積水ハウスの国立市マンション事業中止の理由と影響
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分譲マンション「グランドメゾン国立富士見通り」(東京都国立市)の事業を中止した積水ハウス(株)。そのニュースが建設・不動産業界のみならず、広く社会に驚きをもって迎えられている。事業中止にはどのような判断があり、今後どのような影響をおよぼすのであろうか。
同マンションは10階建て・18戸と比較的小規模ではあるが、新築マンションが軒並み値上がりしていること、契約済み顧客への保証金が発生することなどを考慮すれば、事業中止による損失額は百億円単位になることが予想される。
同社は11日に今回の件について、「現況は景観に著しい影響があると言わざるを得ず、富士見通りからの眺望を優先するという判断に至り、本事業の中止を自主的に決定した」との理由を発表した。周辺住民との合意や法令上の問題はクリアされていたものと見られる。
つまり、事業中止の判断の焦点となったのは富士山を眺望できるという景観の問題である。これはまちづくりにおいて重要な要素で、それが失われることにより周囲の環境や資産価値などに悪影響をおよぼすことがある。
マンションの立地周辺住民だけでなく、広範囲の住民を含め、苦情が寄せられたことから、「改めて本社各部門を交えた広範囲な協議」を行い、前代未聞の引き渡し直前の解体という決断へとつながったものと見られる。
国立市は重要エリア
積水ハウスにとって国立市は重要なエリアの1つである。高級住宅地が広がる立地性から高付加価値な住まいのニーズが根強くあるからだ。そして何より同社を信頼して住まいを取得した既存顧客が多数存在する点も見逃せない。
そんな国立市において、多額の損失を被ろうとも、1マンションの景観問題で信頼を失うのは長い目で見ると得策ではない、という判断もあったのではないか。
同市にはかつては「サステナブル デザイン ラボラトリー」という、環境配慮や都市部における快適な住環境を研究する施設も設置されていた。
サステナブルは持続可能性を表す言葉であり、景観もまた持続可能性を実現するための重要な要素だ。積水ハウスにとってまちづくりや都市開発は、創業以来、事業の重要な柱の1つとして取り組んできた事業だが、今回のマンションは結局のところ、サステナブルではない、事業リスクになるものと判断されたのだろう。
まちづくりの在り方に警鐘
ところで、今回の出来事は首都圏のみならず、全国で行われているまちづくりや都市開発の在り方へ警鐘を鳴らすものになりそうだ。
たとえば、東京23区のなかでも中心エリアでは近年、1ルームマンションへの規制が強化されつつある。これは、1ルームマンションの増加が単身者人口の増加につながり、自治体の持続可能な運営に悪影響をおよぼすために取られている措置である。
サステナブルを阻害するものが社会から評価されず、経営上のリスクになる。そんな時代が到来していることを今回の出来事は表しており、それは地域や業種を超えた教訓となるものだ。少なくともマンション開発や都市開発に関わる事業者は他山の石とすべきではない。
【田中直輝】
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