2024年12月26日( 木 )

宇都宮ライトレールの開業と今後の課題(後)

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運輸評論家 堀内 重人

 2023年8月26日に、日本でまったくの新規に線路を敷設したLRTが、宇都宮市で開業した。区間は、宇都宮駅東口から芳賀・高根沢工業団地間の14.6kmの区間である。
 LRTが導入されるまでの紆余曲折などを紹介した後、開業後の現状と今後の課題について、言及したい。

開業後の状況と今後の課題

写真1 車両は低床式の3車体の連接車を使用
写真1
車両は低床式の3車体の連接車を使用

 宇都宮ライトレールは、低床式の3連接車両を用いて、運行される。HU300形という、両運転台で、両側に扉が付いた車両が、17編成51両在籍する(写真1)。低床式であるため、ホームとの段差がないことから、車椅子やベビーカーの人、高齢者の乗降も楽である。車両はインフラと同様に宇都宮市と芳賀町が保有したうえで運営者である宇都宮ライトレール(株)に貸しているため、宇都宮ライトレールは運行のみを担っている。

写真2 出入り口にカードリーダーを備える
写真2
出入り口にカードリーダーを備える

    運行は朝の最も早いもので4時台から始まり、24時台の終わりまで、ピーク時は7~8分間隔で、オフピーク時は約15分間隔で運転される。宇都宮駅東口から終点の芳賀・高根沢工業団地までの所要時間は、48分を要する。

 運賃は対距離制が採用され、初乗り運賃は150円(小児:80円)であり、50円(小児:20~30円)ずつ運賃が上がって行き、最高は400円(小児:200円)となる。交通系電子マネーによる決済が可能であり、車内の入り口に、カードリーダーが備わっている(写真2)。

今後の課題と展望

 今後の課題としては、宇都宮ライトレールは専用軌道区間が多いことから(写真3)、利便性を高めるためには専用軌道内における最高運転速度の向上が不可欠である。現在の路面電車(LRTも含む)は、軌道法という大正時代に制定された法律が適用されるため、最高速度が40km/hに抑えられている。専用軌道区間では、60km/hぐらいまで向上させる必要があるだろう。やはり宇都宮駅東口から芳賀・高見沢工業団地前間の所要時間を5分程度は短縮させたい。

写真3 宇都宮ライトレールは専用軌道を多くもつ
写真3
宇都宮ライトレールは専用軌道を多くもつ

 次に、開業してから3度、自動車との接触事故を起こしている。これは宇都宮市のドライバーでまだ路面電車優先信号を理解していない人がおり、路面電車のみが進行や右左折が可能であるにも関わらず、それを無視して交差点へ侵入して事故を起こすケースが発生しているのだ。これに関しては、警察の責任でもあり、ポスターを作製してドライバーへ注意喚起を行うだけでなく、免許証を更新にきたドライバーなどに対しても注意喚起を行う必要がある。

 LRTの停留場には、整理券の発券機が設置されているが、停留場によって場所が分かりづらい。また、停留場に自動券売機が設置されていないため、いまだ利用者が不慣れなこともあり、何処で乗車券を購入すれば良いのか分からない人が見掛けられた。しばらくは、アルバイト要員などを導入して、サポートする必要もあるだろう。

 最後に、今回は宇都宮駅の東側が開業したが、計画では宇都宮駅を横切るかたちで西進して、東武鉄道の宇都宮駅を経由し、教育会館まで延伸する計画がある。宇都宮市の繁華街は、駅の西側に位置しているため、早期に教育会館前までの延伸開業が待たれる。

 宇都宮市のLRTは、既存の鉄道などを改良したのではなく、何もないところから計画が始まり、開業に漕ぎつけた日本初のLRTである。宇都宮市のLRT利用者が定着して成功すれば、宇都宮市に続いて同様の計画を検討する都市が誕生する可能性がある。LRTによる新しい都市交通の設計は、これからますます深刻化する交通をになう人材不足や、二酸化炭素排出量の削減などの問題の解決策として、日本各地の中核市に対するモデル提起になることも期待される。

 宇都宮市のLRTの発展を祈念したい。

(了)

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