コスモHD、特定株主排除という「秘策」で旧村上ファンド系に対抗(後)
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「妖怪が株式市場を徘徊している。MOMという妖怪が」。共産党宣言の冒頭の「妖怪がヨーロッパを徘徊している。共産主義という妖怪が」のくだりをなぞらえればこうなる。MOMという妖怪は「マジョリティ-・オブ・マイノリティ-」と呼ばれ、「少数派の過半数」を意味する。採決にあたり、少数株主(マジョリティ-)の過半数で決める。MOMの実験場となったのが、石油精製大手コスモエネルギーホールディングス(以下、コスモ)の定時株主総会だった。
ニチイ学館のMBOで「少数株主を軽視」と批判を浴びる(つづき)
20年5月、ニチイの社外取締役・杉本勇次氏が日本代表を務める米系ファンドのベインキャピタルと組んでMBOをすると表明。1株1,500円で株式を取得し、非上場化することを目指した。
「買収価格は安すぎる」「少数株主を軽視している」と、香港の投資会社、リム・アドバイザーズが質問状を相次いで公表、MBOの公正価格の決定を求めて東京地裁に提訴した。
株価はTOB価格を上回り続け、経営陣側がTOB期間を再三延長する異例の展開となった。TOB価格を当初の1株1,500円から1株1,670円に引き上げた末に8月に成立、10月の臨時株主総会で上場廃止が決まった。
ニチイ学館の攻防戦では、少数株主の利害が損なわれる恐れがあるとして、MOMの重要性が見直された。
MOMは東京機械の買収防衛策の決議で使われ、正当性が認められた
MOMは、輪転機メーカーの東京機械製作所によって21年に買収防衛策の決議で使用された(「新聞業界に激震、輪転機最大手・東京機械製作所が乗っ取られる?!~買収防衛策でアジア開発キャピタルに対抗」)。新聞用輪転機メーカーの名門が乗っ取られる事態に、新聞・通信40社の経営トップが懸念を表明する事態になった。
東京機械は「買収防衛策」の発動で対抗。アジア開発キャピタルは買収防衛策の発動差し止めを求めて東京地裁に提訴した。東京地裁は21年10月29日、アジア開発側の申し立てを却下する決定をした。
東京機械の支援に乗り出した新聞側はどう伝えたか。後に、ホワイトナイトとして東京機械に出資する読売新聞グループ本社は、同日付「読売新聞オンライン」で、「東京機械の防衛策認める、少数株主の判断『不合理といえず』・・・東京地裁」と報じた。
仮処分申請は、東京機械の臨時株主総会で、アジア開発など利害関係者を除く少数株主で防衛策を可決した是非が争点となった。MOM方式による防衛策の発動を容認した司法判断は初めてだ。
〈アジア開発側は、MOM方式は会社法が規定する「株主平等の原則」に反した違法だと主張したが、決定は、アジア開発側が3カ月間で大量の株を買い集めた一方、具体的な経営方針や事業計画を明らかにしなかったことを踏まえ、「買収によって会社や株主の利益が害されるかどうか、少数株主自身に判断させることが不合理とはいえない」と判断した。
その上で、臨時株主総会で防衛策への賛成率が79%に上ったことから、「アジア開発側を除く株主のほとんどが、買収によって利益が損なわれると判断した」と指摘。「防衛策は企業価値が損なわれるのを防ぐために必要な措置で、著しく不公正とはいえない」と結論づけた〉
(前出読売新聞オンライン)高裁、最高裁まで争われた末に、最高裁が正当性を認めた。これで、コスモは買収防衛策の決議に、旧村上ファンド系の参加を認めないMOMを取り入れた。
最高裁がお墨付きを与えたため、今後、「物言う株主」に対抗する切り札として、買収防衛策の決議にMOM方式を採る企業が増えそうだ。だが、気に食わない特定の株主を排除する手法がまかり通れば、「株主平等の原則」で成り立っている株主総会の根幹が覆されることになる。
(了)
【森村 和男】
法人名
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