2024年07月16日( 火 )

回復途上にある九州のインバウンド 今後取り組むべきこととは(前)

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(株)インアウト・ツーリズム研究所
代表取締役 帆足 千恵 氏

 日本政府観光局(JNTO)が7月19日に発表した訪日外国人数で、2023年1月から6月の上半期の累計は1,071万2,000人となり、1,660万人であった19年同期比で65%近くまで戻ってきた。今年6月は207万3,300人で、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行で外国からの観光客が激減した20年2月以降、初めて200万人を突破。19年同月比では72%まで回復した。ただ、ツーリズムにはすでに多くの質的変化が生じている。今後、まちづくりを視野に入れ、観光を持続可能的な産業としていくために、私たちは何をすべきなのか。九州を拠点に長年観光業に従事してきた(株)インアウト・ツーリズム研究所代表取締役・帆足千恵氏に話を聞いた。

コロナ前の7割まで回復 上半期訪日インバウンド

    2023年6月の訪日外国人数を市場別にみると、1位は韓国54万5,100人で、次いで台湾38万9,000人、アメリカ22万6,80万人、中国20万8,500人、香港18万6,300人となっている。今回の調査対象23カ国・地域のうち、米州、オセアニア、東南アジアの一部の国などで、コロナ禍前の19年同月比を上回る好調な回復をみせ、ロシアと中国を除いた国々では、概ねコロナ禍前の8割~9割まで戻っていると考えられる。外国人旅行者の訪日が多かった19年は年間で3,188万人で、今後は団体旅行が8月10日に解禁された中国からの旅行者がどれだけ、どのように本格的に戻るのかが大きなキーポイントとなる。

 観光庁の宿泊統計をみても、22年秋に日本の入国規制が緩和されると、10月以降、外国人宿泊数も徐々に増えてきた。今年4月の延べ宿泊者数(全体)は、4,554万人泊で、19年同月比−10.2%(前年同月比+39.0%)であった。日本人延べ宿泊者数は、3,602万人泊、19年同月比−8.7%(前年同月比+11.7%)となっていた。外国人延べ宿泊者数は952万人泊、19年同月比−15.6%(前年同月比+1790.1%)だった。4月時点で日本人の延べ宿泊数は9割戻っており、延べ宿泊者全体に占める外国人宿泊者の割合は20.9%、つまり2割を占めるボリュームとなっている。

訪日外国人数

九州は圧倒的な韓国市場

 23年5月の九州への外国人入国者数(速報値。船舶観光上陸者数を除く)は、23年6月23日の九州運輸局の発表資料によると、22万4,210人となり、19年同月(29万8,443人)の約75%まで回復したとみられる。23年1月以降、5カ月連続で入国者数が20万人を超え、回復傾向が持続している。

 23年3月の外国人入国者数(確定値)は22万3,239人(通常入国者数 22万2,494人+船舶観光上陸者数 745人)となり、19年同月比は−44.1%となっている。

 市場別にみると韓国からが最も多く、6割以上を占める。中国はもとより、台湾、香港も19年比に戻ってはいないが、タイやシンガポールなどASEAN諸国はコロナ禍前の19年当時の水準を上回っている。また、欧米豪からの入国者数は、1万5,974人(19年同月比では−20.0%)ではあるが、3年2カ月ぶりに再開した外国クルーズ船のなかに欧米からの富裕層を乗せた豪華客船も多かったことは今後の好材料となるだろう。私が理事を務める(一社)九州通訳・翻訳者・ガイド協会にも、今春は宮崎の細島港や油津港、鹿児島港、長崎港などに寄港するクルーズ客船の乗客や取り扱いの旅行代理店から英語ガイドの依頼が多かった。今後は中国からのクルーズ船などの九州各地への寄港も見込まれている。

 九州は、鹿児島県を除いては、19年時も韓国からの入国者数が最も多い。福岡空港をはじめ地理的に近い韓国との直行便が多く運航しているからだ。韓国人にとっては、九州は2泊3日ほどの日程で、国内旅行感覚で、手軽に海外旅行を楽しめる旅行先となっている。

 上海や大連・北京など中国との直行便は6月から順次運航が再開し、寧波線が7月に就航した。国の方針で渡航状況が左右する中国からの旅行者が、どの段階で本格回復するか。インバウンドの専門家の間では「10月くらいでは」と考える向きもあるが、まったく読めない状況である。

宿泊旅行統計調査

インバウンドに取り組む意義

 私がインバウンドにまつわる事業を始めたのが01年。インバウンドとは、もともとは「海外からの外国人旅行者」だけではなく、「域外から来る人」を意味するが、当時は、「インバウンドとは何か」という説明から入らないと理解が得られなかった。14年に2020年東京オリンピック開催が決定したことや免税制度が拡充したことから、「訪日外国人旅行者」を指すことが当然のように、ニュースでも扱われるようになった。

 コロナ禍での国境を越えた移動がまったく途絶えたときに「やっぱりインバウンドに頼るべきではない 国内市場を大事にすべきだ」的な論調が噴出した感もあるが、どちらをとるかという簡単な問題ではない。政府や自治体が推進していくのは当然のことで、考えるべきはどのようにすすめていくか、誰をターゲットにどのように誘客するかを地域で協議して共有する必要がある。

(つづく)


<プロフィール>
帆足 千恵
(ほあし・ちえ)
福岡県出身。九州大学卒業。(株)インアウト・ツーリズム研究所代表取締役。福岡のタウン情報誌、旅行情報誌などの編集を経て、2001年リクルート在籍時に台湾・香港向け九州のガイドブックを制作・発行したのを機に、インバウンドに取り組む。取材・業務で世界各地60エリアを旅した経験から、HPなどの多言語ツール作成やマーケティング、受入環境整備、プロモーション、旅行商品造成、接客研修やガイド育成などを一気通貫に行う。(一社)九州通訳・翻訳者・ガイド協会 理事、事業部長、(株)やまとごころ九州支部マネージャーを務める。福岡空港発海外情報サイト「Fly from Fukuoka」を運営。

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