「リニアと闘った川勝知事」再出馬求める署名活動開始
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静岡県内の市民団体「南アルプスとリニアを考える市民ネットワーク静岡」(市民ネット)と「大井川の命の水を守る62万人運動」のメンバーが22日、辞表を提出した川勝平太知事の再出馬を求める署名活動をスタートさせた。静岡市役所前で「環境政策の継続を求め 川勝平太氏に再出馬を要請します リニアより命の水を」と書いた横断幕を掲げて、行き交う人に署名を呼び掛け始めたのだ。
「市民ネット」共同代表の松谷清・静岡市議らメンバーは開始直前に川勝知事と面談、署名活動を始めることを伝えたうえで再出馬を求めたが、「辞職したばかりで再出馬は否定しましたが、市民団体が川勝県政を評価していることには感謝していました。4月30日まで署名を集め、知事に手渡して再度、再出馬をお願いする予定です」(松谷市議)。
12、13日の記事「知事辞職の川勝氏、リニアと闘う姿勢を伝えないメディアに反発(前)・(後)」で「『明石の奇跡』が静岡でも起きるのか」と書いたが、同じような展開となってきた。泉房穂・前明石市長も2019年1月29日の暴言報道で辞意を表明したものの、泉市政継続を望む母親たちが署名活動を開始、市長選告示1週間前の総決起集会で署名の束を差し出すと、泣き崩れた泉前市長は不出馬を撤回、出直し市長選への出馬に踏み切り圧勝したのだ(山岡淳一郎著『暴言市長奮戦記』p46)。
ちなみに「静岡県知事選(5月26日投開票)」の告示日は5月9日。その9日前(4月30日)まで集められた署名を川勝知事が受け取り、知事選再出馬を決断すれば、市民が神風を吹かせた「明石の奇跡」と瓜二つの展開となり得るのだ。
政治に縁がなかった若い母親たちが署名活動を始めたのは、子ども予算を倍以上にするなど「市民にやさしいまちづくり」を進めてきた泉市政継続の思いからだった。同様に静岡県の市民有志も、大井川の水や南アルプスの環境を守るために奮闘してきた川勝知事の姿勢を高く評価、リニア推進のJR東海と対峙してきた“川勝路線”の継続を求めて署名活動を始めたのだ。
静岡県知事選にはすでに大村慎一・元副知事と鈴木康友・前浜松市長が出馬を表明し、それぞれ自民党と立憲民主党(+連合静岡)が支援すると報じられてもいたが、2人とも「リニア中央新幹線を推進」「川勝県政を引き継がない」と明言。どちらが知事になっても“川勝路線”の変更は確実で、大井川の水量減少や南アルプスの環境破壊を招きかねないリニアのトンネル工事着手となる可能性が高い。こうした危機感が再出馬要請の署名活動のきっかけになっていたのだ。
代表は「大井川の水を守る62万人運動」の村野雪氏(吉田町)で、「環境政策の継続を求め 川勝平太氏に再出馬を要請します」と銘打った4月18日のネット署名の呼びかけ文には、こう記されていた。
「知事はこれまで、リニア中央新幹線建設の影響が心配される南アルプスの自然と大井川の命の水を守るために、自然と水は何よりも大事という姿勢を貫いてきました。そして、静岡県環境影響評価条例に基づく環境アセスメントを通じてJR東海と向き合い、数々の対応を引き出してきました。これは、日本の環境政策史上、画期的な出来事で、時代の変化の最先端を行くものとして私たちは高く評価します。しかし、南アルプストンネル建設にともなう問題は未解決です。これまで静岡県が推進してきた環境政策に基づく対応が必要な時です。この困難な問題の解決には、高い見識とリーダーシップが求められます。このため私たちは川勝平太さんが再度知事選挙へ立候補することを強く求めます」
こう呼びかけてネット上で署名を募る一方、紙での署名もできる態勢も整えた。こうしてネット署名開始から4日後の4月22日、静岡市役所前でのリアルな署名が本格化することになったのだ。
その場で配布されていた署名用紙には、呼びかけ人代表の村野雪さんが運動開始の理由を2つあげていた。その1つは「リニアを考えようコミュニティ」というSNSグループでの野口久美子さんの書き込みで、全文がこう引用されていた。
「皆様にお聞きしたいのです。
川勝知事が辞任表明をしてから、このグループ、どうですか? リアルに大井川の水で生きている方と、そうでない方の間に亀裂はありませんか? 例えば私は静岡県の藤枝市民で、大井川の伏流水により生かされています。だから失言しようと、マスコミに叩かれようと、南アルプスを守り水を守る知事でないとダメなのです。川勝さん以外に、このような主張の立候補者がいれば良いのですが、いますか?いないですよね。だから民意を示すために、このような署名をするのです。切羽詰まっているのです。
そして、だんまりを決め込んでいる大井川の水で生きている方々。もしかして、JR東海や国が何とかしてくれるだろうとか思っていませんか? 甘い!アスパルテームの100倍甘いですよ!
これまでのケースとして、渇水を引き起こした場合、大企業や国はおおむね『30年は補償します。でもその後は、自分たちで何とかしてね』とか言います。で、次の世代は、どうやって生きていくんですか?
もしかしたら、大井川流域の一部は、人が住まない広大な荒れ地と化すかもしれませんね。『昔はここに、数十万の人達が生活していたんだよ』なんてね。
リニアに反対する人、しない人、様々な理由があるでしょう。でも、リニアのせいで苦しむ人を出しちゃダメでしょ。それでこそ『夢の超特急』なんじゃないんですか?(以下略)」
この書き込みが村野さんを署名活動に突き動かした一因になったわけだが、もう1つの理由については「地方自治への攻撃、民主主義のあからさまな破壊に対する抵抗です」と切り出し、こう続けていた。
「川勝知事はリニアが争点となった前回の選挙で、環境副大臣を辞して出た岩井茂樹氏に大差をつけて勝利しました。民意は示されました。(957,239票-624,967票)
川勝県政はそれまでも、ザル法である環境影響評価法に対して、環境影響評価条例で『開発の為なら環境破壊は許される』という古い価値観に一定の歯止めをかけてきましたが、それが継続されました。一方、民主主義の正攻法では勝てないと明らかになったからか、選挙後、川勝知事への人格攻撃が増えました。静岡県民批判まで出始めたことは、2年前からです。それに屈するということは地方自治をあきらめるということです(中略)県民のために国や大企業であるJR東海と対峙するということは、川勝さんでなれば今までもたなかったと思うし、限界まで頑張ってくださった川勝さんに再度出馬を要請することが正しいことなのかにはためらいもあります。
ですが、南アルプスの自然が破壊されて、大井川の水を失う可能性がある事業が知事選でも争点にもならないなんて何もせずにはいられない。この状況に変化を起こすためにも、どうか署名にご協力ください」。
再出馬を求める署名がどれくらい集まり、川勝知事の翻意につながるのか否か。ちなみに泉前市長が約5,000筆の署名を受け取ったのは「泉市政の継承を求める会 総決起集会」であったが、今回はどんな場で川勝知事に署名が手渡されるのか。リニアから地域を守ろうと立ち上がった県民有志が「静岡の奇跡」を引き起こすのか否かが注目される。
【ジャーナリスト/横田 一】
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