2024年12月21日( 土 )

アンモニア燃料の可能性(前)

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運輸評論家 堀内 重人

 日本政府が2050年カーボンニュートラルを宣言した。それを受け、海運業界も従来のA重油やC重油、天然ガス(LNG)から「アンモニア」という新しい燃料へ転換せざるを得なくなっている。日本郵船が先陣を切って、アンモニアを燃料としたアンモニア輸送船の建造を行い、2026年に就航を予定しているが、アンモニア燃料を使用した船舶には課題も山積している。本稿ではアンモニアを燃料とした船舶の将来性と課題について述べる。

アンモニア燃料船の幕明け

日本郵船 イメージ    日本郵船は2024年1月25日、将来の燃料として期待されるアンモニアを輸送する船舶の建造契約を締結した旨を発表した。この船舶には国産エンジンが搭載され、その燃料にもアンモニアを使用して稼働させるのが特徴だ。

 従来の船舶には不純物の少ないA重油か不純物の多いC重油が使用されたが、最近ではNOx やSOxを排出しないLNGを使用する船舶も建造されている。将来的にはアンモニアを燃料とすることで、地球温暖化の原因であるCO2の排出がなくなるとしている。

 同日開かれた記者会見には、船舶を発注した日本郵船だけでなく、ジャパンエンジンコーポレーション(J-ENG)、IHI原動機、日本シップヤード、そして日本海事協会の首脳も加わり、公民の連携を強く印象付けた。これは日本郵船の問題ではなく、日本の海事産業にも関わる重大な問題だという認識があるのである。

 国を挙げて、アンモニア燃料で国産のエンジンを稼働させるアンモニア燃料を輸送する船舶を導入すれば、日本が世界をリードする取り組みになるからである。今回、建造が決まった世界初のアンモニア燃料によるアンモニア輸送船は、ジャパンマリンユナイテッド有明事業所で建造され、2026年11月末の引き渡しを予定している。

 日本郵船の曽我貴也社長は、日本政府が2050年までにCO2の排出量を全体としてゼロにする目標(カーボンニュートラル)を宣言したことは、CO2の総排出量を増やさないゼロエミッションに向かわざるを得ず、従来の船舶用の燃料からアンモニアへの燃料転換は、自社にとって好機である旨を述べた。そして日本の海事産業の技術力を駆使して、高い環境性能、安全性を備えた船舶を他の邦船社に先駆けて供給し、競争力を維持強化することが重要だという認識を示した。

 アンモニアを燃料とする純国産のエンジンを開発し、国内で船舶の製造を行う体制を整えることは、我が国の技術力の高さを訴求し、国内で雇用を創出するだけでなく、安全保障に係る重要事項であるといえる。また船舶の建造に関する核となる技術が、国内に蓄積されることになり、これは日本の今後の活力となる。

 ジャパンエンジンコーポレーションでは、アンモニアを燃料として供給する体制と、毒性が強いアンモニアという気体を、安全に取り扱える装置も、同時並行で開発するとしている。そうすることで、造船所からアンモニアを燃料とした船舶の建造の依頼がきたとしても、直ぐに対応できるようになるとしている。

なぜ、アンモニア燃料なのか

 CO2などの地球温暖化ガスを、大幅に削減が可能な次世代燃料として、合成燃料やメタノール、水素などが選択肢としてあるが、日本郵船はアンモニアに着目した。

 従来の燃焼方式では、アンモニアを燃料とした場合、力が弱く、かつ不安定であった。この課題を解決するため、アンモニアをタービン内で旋回させるという方法が生み出された。
特殊なバーナーを用いて、タービン内にアンモニアガスを渦を描くように噴出させ、バーナーの回転速度や角度などを調整すると、火炎が安定することが確認できたという。

 アンモニアを燃料とすることに関して、日本郵船の曽我社長は、「大量生産が一番しやすく、生産の工程が簡単で、そして世界中の港湾におけるネットワークづくりと扱いやすさを加味したなかで、アンモニアが一番相応しいとになった」としている。アンモニアは、窒素と水素の化合物であるが、空気中の約8割が窒素である。

 そうなると空気中の窒素から、アンモニアを製造することが可能であり、かつ製造に関しても、鉄触媒を用いて約500℃で、200気圧の条件で製造できる。ただ、アンモニアを生産する過程では、高温高圧の条件をつくらなければならず、一定量のCO2が発生する。

 アンモニアを製造すれば、それは硝酸を製造する際の原材料にもなる。火薬やセルロードは、硝酸がなければ製造できない。さらに欧州では、アンモニアは水素を運ぶ際の手段としても活用されている。水素が燃えたとしても、水が生成するだけであるから、CO2を排出することもなければ、地球環境にもやさしいクリーンなエネルギーである。また水素であれば、水を電気分解しても得ることができるため、近年では水素で走行する自動車が、実用化されつつある。

 だが水素は、無色無臭の非常に軽い気体であるが、爆発する危険性がある。その点、窒素と化合させてアンモニアとすれば、常温・常圧では燃えることがないため、輸送する際も爆発することがなく、安全であると言える。それゆえアンモニアを、船舶や後で説明する火力発電の燃料とは別に、水素を得るための原材料として輸送する需要も生じている。

(つづく)

(中)

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