ライドシェア解禁に業界最大手「タクシーがやれることはまだある」(後)
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第一交通産業(株)
代表取締役社長 田中亮一郎氏タクシー事業者が事業主体となって行う自家用車活用事業―“日本版ライドシェア”が、4月から東京や名古屋など4地域で、6月からは福岡都市圏や大阪都市圏などの追加8地域で開始された。だが、法整備が追い付かない状態でのライドシェア解禁をめぐっては、安心・安全の担保の面からの不安が残るほか、コロナ禍で疲弊したタクシー事業者への悪影響を懸念する声もある。全国ハイヤー・タクシー連合会の副会長や福岡県タクシー協会・会長など数々の要職を務める、業界最大手のタクシー事業者である第一交通産業(株)の代表取締役社長・田中亮一郎氏に話を聞いた。
4万台ネットワークを強みに“塊”での取り組みを
──タクシー業界の今後については、寡占化が進んでいくイメージでしょうか。
田中 私の見立てでは寡占化が進むというよりも、フランチャイズはあまりないかもしれませんが、資本提携なども含めて各社が協業する仕組みができて、“塊”ができていくようなイメージですね。たとえばタクシー業界でも、今後はカーボンニュートラルとかEV(電気自動車)やDXの導入、GXなどを考えていかなければなりませんが、小さい事業者ではそれがなかなか難しい。ですが、塊であれば打てる手はあります。
たとえば当社では、当社の営業所がないエリアに対しては、M&Aではなく業務提携でカバーしていこうという「No.1タクシーネットワーク」を展開しており、今年4月末現在で、北は北海道・稚内から南は沖縄県・石垣島まで、全国47都道府県・770社・約4万台のネットワークまで拡大しています。これはいわば互助会的なネットワークで、現在はチケット相互利用や配車協力のほか、タクシー関連事業を行う取引先と同盟を結び、資材調達や条件共有などを行っています。また、交通空白地域・不便地域における移動困難者の外出支援を目的とした、全国26府県78市町村・307路線(24年3月末現在)での「おでかけ乗合タクシー」の運行など、地域交通活性化についての取り組みも強化しており、我々のネットワークが地域交通における“ラストワンマイル”の部分を担っている自負はあります。
現在は、北九州の当社が、和歌山県と三重県での夜間の配車や運行管理をリモートで行うような実験もしておりますが、やはり“塊”が大きいほうがやれることは増えていきますし、資材調達などの際の業者との交渉でも有利に働きます。今後も“仲間”を増やしていきながら、コストダウンだけでなく、売上を伸ばすお手伝いや人材の融通なども行っていくことを考えていますし、ゆくゆくは観光バス版の「No.1ネットワーク」などをつくっていくことも考えています。
EV化や自動運転など、業界全体の革新に向けて
──御社では、次世代型タクシー営業所の運用も開始されると聞いています。
田中 現在、LPガススタンドの減少やCO2排出量削減の政府目標などを背景に、タクシーのEV化が喫緊の課題となっています。当社では、三菱オートリース(株)および三菱商事(株)と共同で、太陽光発電による再生可能エネルギーを活用したEV中心の次世代型タクシー営業所の運用を行っていきます。具体的には、当社の門司営業所にはEV12台と充電器、太陽光発電システム、エネルギーマネジメントシステムを、門司港営業所にはEV6台と充電器を順次導入していく予定で、まずは6月20日に門司営業所で運用を開始します。これを皮切りに、当社を含めた3社では、「No.1タクシーネットワーク」の加盟事業者をはじめとしてタクシー業界全体のEV化に取り組んでいきたいと思っています。
──沖縄では、自動運転の実証実験もされるそうですね。
田中 5月に当社と豊見城市(沖縄県)、(株)電脳交通(徳島市)、(株)ティアフォー(愛知県名古屋市)、日本電気(株)(東京都港区)の5者で、豊見城市における交通課題の解決に向けた自動運転バスに関する包括連携協定を締結したところです。これは、現在運行する豊見城市市内一周バスにおいて自動運転バスのレベル4による運行を実現し、豊見城市における公共交通手段の確保や、公共交通の利便性向上による地域活性化を目指していくもので、24年度内に自動運転バスで運行する実証実験を行う予定としています。
──さまざまな取り組みを進めておられますが、最後に今後の意気込みをうかがいます。
田中 当社の属するタクシー業界は、これまでコロナ禍の苦境を乗り越え、次に働き方改革の荒波に晒され、そこにさらにライドシェア解禁という流れがきて、業界全体が疲弊していっている状況です。ライドシェアにしても、交通不便地域におけるタクシー不足と、夜の繁華街での不足、さらにオーバーツーリズムによる不足など、地域や状況による背景がそれぞれ異なりますし、この先どうなっていくかはわかりません。さらにいえば、あと15~20年も経てば自動運転が実用化され、また前提条件が変わっている可能性もあります。
ですが、これまで交通空白地域における“地域の足”の最後の砦としての役割を担ってきたように、我々タクシー事業者ができることはまだまだあるはずです。引き続きタクシーの規制緩和なども訴えていきながら、「No.1タクシーネットワーク」の加盟事業者をさらに増やして“塊”を大きくしていき、地域における公共交通機関を維持・発展させていかなければなりません。
当社も地域の交通事業者として、地域住民の方々やその地域に来訪される方々の移動の確保に努めていくとともに、安心・安全を前提とした地域に根付くかたちでのサービスを提供していきたいと思います。
(了)
【聞き手:永上隼人/文・構成:坂田憲治】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:田中亮一郎
所在地:北九州市小倉北区馬借2-6-8
設 立:1960年6月
資本金:20億2,755万円
URL:https://www.daiichi-koutsu.co.jp
<プロフィール>
田中亮一郎(たなか・りょういちろう)
1959年4月生まれ、東京都出身。青山学院大学卒業後、82年4月に全国朝日放送(株)(現・テレビ朝日(株))に入社。94年7月に第一交通産業(株)に入社し、取締役、専務、副社長を経て、2001年6月に代表取締役社長に就任した。北九州商工会議所副会頭や福岡経済同友会副代表幹事、福岡県タクシー協会会長、全国ハイヤー・タクシー連合会副会長、同地域交通委員会委員長など数々の要職も務める。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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