2024年12月22日( 日 )

日本企業の存在感を実感~カンボジア視察記(2)

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 日本とカンボジアが国交を樹立して今年で70周年を迎えた。両国は今年、関係を包括的戦略的パートナーシップに格上げし、協力を深めている。12日から18日、(一社)カンボジア地雷撤去キャンペーン(CMC、大谷賢二理事長)の主催するスタディツアーに参加するかたちでカンボジアの視察および取材を行った。現在のカンボジア情勢について報告する。

外資の参入障壁の低さ

イオンモールプノンペン
イオンモールプノンペン

    今回のツアーで会ったカンボジア在住の日本人から、当地では日本人や日本産製品への信頼は非常に厚いとの話を聞いた。その分経済活動もしやすいと感じているようだ。日本からの投資に関して、日本大使館の公使によると、近年は工場、不動産、日本食レストランなどへの投資が主なものだという。工場に関しては、完成品ではなく部品の工場が増えているとのことで、それはカンボジアの工場で部品を製造し、それをベトナムやタイなどに運んで完成品をつくるというASEAN域内での分業を想定したものという。

プノンペンの日本料理店
プノンペンの日本料理店

    日本食レストランに関しては、2021年に約140店舗であったものが、23年には約240店舗になっているという。そのうち約200店が首都プノンペンに集中しているが、地方都市でも徐々に増えているという。今回のツアーの後半で、同国第2の都市バッタンバンと、アンコール遺跡群観光の拠点・シェムリアップで日本料理店を訪問したが、味も見た目もほぼ日本のものと変わらない料理を提供していた。

 日本からの投資に関して、11月13日午後に訪問したカンボジアの有力銀行の1行・サタパナ銀行の担当者からも話を聞いた。コロナ禍で日本からの投資はほぼ止まっていたが、昨年からそれらの止まっていたプロジェクトが動き出し、工場などの建設が進んでいるという。

 カンボジア進出のメリットとして、平均年齢が 25~26歳と非常に若いこと、外資の投資に対する障壁がほとんどなく、ほとんどの業種で外資が出資比率100%で企業を設立できることなどを挙げる。

金融業における日本の存在

サタパナ銀行
サタパナ銀行

    このサタパナ銀行も日本企業が100%出資する日系の銀行だ。日本でパチンコホールを運営するマルハングループが東南アジアで展開する金融事業の1つ。マルハンは08年5月にカンボジア初の日系商業銀行としてマルハンジャパン銀行を開業。12年12月にマルハンジャパン銀行がカンボジア大手マイクロファイナンス機関のサタパナ社を買収し、16年4月に合併する際、サタパナ社が優良な企業であったことから、サタパナの名称を残しサタパナ銀行と名称を変更して現在に至る。カンボジアでは5位、22年12月時点で全国に172支店、ATM318台を構える。従業員は約4,400人で、カンボジアの日系企業としては最も多くのフルタイムの正社員を雇用しているという。なお、工場での労働者を含めると総合精密部品メーカーのミネベアミツミの工場(プノンペン)が約1万人と最も多いだろうとのことだ。

 なお、カンボジアには三菱UFJフィナンシャル・グループのタイ子会社のアユタヤ銀行が100%出資するハッタ銀行が存在し、ほかにも日本の銀行が出資している金融機関がある。

 カンボジアは人口規模の割に銀行が59行と多く、年々増えている。サタパナ銀行担当者は、今後、合理化のために銀行同士の合併が行われるのではとの見通しを示す。サタパナ銀行は同国では金融機関同士の合併統廃合の最初の案件だそうだ。

デジタル通貨を導入

 カンボジアの最近の金融事情に関して、イーウォレット(電子マネー)が急速に浸透している。中央銀行にあたるカンボジア国立銀行は、20年10月、世界に先駆けて中央銀行デジタル通貨(CBDC)「バコン」を導入したという背景もある。電話番号を登録するだけで電子財布が利用でき、リアルタイムの個人間送金や銀行口座への振り込み、QRコード決済といったサービスを使える。このCBDCの開発にも日本企業が関わっており、ブロックチェーン技術に精通するフィンテック企業、ソラミツ(株)が支援をしている。カンボジアに限らず、新興国では銀行口座の開設率が相対的に低く、カンボジアでも正確な統計はないようだが、農村の住民にとって口座開設は容易ではなく、3~4割と推測されているという。ただ、イーウォレットの浸透により金融包摂が進展していることがうかがえた。

 カンボジアのデジタル通貨導入は、自国通貨リエルの使用を促進する狙いがあることにも関わっている。カンボジアでは米ドルが普通に流通し利用できる状態が続いてきた。近年、カンボジア政府はこうした状況を改善しようと、リエルの価値を高めようと試みるとともに、使用を奨励している。今回のツアーでは外国人の訪問も多い都市部でしか買い物・食事をする機会がなく、店側からドルの使用が敬遠されたケースはなかったが、地域によっては事情が変わっているのかもしれない。

 サタパナ銀行担当者によると、カンボジアのデジタル通貨とのクロスボーダー決済に関して、中国電子決済サービスのAlipayやWeChatpayなどが先行するだろうが、PayPayなどの利用開始も今後想定されているという。同行訪問直後の15日、カンボジア国立銀行と中国アリババグループ傘下で「Alipay+」を展開するアント・グループがクロスボーダー決済の協力に関する覚書を交わした。

カンボジア経済と中国

 経済全般に関して、サタパナ銀行担当者からは今後の高成長について大使館の見方よりも抑制的な意見が聞かれた。コロナ禍でカンボジアも20年はマイナス成長に落ち込んだが、21年からプラス成長に転じて、今年は5.3%~5.5%成長が見込まれているという。24年について、IMFのように高成長を予測する向きがある一方で、エネルギー価格の高騰により軽工業の輸出がまだ元通りになっていないこと、不動産業、観光業が回復していないことから、サタパナ銀行担当者は今年よりも落ち込むかもしれないとの見方もあると話してくれた。

 不動産業では中国国内での恒大集団の債務問題などの影響を受け、中国資本の海外不動産への投資が減っているとの見方を示す。観光業に関しても中国からの観光客がまだ戻っていないという。ツアー後半でシェムリアップを訪問したが、あまり中国人観光客を見かけなかった。記者が5年半前に同地を訪問した際には至るところで中国語の会話が聞かれたものだが・・・。カンボジアを訪問した外国人観光客はコロナ前の19年12月には約71万人であったのに対し、22年12月は36万人で、23年に入り若干増えているが45万人前後で頭打ちになっているとのことだ。中国人の間でカンボジアは人気の旅行先の1つだが、中国人観光客減少の背景には、近年カンボジアを発信地とするサイバー詐欺被害が中国で増えており印象が悪化したという背景もあるようだ。帰国後、カンボジアに出張していたことを中国人の友人に話すと、詐欺の取材に行ったのかと聞かれた。一部で悪いイメージをもってしまったのは日本人だけではないようだ。

(つづく)

【茅野 雅弘】

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