2024年07月16日( 火 )

九州の物流の「2024年問題」対策 再配達解消とモーダルシフト推進の必要性(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

運輸評論家 堀内 重人

 現在、九州自動車道の久留米ICと広川ICの間にスマートICの新設を目指す計画があり、九州物流の要衝である久留米・鳥栖地域の重要度はますます高まっている。その一方で、2024年度には、トラック運転手への残業規制強化を控え、その対策として、再配達を極力なくすなどして運転手の生産性向上や、物流のトラック依存を低減するためにフェリーや鉄道へのモーダルシフト(環境負荷の小さい輸送方法へ転換すること)を推進する必要がある。九州の現状を踏まえてそれらの点について考察する。

久留米・鳥栖界隈に2つのスマートIC構想

 福岡県久留米市から佐賀県鳥栖市にかけた地区は九州、長崎、大分の3つの高速道路が交わることから、周辺には自動車や食品、バイオなどの産業が集積し、物流拠点や工場が集中しているが、その結果、近年では新たな工場用地が不足するとともに一帯で交通渋滞が発生するなどの問題も発生している。

 そのような中、久留米市は、近く国にスマートICの設置を要望する。スマートICとは、高速道路の出入口としてETC搭載の自動車のみが通行可能なICのことであり、料金所の係員がいなくとも、高速道路のへの通行が可能となるシステムである。スマートICが設けられる場所は、3つの自動車道が交わる鳥栖JCTから、南に10km強離れた九州自動車道の久留米ICと広川ICの間である。

 また、鳥栖JCTの3km南には、「小郡鳥栖南スマートIC」が、24年度内にも完成する予定である。地元では周辺に産業団地の造成を検討する動きもあり、鳥栖JCTに近接する新たな物流拠点の整備に期待が向けられている。

 これら新しいICの設置によって、周辺に新たな工場立地が期待できるが、その反面、周辺地域の道路交通渋滞の激化も懸念されている。

物流業界の2024年問題

トラック輸送 イメージ    24年4月からトラックの運転手に対する時間外労働の規制が強化される。これはトラック運転手の労働環境が悪く、過労死が多く発生したり、職場への定着が悪い現状を改善するため、24年4月から時間外労働の上限が年間960時間に規制されるものだ。規制が強化されると、年間6万人程度の運転手の労働力に相当する生産性の低下が懸念されている。

 このようなことから物流業界では24年に、運転手1人あたりの生産性の減少にともなって貨物輸送量も減少することが懸念され、「2024年問題」と呼ばれている。

 23年1月17日に国の検討会は、荷主側の企業が運送事業者に対して無理な要求を行わないようにさせると同時に、納入先での待機時間や納品回数を減らすなど計画的な改善を促す措置を検討すべきだとして、法律上の規定を設けた。同時に、物流の効率化によって労働時間を減少させることで、貨物の輸送力減少への対策とする取り組みなどを盛り込んだ中間報告の案を了承した。

 具体的には、荷主側に物流の改善計画を策定するよう法律で規定し、計画から大きく逸脱した場合は国が勧告を行うなど、トラック運転手の過労死などを軽減させ、労働環境を改善することを目的とした内容になっている。

 国の検討会の座長をつとめる敬愛大学の根本敏則教授は、中間報告の案について検討会で了承を得られたことは大きな意義があるとの考えを示した。またその一方で、物流業界では中小の運送会社が多く、それらの事業者は荷主の無茶な要求を断りにくいという雰囲気があるため、荷主も巻き込んで対策を進めていく必要があるとし、今回の中間報告は一定の成果があったと評価する一方、「2024年問題」まで残された時間が少ないため、どこまで物流業界を変えられるかが課題との認識も示した。

消費者側の意識改革も必要

 トラックの運転手に対して過度な負担を掛けている現在の物流事情に関しては、一般の消費者も宅配の再配達を減らすことなどに協力が必要である。

 国土交通省が、22年10月に行った調査では、再配達となる荷物の割合は11.8%となっていた。つまり10個に1個が、1回の配達で届けられない状況である。

 運転手の負担となっている再配達を減らすため、国土交通省は自宅で確実に荷物を受け取ることができる時間指定を奨励している。また急な予定変更があった場合には、配達前にアプリなどで配達の日時を変更できるサービスを提供している宅配事業者もある。さらに不在の場合でも、玄関先に設置した宅配ボックスなど、あらかじめ指定した場所に荷物を届けてもらう方法や、駅やスーパーなどに設置された「宅配ロッカー」やコンビニなど、自宅以外の場所に荷物を届けるサービスもあり、こうしたサービスは運転手の負担軽減につながるため、たとえば、日本郵便ではマンションの住民に対しては、不在時は生鮮食品を除いて、宅配ボックスを活用するようにしている。

 またどの業者が、どの時間帯に荷降ろしするのかなどの情報をスマホによって把握できるようにすれば、運送事業者には、空いている時間を予約してもらえば、その時間に合わせた効率的な輸送が可能になるなど、ICTを活用することによる再配達と集荷の効率化の余地は十分あるだろう。

(つづく)

(後)

関連キーワード

関連記事