【倒産を追う】急成長を支えた高値買取が仇に 相場で打たれた鉄スクラップ卸の守田
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(株)守田
弊誌No.2853号破綻情報(モルグ)で既報の通り、鉄スクラップ卸の(株)守田は7月12日までに事業を停止し、破産手続き申請の準備に入った。負債総額は約30億円。海外メーカーを主力販売先に、設立3年で売上高200億円超にまで急成長した同社だったが、5年の節目を迎えることはできなかった。
設立から3年で売上高200億円超
(株)守田は守田幹弘氏が前職の経験を生かし、2019年9月に設立した鉄スクラップ卸業者。主に地場産廃業者から仕入れた鉄スクラップを韓国やベトナムなどの海外企業に販売していた。登記上の本社となっているアイランドシティ(福岡市東区)内のマンションは守田代表の自宅であり、実際は鉄スクラップ置場(以下、ヤード)と同一敷地内に設置されていた小倉日明事務所(北九州市小倉北区) が本社機能を有していた。
後発企業ながら韓国の現代(ヒョンデ)自動車グループの1社で、製鉄業者の現代製鉄を主要販売先に業績は急拡大していく。20年8月期の売上高は約43億円だったが、21年8月期には約140億円まで伸長。設立後、矢継ぎ早に複数の地場産廃業者を仕入先として開拓できたことが、同社が躍進する原動力となった。
通常、新規参入業者がスムーズに仕入先開拓を行うのは困難だが、守田代表は同業の北九メタル(株)(北九州市八幡西区)の代表・守田幹雄氏の子息であり、業界関係者間ではすでに顔が知られていた。北九メタルで実務経験を積んだ後、独立する格好で守田を設立したということであれば、仕入先となった産廃業者も守田との取引開始に身構えることはなかったのではないだろうか。
守田は鉄スクラップ収集用のダンプ車を所有しており、福岡にとどまらず熊本にも仕入れに出向いていたようだ。鉄スクラップは廃棄物ではなく有価物(その物自体に価値がまだ残されている物)であり、産業廃棄物収集運搬業許可を必要としない。鉄スクラップに特化した背景には、こうした事業の進めやすさもあったのかもしれない。
これまでの経験と経歴を生かした仕入先の確保、国内における鉄スクラップの仕入価格と、海外企業への販売価格との価格差を考慮したうえでの、海外企業に狙いを絞った販路の構築。これらが相乗効果を発揮し、設立から3年目となる22年8月期には守田の売上高は200億円を突破した。
高値買取という呪縛を背負う
先述の北九メタル(守田幹雄代表)をはじめ、守田代表は親和スチール(株)(守田幸泰代表)、(有)和泉特殊金属(守田邦彦代表)とも親族関係にあり、地場産廃業者からは福岡の鉄スクラップ業界における華麗なる一族の一員として知られている。しかし、親族間の仲は決して円満ではなかったとの話も聞かれた。守田設立の経緯も北九メタルでの経験を基に独立したというより、親子間で軋轢が生じ、守田代表が北九メタルから飛び出していったという見方が大半を占める。
守田代表の経験と経歴が、仕入先開拓の一助となったことは間違いない。しかし、鉄スクラップの仕入先開拓において、最も効果を発揮したのは高値買取だ。業界関係者によれば、守田は市場価格に5%上乗せした価格で鉄スクラップを買い取っていたという。
鉄スクラップは原油などと同じで世界中で取引されており、その価格は国際相場や、地域の需給バランスなどを参照しながら決定される。日本国内における買取価格は、主に電炉メーカー(鉄スクラップを原料として電気炉で鉄鋼を生産する鉄鋼メーカー)が指標となる数字を提示している。
(一社)日本鉄リサイクル工業会が発表している、日刊市況通信引用資料によれば、守田設立時(19年9月)の九州における鉄スクラップ買取価格は、2万3,500円/t。これに5%上乗せすると、約2万4,600円/tになる。対して、主要販売先である韓国を含む海外への同時期の輸出価格は2万4,849円/t(関東鉄源(協組)発表資料参照)。守田は東京製鐵(株)が発表している国内鉄スクラップ購入価格表を参照していたとされるが、鉄スクラップの買取価格・輸出価格は毎月変動することから、守田が高値買取で利益を創出できていたかどうかは定かではない【表参照】。
業界関係者からは、守田は最盛期には2~2万5,000t/月の鉄スクラップを仕入れていたとの話が聞かれた。福岡の有力鉄鋼製造業者(株)トーカイ(北九州市若松区)でも月2万tを仕入れることはないとされる。守田の高値買取がなせる業といえるが、取引先からは早い段階で資金繰りを心配する声が挙がっており、業界の常識では考えられない、異様な価格設定だったことがうかがい知れる。仮に買取価格が2万5,000円/t、仕入れ量2万5,000t/月だった場合、守田が仕入先に支払う総額は6億2,500万円にのぼる。
守田設立時の19年から取引していたというA社は、500~600t/月の鉄スクラップを守田に販売していたという。相場によっては、最高で1億円/月の取引もあったようだが、当初から守田の高値買取を不安視しており、積極的に取引を拡大することはなかったという。A社の懸念通り、守田の支払い遅延が21年ごろから始まる。同じころ、守田が別の取引先に対しても支払い遅延を起こしているとの話が同業者間で出回り始めたことを受け、A社は守田との取引を控えるようになった。23年のゴールデンウイーク前に守田代表はA社を訪れ、遅延分はゴールデンウイーク明けに支払うと伝えていたようだが、その約束が果たされることはなかった。
少なくとも、A社への支払い遅延が始まった21年ごろには、守田は鉄スクラップを高く仕入れ、安く販売せざるを得ない“逆ザヤ”状態に陥っていたものと推察される。販売価格は自助努力のおよばない相場に左右されるほか、主要販売先の現代製鉄が拠点を置く韓国では、日本からの鉄スクラップ輸入規制(放射能検査の強化など)が実施されていた。守田の急成長を支えた高値買取は、買取価格を上回る金額で海外企業に販売するという前提が崩れた途端、事業の継続が困難になる、まさに諸刃の剣だ。
また、北九州にある守田の小倉日明事務所とヤードはどちらも賃借。同事務所は北九州市港湾空港局が管理しており、守田からの賃料の支払い状況について同局港営課は「お答えすることはできません」としている。
複数の裁判を抱えたまま破産
支払い遅延を起こしていた守田は、複数の取引先から売買代金の支払いを求め訴えられている。訴状によると、B社は約1,400万円、C社は約4,300万円の支払いを求めている。両社ともに、守田との取引は守田設立時の19年から始まっている。B社は23年3月に約2,400万円分の鉄スクラップを売却し、引き渡しも済ませたが、守田からは4月に1,000万円の支払いがあったのみで、以降残金が未払いのままとなっている。C社への支払いは23年3月から滞り始めており、それまでは遅れることはあっても全額支払われていたとされていることから、23年初春に守田の資金繰りが急速に悪化した様子がうかがい知れる。裁判には発展していないが、守田に7,000t~/月販売していた産廃業者もいるようで、守田倒産の余波は今後さらに広がっていくものと思われる。
複数社とのトラブルを抱えたまま、守田は23年7月12日までに事業を停止、事後処理を弁護士に一任し、破産申請の準備に入った。負債総額は約30億円で、金融債務と仕入債務がほぼ半々。銀行からの借入は、鉄スクラップの仕入れにともなう代金の支払いに充てていたと見られる。破産申請の準備に入る前に、守田の弁護士から取引先に対して債権の8割カットの要請があったようだ。最後まで事業継続の道を模索していたようだが、世界的に脱炭素化の流れが加速するなか、電炉の主原料となる鉄スクラップ価格が高騰している現状※を考えると、一度信頼を失い、強みだった高値買取も使えない守田に再び鉄スクラップを販売する取引先は現れないと思われる。仕入先を確保できたとしても、熾烈な価格競争に耐えられるかもわからず、海外企業への販売価格も今は高くても相場変動でまたいつ落ち込むかわからない。事業の性質上、安定感を欠いた収益構造を余儀なくされていた守田は、相場で打たれ、自らの強みである高値買取が仇となり、事業継続の道を断たれたのだ。
【代 源太朗】
※鉄スクラップと脱炭素…製鉄所のメイン設備である高炉(溶鉱炉)は原料の鉄鉱石を溶かして銑鉄(せんてつ)を取り出すための炉。稼働には、コークス(石炭を蒸し焼きにしたもの)を燃焼させて熱源として活用するが、このとき大量のCO2が発生する。対して、電炉は鉄鉱石ではなく鉄スクラップを原料とし、電気で溶解・精錬することで鉄鋼を製造する。電炉はコークスを燃焼させない分、CO2の排出を抑えられる。コークスの代わりのエネルギー源として大量の電力を消費するが、同じ生産量なら高炉と比較してCO2排出量を4分の1程度まで抑えられる。 ^
<COMPANY INFORMATION>
代 表:守田 幹弘
所在地:北九州市小倉北区西港町118
登記上:福岡市東区香椎照葉5-1-12
設 立:2019年9月
資本金:900万円
売上高:(22/8)205億8,100万円関連記事
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