2024年12月23日( 月 )

日産の下請法違反問題 組織防衛の論理に従った「違法性認識なし」の論法に注意!

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 7日、公正取引委員会(以下、公取委)は、日産自動車(株)(神奈川県横浜市、内田誠代表)に対して、下請代金支払遅延等防止法(下請法)に違反する行為が認められたとして、同社に対し勧告を行った。

 公取委によると、日産は自動車部品等の製造を委託している下請企業に対して、2021年1月~23年4月までの間、コストダウンを目的として、下請企業への支払代金から「割戻金」などの名目で一部の金額を差し引くことにより、不当に支払額を減らしていた。不当に減額された下請事業者は36社で、減額した金額は総額30億2,367万6,843円にのぼる。

違反の実態

 「割戻金」や「一時金」などと称する減額は、日産が下請企業に商品代金を支払う際、発注時の取決金額から3~5%ずつ減らすかたちで行われていた。

 減額の理由は日産が自社のコストダウンを進めるためで、前年度の価格を基にして減額割合の目標値を設定するなどしていた。減額に際しては、日産と下請企業との間で交渉が行われ、下請企業との間で合意書面が取り交わされていた。36社のうち、6社の減額は1億円を超え、約11億円を減らされた業者もあった。また、担当ごとの目標達成状況もチェックされていた。

 今回、違法認定がなされたのは、近々の2年あまりに過ぎないが、同様の減額が1990年代から続いていたとの見方もある。

「違法性認識なし」の一部報道を批判的に読む

 下請法においては、仮に下請企業が減額に合意したとしても、減額の理由が下請企業の責任にある場合を除いて、発注後の支払代金減額を禁じている。立場が弱い下請企業は取引の打ち切りを恐れて減額を拒めない場合があるためだ。

 ただし、下請法の適用対象は、資本金3億円以下の企業との取引となっている。日産のような完成車メーカーは大規模な企業との取引が多いため、下請法の知識が不十分だったのではないかとの一部報道もある。

 これらの一部報道が暗示しているのは、下請法の知識が不十分だったのは、もちろん日産の法務部ではなく、個々の企業と減額の交渉を行った担当者であり、それを本件の原因として示唆するものだが、これは企業としての責任を減じる印象を与える不作為の援護報道であり、このような報道も厳しく批判されるべきだ。

 大企業である日産の法務部が、原価に関わる取引先企業への一律のコスト削減方針をまるで把握しておらずその方針下で下請法違反が発生している可能性をまるで考えてもいなかったなどというのは、まったく噴飯ものの言い訳であり、もしそれが本当であれば「お気の毒様」としか言いようがない組織の無能ぶりだ。

 本件において、不当な減額が慣習化されていたこともたしかに大きな問題だが、それと同時に、個人の責任に帰することを想定した組織防衛の論理が、大手自動車メーカーにおいても、そしてそれを報道するメディアにおいても無批判に踏襲されていることも大きな問題である。

 すなわち本件においては、サプライチェーンの頂点に立つ完成車メーカーにおいて、取引先企業全体に対して「平等」に毎年のコスト削減を求めるという建前の元に行う不当な利益の収奪が、個別の担当者の無知に責任を帰することを想定するかたちで、組織として黙認することが「慣例化」していたのではないかということだ。それを「違法性の認識がなかった」とする報道も、そのような大企業の組織防衛の論理を支援する、不作為の報道であり、企業とメディアの結託した論法であるということだ。

 くれぐれも読者はこのような報道に安易に納得することなく、批判的な見方を鍛えるべきだ。

【寺村朋輝】

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