2024年11月05日( 火 )

売上高1兆5,000億円超、近鉄グループの概要(前)

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運輸評論家 堀内 重人

 (株)近鉄グループホールディングス(以下、近鉄GHD)は、大手私鉄の(株)近畿日本鉄道(以下、近鉄)、(株)近鉄百貨店、(株)近鉄エクスプレス、近畿日本ツーリスト(株)などを中核とする、近鉄グループの持株会社である。

 2015年4月1日付けで旧近鉄を近鉄GHDに社名変更したうえで、鉄軌道事業を新生の近鉄に、不動産事業を近鉄不動産に、ホテル・旅館事業を近鉄ホテルシステムズ(同日付で近鉄・都ホテルズに社名変更)、流通事業を近鉄リテーリングに、それぞれ分割し、純粋持株会社に移行した。

 23年3月期の連結決算は、22年の近鉄エクスプレスの連結子会社化により、売上高が1兆5,610億円であり、純利益が887億円であった。この売上などは、JR西日本、近鉄GHD、阪急阪神ホールディングス、京阪ホールディングス、南海電気鉄道の関西大手民鉄5社のなかで首位になった。

 本稿では、近鉄グループの中核となる鉄道事業、不動産事業と百貨店を含めた流通事業について解説した後、全体の総括を行いたい。

鉄道事業

 近鉄は、大阪府・奈良県・京都府・三重県・愛知県の2府3県で鉄道事業を行っている日本の大手私鉄の1つであり、近鉄GHDの子会社である。

 JRグループを除けば、日本の民営鉄道のなかでは、最長の501.1 kmの路線網をもっており、幹線には有料特急が運転されており、近鉄の稼ぎ頭となっている。主要幹線は大阪線・名古屋線であり、名阪間の看板特急は「ひのとり」(写真1)である。

写真1:名阪甲特急の花形「ひのとり」
写真1:名阪甲特急の花形「ひのとり」

 長大な路線網をもっているということは、ローカル線を多数所有していることも意味する。以前は、岐阜県に養老線や三重県に伊賀線、そして北勢線や内部線・八王子線も所有していたが、それらのうち、養老線は養老鉄道へ、伊賀線は伊賀鉄道へ、北勢線は三岐鉄道へ、内部線・八王子線は、四日市あすなろう鉄道へ経営が移管されている。

 吉野線、志摩線、湯の山線などがローカル線であるが、吉野線は大阪阿部野橋からの直通特急が運行されており、吉野・飛鳥などの観光地を控えることから、「青のシンフォニー」「さくらライナー」という、観光特急も運転されている。

 志摩線には、大阪難波、名古屋、京都から直通の観光特急「しまかぜ」や「伊勢志摩ライナー」が運転されており、志摩線の賢島周辺は伊勢志摩国立公園に指定されていることもあり、近鉄グループも「志摩スペイン村」などの観光開発を進めており、これらの観光地が特急電車の需要を創出している。

 昨今の近鉄であるが、大阪市内では地下鉄の整備が進んだことや、人口の都心回帰の影響もあり、通勤・通学需要は減少傾向にある。

 また、特急電車を含めた長距離輸送であるが、高速道路の延伸やレジャーの多様化もあり、特急の利用者数は2002年度を「100」とすれば、コロナ以前の18年は「40」というように、大幅に利用者が減少している。

 そこでマーケット調査を入念に行い、先述の「ひのとり」の他、「しまかぜ」(写真2)「青シンフォニー」「あをによし」というかたちで、観光やビジネスに特化した個性的な特急電車の導入を進めている。

写真2:伊勢志摩方面へ向かう観光特急「しまかぜ」
写真2:伊勢志摩方面へ向かう観光特急「しまかぜ」

不動産事業(近鉄不動産)

 近鉄不動産は、1968年4月1日に近鉄の不動産部門を分社化して設立。2015年4月に、近鉄グループの持株会社化(近鉄GHDの発足)にともない、近鉄の不動産事業を分社型吸収分割により承継している。それにともない、近鉄グループの象徴であるビルとして日本一の高さを誇り、大阪阿部野橋駅を内包する、「あべのハルカス」を始めとするオフィスビル、商業施設、高架下の運営・管理も行うようになった。

 近鉄不動産の事業内容であるが、総合デベロッパーとして、近畿圏を中心にオフィスビルの賃貸や商業施設の運営、新築マンション・戸建の分譲事業、不動産仲介事業、リフォーム事業などの住宅関係の業務だけでなく、駐車場事業、高架下事業なども行っている。それ以外に、メガソーラー発電事業、農業事業、ゴルフ場の経営など、幅広く展開している。

 たとえば、JR九州は、戸建の分譲などは、オーダーメイド的な様子が強いため、あまり行っていないが、マンションであれば規格を決めて販売できるため、こちらを積極的に事業展開している。JR九州では、マンションの分譲販売が好調であり、鉄道事業の損失を完全に内部補助しており、JR九州のドル箱事業になっている。

 一方、近鉄不動産のマンションの販売戸数は、近畿圏で首位を争うぐらいの実力があり、02~04年、07~08年の実績では首位であった。昨今では少子化などの要因もあって、鉄道の利用者は横ばいから、やや減少傾向にあるため、近鉄不動産が近鉄の駅前にマンションを整備することで、鉄道利用者の落ち込みを極力少なくする効果がある。

 また「あべのハルカス」の開業は、大阪に新たな観光拠点が誕生したことにともない、南大阪線・吉野線沿線から大阪阿部野橋へ向けた観光需要を創出することが可能となるだけでなく、あべのハルカス近鉄本店の売上にも貢献する。

 さらに首都圏では、首都圏事業本部、中京圏では名古屋事業本部を設置している。これらの事業本部では、オフィスビル・商業施設の賃貸やマンション・戸建の分譲、不動産仲介を行っている。

 近鉄グループでは、中期経営計画の柱として、「首都圏での不動産事業の強化」を重要テーマと位置づけており、東京都中央区に所在するオフィスビル「京橋スクエア」の取得を皮切りに、賃貸用優良資産の取得を進めている。

(つづく)

(中)

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