2024年11月21日( 木 )

運転手不足で西鉄バス32路線が減便・廃止 今後の路線バスの在り方(前)

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運輸評論家 堀内 重人

 西鉄は、10月1日のダイヤ改正で、福岡都市圏や北九州市を中心に、32路線で減便・廃止する旨を発表した。これは従来のように慢性的な赤字を理由とした、また、自治体などが欠損補助を行う財力がないためなどではなく、慢性的な運転手不足に対応するためである。
 福岡都市圏や北九州市は、都会であるから、従来はバスの運転手も集まりやすい地域であったが、現在では大都市圏ですら運転手が集まらなくなっている現状がある。このことは過疎地では、より深刻となっている。
 バス運転手を募集して採用したとしても、定着してもらわなくては根本的な解決にはならない。そのためには給料を上げることが不可欠だ。本稿では、その方法についても言及したい。

ダイヤ改正の詳細

 減便されるのは福岡地区の17路線と、北九州地区の11路線、久留米地区の3路線である。廃止されるのは、筑豊地区の田川市などを通る「金田・方城」路線である。この路線は、自治体との協議に基づき廃止された。

 博多駅や天神は、福岡市の中心市街地であるが、これらのエリアを発着する路線バスであっても、減便は平日で全体の約1.6%に該当する186便におよぶため、利用者への影響は避けられない。

 一方の土曜日で約1.3%、日曜・祝日で約0.7%の減便にとどまるため、平日よりは影響は少ない。

 その反面、コロナ禍が落ち着きを見せていることから、インバウンドの観光客の増加傾向にあり、博多駅~福岡空港を結ぶ直行便は、1日当たり14便が増便された。

 北九州地区の中核である小倉駅を経由する便など、北九州地区の減便は、平日で全体の約1.9%と少し目立つが、土曜で約0.4%、日・祝日で約0.6%の減便と、減便の比率が下がる。

 福岡地区や北九州地区で減便されるのは、利用者が少ないにも関わらず、人件費が嵩む早朝や深夜の時間帯である。また北九州地区では、利用者が少ない路線などは、少しでも運行経費を削減したく、小型バスへの置き換えも行われた。

 西鉄は、高速バスも多数運行しているが、高速バスに関しては、減便などは実施されていない(写真1)。ただ福岡~鹿児島線に関しては、ダイヤが変更された以外に、福岡の起点・終点が博多バスターミナルから、天神バスターミナルに変更された。これにより天神バスターミナルを発車したバスが、博多バスターミナルに立ち寄り、鹿児島へ向かうことになる。鹿児島発の場合は、その逆である。

西鉄高速バス「はかた」。高速バスは利益率も良いため、10月のダイヤ改正では減便や廃止は行われない。
写真1
西鉄高速バス「はかた」。高速バスは利益率も良いため、
10月のダイヤ改正では減便や廃止は行われない。

 西鉄は、今回の減便や路線の廃止について、不採算や利用者の減少というよりは、慢性的な乗務員不足を挙げている。それ以外に、2024年からは運転士の過労死を防ぐ目的もあり、労働時間の上限を規制すされるようになる。俗にいう「2024年問題」であるが、西鉄に限らず、各バス事業者はもちろんであるが、トラック事業者にも、運転手さんの労働時間の上限に対する規制が強化され、西鉄に限らず、バス事業者やトラック事業者は、これに対応しなければならなくなっている。

2024年問題とは

 働き方改革の一環として、労働基準法が改正され、大企業や官公庁では19年4月に、中小企業は20年4月に、改正法が適用された。これにより、従来は残業手当を支給することで認められていた時間外労働であっても、その上限が法律に規定された。背景として、サービス残業の横行や過労死などの問題が挙げられる。

 一方で、建設、運輸、医療という業務については、「免許」などの資格を有する人でなければ従事できない職種でもあり、長時間労働の背景および業務の特殊性などもあり、時間外労働の上限の適用が、5年間猶予された。

 政府は、その5年間で抜本的な対策を行い、労働効率を向上させるか、新規に人材を採用して、労働時間の短縮に取り組むことを求めた。この猶予期間が24年3月末で終了し、4月1日からは時間外労働の上限が適用されることから、「2024年問題」と呼ばれる。

 運輸業界は、トラック運転手の不足だけでなく、バスの運転手不足も顕在化しており、最近では福井鉄道が正常運行に必要な運転手が28名のところ21名しかいないというように、一部の地方鉄道では運転士の不足が深刻となっているところもある。

 バス事業者のなかには、少しでも路線バスを維持するため、貸切輸送から撤退して、可能な限り路線バスを維持する動きが見られる。

 運輸業界は、医療や建設業よりも、不規則な長時間労働や拘束なども多い業界であることに加え、ワンマン運転を実施することから接客も求められることもあり、長時間労働に心労も加わり、過労死する人が多いことが、問題視されていた。

 だが、運転手の労働時間を減らすことは、過労死を減らすために重要なことである一方、それによって運転手の年収が下がることになるため、離職や採用難が増えて人材不足を助長させる危険性もある。
そのためバス事業者は、運転手の給料を上げて、離職者を減らすとともに新規に運転手を雇用して、路線を維持する必要性に迫られている。

 過疎地などでは、各自治体などから欠損補助をもらいながら路線を維持していたところに、「運転手不足」という、これまでに経験したことがない、大きな課題が加わった。バス事業者は、バスの運転手の給料を上げたり、新規にバスの運転手を雇用するだけの経営体力がない事業者も多い。各自治体も、財政難であるため、これ以上の補助の増額は難しい状況にあるため、新たな枠組みが必要となっている。

(つづく)

(後)

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