2024年12月22日( 日 )

省資源・CO2の貢献度が高い既存住宅改修=住友不らの共同研究

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 住友不動産は東京大学大学院、武蔵野大学工学部とともに2021年12月から、「ストック(既存、中古)戸建住宅の改修における環境評価手法の確立を目的とした共同研究」を行っている。新築に比べ、進展が遅いストック住宅の断熱・省エネ化を推進するうえで示唆に富むため、その研究内容と明らかになってきた事項を以下に紹介する。

 ストック住宅改修については、すべてを撤去し、いちから組み上げる「新築建替」より、基礎や構造体などを再活用して「全面改修」する方が、廃棄物排出や資源投入量が少なく、省資源・省CO2への貢献度が高いと推測される。しかし、これまでは科学的な検証が行われていなかった。

 そこで「全面改修(省エネ性能向上、以下、省エネ改修)」「全面改修(非省エネ改修)」「新築建替(以下、建替)」の3パターンについて、CO2排出量などを科学的に研究し、推測の正しさを確認するのがこの研究の狙いだ。

 調査には、住友不動産が蓄積した年間約8,000棟のリフォーム物件データを活用。さらに、改修現場における3Dモデリングなどデジタル技術を活用した調査を実施している。

 改修による資源循環性や、CO2排出量の削減効果といった建物改修における「環境評価手法」を新たに構築することを目指し、東京都内の改修現場(3棟)で実施。研究は現在、第2・第3フェーズまで進んでいる。

 第1フェーズではストック住宅(戸建)における施工時の資源投入量・廃棄物排出量に係るCO2排出量を、新築建替と「改修(省エネ・非省エネ)」で比較。その結果、新築建替に比べて、改修の排出量は47%削減されることを確認している。

新築より早くLC脱炭素化

 第2・第3フェーズに関する報告では、ストック戸建住宅の「改修による長寿命化」(改修によるZEH化・ライフサイクル(LC)脱炭素化)の効果を検証したところ、省エネ改修は新築建替より早く、約35年でライフサイクル脱炭素を達成可能としている。

 また、施工時と居住時のCO2排出量を合算したライフサイクルCO2排出量を比較すると、リフォーム完了から10年目までは、施工時CO2排出量が少ない非省エネ改修が最も優位になる結果となっていた。

 ただ、その一方で10年目以降については施工時のCO2排出量を新築建替より抑え、かつ新築並みの断熱性能を有する、省エネ改修が最も優位になったと報告している。

 さらに、ライフサイクルCO2排出量に太陽光発電の効果を追加すると、省エネ性能が高い物件では、居住時エネルギー量よりも創エネルギー量が大きくなり、年間CO2排出量はマイナスになるとしている。

 その結果、断熱・省エネ性能に劣る非省エネ改修は、CO2排出量が長期的に増加するが、新築建替、省エネ改修はCO2排出量が低減。すべてを統合すると、省エネ改修が3つのうちで最も早くライフサイクル脱炭素を達成可能であることが確認できたとしている。

重要度増す科学的根拠の提示

 ところで、上記のような研究が行われるのは、2050年カーボンニュートラルに向けた目標として、家庭部門におけるCO2排出量削減が重要視されているからだ。ただ、新築でZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及など対応が進んでいる一方で、ストック(既存・ストック)住宅については改善が停滞している。

 ストック住宅は約5,000万戸もあり、その大半は断熱性能が低い。つまりはCO2排出量が多いということで、家庭部門のCO2排出量削減、カーボンニュートラル社会の実現に向けてストック住宅の断熱・省エネ改修を推進する意義は大きい。

 なお、ストック住宅の断熱リフォーム・リノベーションを推進すると、室内においてより快適に過ごせるようになることから、住まい手の健康にも良い影響をおよぼすともされている。

 そこで国は、今年3月末から「住宅省エネ2023キャンペーン」をスタート。総額2,800億円に上る予算を組み、そのなかで窓の断熱性を強化する先進的窓リノベ事業(以下、窓リノベ事業)」などを実施するなどし、ストック住宅の環境性能を高めようとしている。

 ただ、ストック住宅の断熱リフォーム・リノベーションの効果はこれまで、事業者などの経験、感覚に基づいて語られることが多かった、つまり科学的な根拠が示されるケースが少なく、それも断熱・省エネ化が進まない理由の1つとなってきた。

 住友不動産と東大大学院、武蔵野大学の共同研究は、ストック住宅の質的向上を図る上での根拠の1つとなるとともに、それによる消費者や事業者のストック住宅への理解の向上、さらには流通市場の活性化にも影響を与えるものと考えられるため紹介してみた。

【田中 直輝】

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