回復途上にある九州のインバウンド 今後取り組むべきこととは(後)
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(株)インアウト・ツーリズム研究所
代表取締役 帆足 千恵 氏日本は今、何に取り組むべきか
世界各国が海外からの旅行者を呼び込むべく努力をしている。たとえば、19年の国際観光客数第8位であるタイ(日本は12位)は、コロナ禍の間でも段階的に入国規制を緩和し、中国の次に新規市場として注目を集めるインドからの誘客に成功している。宿泊施設も超高級ホテルから格安のバックパッカー向けの宿まで多彩に揃い、外国人の受け入れが多いホテルではビュッフェにベジタリアンコーナーがあり、ハラル(イスラム教徒向け)フードにも対応している。
政府は5月30日、観光立国推進閣僚会議を開催し、「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」を決定した。政府が3月末に発表した「観光立国推進基本計画」のなかで掲げた、25年までに訪日外国人旅行消費額の5兆円早期達成と、訪日外国人旅行者数を19年水準の3,200万人超えの実現に向けた具体的な施策を示している。持続可能なかたちで観光立国の復活を実現し、インバウンド需要をより大きく効果的に根付かせる方策を取りまとめたものだ。従来は「観光」の観点からは重視されていなかった「ビジネス」「教育・研究」「文化芸術・スポーツ・自然」という3つの新しい分野を柱とし、合計約80の施策を通して、国際的な人的交流をともなう取り組みの掘り起こしと深化により、インバウンドの着実な拡大を目指す。
観光庁の「観光再始動」事業などを中心に、地域の観光コンテンツを掘り起こして磨き上げるさまざまな事業が進行している。私もまさに九州各地で本事業に名乗りを挙げた自治体とともに動いている。九州というとあまりに広いが、自分たちの地域で何をすべきかについて考えていきたい。
これはコロナ以前から、観光によるまちづくりを考える際に、以前から不可欠なステップとして提示していたことである。それはまずは「自分たちの地域がどういう地域でありたいか、どんな旅行者にきてほしいのか」を地域で話し合い、決定して掲げることである。
この合意は住民も納得する観光まちづくりの指針となり、これからの施策のよって立つところになる。そのためには、現在どのように(外国人)旅行者がきているか現状を把握し、この地域にしかない真の魅力やストーリー、強み、弱みを分析する必要がある。そのうえで「○○空港から入ってくる富裕層の外国人」といった漠然としたターゲットではなく、嗜好性や旅のスタイルなどを考慮に入れた詳細なターゲット設定をする必要がある。地域の魅力、価値あるコンテンツが「住んでよし」と思っている住民だけではわからないことも往々にしてある、そんなときは、それこそターゲットにしていきたい外国人をアドバイザーとして招き、彼らに刺さる観光コンテンツを発掘、ブラッシュアップしていくといい。
旅行者が求めているのは「この地域にしかない本物の体験、旅」である。難しいと思う人が多いかもしれないが、たとえば「田畑で農家の方と一緒に収穫体験をして、食材のことを学びながら郷土料理を一緒につくり、食べる」というのも、食を通して地域の文化に触れるガストロノミーの体験である。
「高付加価値化」が観光の分野でも課題となっているが、先程の体験を美しい沢のほとりや、夕暮れが美しい田畑の一角に特別にしつらえるだけでも上質なものになる。そこには、観光事業者だけでなく、地域の人との交流が記憶に残り、不可欠なになる。私たちの日常のなかにこそ、物語やコンテンツがあふれている。逆にいうと、その価値に触れたいと思う旅行者を誘客するということになる。ハワイの自然や文化を学び、保全やよくしたいと思う旅行者に向けのプログラム「マラマ・ハワイ」はその一例といえる。
観光コンテンツをつくっただけで満足する場合が非常に多いのも現状だ。次に「ターゲットに刺さる情報発信」を行い、「旅行者が予約・購入する仕組み」をつくることが重要となってくる。表現については日本語を直訳するのではなく、ターゲットの外国人目線で作成・翻訳し、自分たちのHPやSNSで掲載することはもちろんだが、それだけではみられない可能性も高いので、ターゲットがよく見る情報サイトやOTA(オンライントラベルエージェント)に掲載することなどが求められる。また、一般的にはあまり知られていないが、個人旅行を手配する国内外のランドオペレーターや旅行エージェントへの働きかけも有効だ。
さらに、せっかく地域にきてくれた旅行者に対して、「滞在時間を延ばして十分にお金を落としてもらう環境整備」も必要である。絶景をみてもゆっくりできる飲食店がない、お土産を買いたいのに、クレジットカードに対応していないので断念したなど、お金を使ってもらう機会を損失していることがなんと多いことか。とくに、文化背景や地域のストーリーを知りたい欧米豪の旅行者に対して、ガイドが不足しており、満足度向上につながらないという課題も解消したい。
こういった一連の動きは、地域のDMO(Destination Management/Marketing Organization)が担うと、スムーズに進むことが多い。DMOは官民の幅広い連携によって観光地域づくりを推進する法人。このような責任をもって、地域の観光マーケティングをし、魅力を発信し、海外からの要望を聞きながら柔軟に対応できる組織が求められている。自分の地域にきた時だけを考えるのではなく、九州各地域、あるいは日本全域との広域連携も必要だ。たとえば、訪日は2回目のヨーロッパから来る旅行者で、古い町並みと伝統工芸体験をテーマに旅行したいといったケースも考えられる。
1人ひとりが旅行者をもてなす動きを
なかには自分の企業や自分はあまり関係ないと思っている人がおられるかもしれないが、個人でもできることはたくさんある。旅行者はまち(地域)にやってくる。いまや「なぜこんなところに」というほど各地に外国人が旅行してくれる。道を聞かれたりすることも多いだろう。たとえ、うまく答えられなくても、笑顔で一生懸命対応してくれることが、その地域の印象を決める。地域にあるショップ店員、飲食店スタッフ、タクシーや公共交通機関の運転手の笑顔こそが、その土地を好きになるか否かの分かれ目になることも多い。
そして、自分の事業に観光コンテンツになるものがないか見直してほしい。たとえば飲食店での利き酒体験などもそうだし、オリジナル技法を垣間見る工場見学なども楽しい。当然無料ではなく、提供する価値に見合った料金をつけてである。各地域には体験できるコンテンツや旅行商品が圧倒的に少ない。いったんつくってみると日本人向けにも適用できるものも多い。
クレジットカード決済ができるかなど、お金を使いたくても使えない状況になっていないかを改めてチェックすることもやってみてほしい。
これらは逆に自分自身が海外旅行をすると見えてくることが多い。どんなことに旅行者が困るのか、楽しい、便利と思うのか。住人が楽しそうに暮らしているか、地元の人と触れ合うといかに記憶に残るのかなど。絶景は一度見ると満足することも多いが、リピートしたくなるのは、「人」に会いにいく旅である。九州がそうあるように目指していきたい。
(了)
<プロフィール>
帆足 千恵(ほあし・ちえ)
福岡県出身。九州大学卒業。(株)インアウト・ツーリズム研究所代表取締役。福岡のタウン情報誌、旅行情報誌などの編集を経て、2001年リクルート在籍時に台湾・香港向け九州のガイドブックを制作・発行したのを機に、インバウンドに取り組む。取材・業務で世界各地60エリアを旅した経験から、HPなどの多言語ツール作成やマーケティング、受入環境整備、プロモーション、旅行商品造成、接客研修やガイド育成などを一気通貫に行う。(一社)九州通訳・翻訳者・ガイド協会 理事、事業部長、(株)やまとごころ九州支部マネージャーを務める。福岡空港発海外情報サイト「Fly from Fukuoka」を運営。関連記事
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