新しいお墓の形~家族、生き方、お墓が変わる(5)寺院墓地も変わる
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働き方や生き方、家族まで、あらゆるものが変わりつつある現在。この変化は浮世の生にとどまらず、死後の世界にも押し寄せている。すなわち、お墓である。本記事では、現代の標準的な家墓のルーツも確認しながら、お墓の新しい在り方を紹介する。
寺院墓地の変化
本シリーズの締めくくりに、寺院墓地について触れよう。江戸時代、キリシタン対策のために寺請制度が導入され、現代の戸籍にあたる宗門人別帳が作成されるなど、寺院は民衆管理の基盤となった。同時に、檀家は檀那寺をお布施で経済的に支え、寺の方は檀家の墓所を管理する、という関係が確立した。
現在、地方を襲っている人口減少は檀家の減少を招き、寺院の経営を圧迫している。一方で、多死社会は都市にも地方にもあまねく広がっている。身寄りがなく、経済的な余裕もなく、死後の寄る辺となる墓所をもとめる人は後を絶たない。家墓を承継する人は地方の寺院から消えていく一方だが、お墓をもたない人を納骨堂や合祀墓のようなかたちで受け入れる場所として、地方の寺院の重要性は増している。
本来、寺院には宗派があるが、現在はインターネット上でお墓の売買を仲介する業者と提携し、宗派などにかかわらず納骨者を広く受け入れる寺院が増えている。そこで販売されている多くのお墓の形式は、従来型の家墓ではなく、樹木葬のような墓仕舞いまでがセットになった形式だ。将来の墓守の負担も追加費用も不要なセットは、購入者ばかりにメリットがあるのではない。墓仕舞いがセットになったお墓は、13回忌や33回忌で墓標が整理された後、その区画を次の人に販売することができる。また、家墓のように承継者がいなくなって放置された墓の処理に困らなくて済む。家墓の承継が難しくなりつつあるこの時代、墓地経営者にとっても好ましいお墓の形式なのである。
つまり、寺院にとって家墓の問題は、檀家が減りお布施の収入が減ることばかりではないのだ。将来的に承継者がいなくなるかもしれない家墓の存在それ自体が、寺院関係者にとっては悩ましい問題となっているのである。とある古刹の寺院関係者は次のように語る。
「うちの墓地では、もう何年も前から新しいお墓の建立はお断りしています。新しいお墓を建立されても、いずれお墓の承継者と連絡が取れなくなる可能性がある。そうなると、お墓の処理が寺院にとって負担になるからです。ですから、もうだいぶ前から当寺院では、檀家であるかどうかにかかわらず、納骨堂と位牌堂での受け入れしか行っていません。」
この寺院の墓地は、戦後、墓地を整理して区画を売り出すことを、そもそもあまり行っていなかったのであろう。住宅地の間に所在しながら、江戸時代からの土葬墓のままと思われる墓が多く見られた。今となっては、費用をかけて区画整理を行い、家墓を新たに受け入れても、檀家としてお布施を期待することは見合わない時代になったのである。
墓地の隅には無縁仏あるいは無縁墓となった遺骨のための納骨堂がつくられていた。その横には、納骨されている家名が記された銘板が並べられている。真新しい銘板が多いことが見てとれた。
一方、かつて墓所が整理されたお寺などでは、墓地の隅などに古い墓標が一か所に集められているが、そうして「寄せ墓」されたなかに「有縁 無縁 三界万霊塔」などと彫られた碑がある光景を目にする。
「三界万霊」とは元来、あらゆる有縁無縁の衆生を供養することを意味する言葉である。碑ばかりでなく位牌などにも彫られ、家庭内でも家族や先祖などとともに祀られていた。こんにちでは家庭でも位牌を祀らなくなり、その意味も分からなくなりつつある。
しかし、形は変わっても故人を弔いたいという人の心は存在し続ける。新しい時代に合ったお墓や弔いのかたちが、これからますますビジネスや人の活動によってつくられていくだろう。
(了)
【寺村朋輝】
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