連結)91億826万円関連記事
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