ロシアによるウクライナ侵攻から2年 日本企業にとってのロシア
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国際政治学者 和田 大樹
今月下旬で、ロシアによるウクライナ侵攻からちょうど2年となる。2年前の今頃、ロシアがウクライナに侵攻するかしないかで専門家の間で議論が活発となり、多くの専門家は侵攻による経済的損害を考え、プーチン大統領は侵攻という決断を下さないとみていたが、それは見事に裏切られる結果となった。
それ以降、欧米や日本など40カ国あまりはロシアへの制裁を一斉に強化し、日露関係も急速に冷え込んでいった。そして、それは経済の世界にもすぐに影響が波及し、マクドナルドやスターバックスなどの世界的な企業が相次いでロシアからの撤退を表明し、トヨタや日産、マツダなど日本の大手企業の間でも脱ロシアの動きが拡大していった。
では、この2年間でどこまで脱ロシアの動きが企業の間で拡大したのだろうか。たとえば、昨年夏に調査会社が発表した統計によると、侵攻直前にロシアに進出していた日本の上場企業168社のうち、昨年8月21日までに脱ロシア(ロシア事業からの撤退、停止、規模縮小などを発表)の動きを示した企業は80社(約半分)に上り、完全な撤退や撤退計画を明らかにした企業が30社(約2割)に達したという。
この数字が多いか少ないかは個別の判断に任せたいが(企業によって事情が異なるので)、これまで脱ロシアの動きを示した企業関係者との会合から判断するところ、主に2つの理由と思われる。1つは、ロシア事業を継続することのリスクだ。このリスクには2つあり、1つはモノの安全で、すなわち日露関係が急速に悪化することで日露経済、日露貿易の間でも摩擦(輸出入規制や買い税制裁など)が拡大するリスクを事前に認識し、脱ロシアを行動に移した。もう1つは人の安全で、ロシアに駐在員を配置する企業も多い。しかし、日露関係の急速な冷え込みによって駐在員が置かれる環境も変わり、駐在員のメンタルや身の安全を考慮し、ロシア事業のスマート化を図った企業もある。
もう1つは、企業イメージだ。ウクライナ侵攻でロシアへ制裁を科しているのは欧米や日本など40カ国あまりに過ぎす、中国やインド、その他のグローバルサウスの国々のなかにはロシアとの経済関係を継続、むしろ強化している国々も多い。しかし、日本企業のなかにはほかの日本企業や欧米企業からのイメージダウンを警戒する声が多く聞かれる。外国企業が収めた税金でロシア政府がウクライナで使用する軍事品を購入しているなど多くの話があるが、侵攻国家ロシアでビジネスを継続するというレッテルを貼られ、それによって損害が利益を上回ることを回避したいという事情もあったと思われる。
では、日本企業のロシアビジネスにとって以前のような環境は戻るのだろうか。先に結論となるが、短期的に状況が改善されることはなく、プーチン大統領が退き、その後に自由や民主主義という価値を重視し、欧米や日本との関係改善を望むリーダーが現れない限り難しいだろう。3月にロシアでは大統領選挙が行われるが、プーチン大統領の再選は確実視され、少なくとも2030年までは現在のような状況は続くだろう。
よって、各企業の状況や判断にもよるが、今後日本企業の間で“ロシア戻り”の動きが広がる可能性は極めて低く、脱ロシアの動きに出る企業の数はゆっくりながらも増えていくのではなかろうか。言い換えれば、ロシアによるウクライナ侵攻はそれほどロシアビジネスを展開する日本企業にとって大きな分岐点になってしまったといえよう。
<プロフィール>
和田 大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
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