2024年12月23日( 月 )

日本製鉄のUSスチール買収は成功するのか?(前)

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国際未来科学研究所
代表 浜田和幸

 アメリカではバイデンvsトランプによる「老老対決」の大統領選挙が進行しています。有権者の間では「もっとまともな候補者はいないのか」と不満の声が大きくなる一方です。

 バイデン大統領は息子が薬物中毒であることを隠して銃を不法購入したことで有罪判決を受けましたが、弟や娘ら親族が副大統領時代のバイデン氏の政治的影響力を悪用し、裏金づくりにまい進してきたことも次々に明らかになってきました。

 他方、トランプ前大統領は不倫相手の口止め料を経費として偽って申告していたと起訴され、有罪判決を受けたばかりです。他にも不動産価値の違法操作による脱税やホワイトハウスからの機密文書の持ち出し、はたまた2年前の議会占拠をめぐる騒乱誘発罪など、すべての起訴案件で有罪となれば、刑務所に100年以上は収監させられる可能性があります。こんな不正三昧の現職、元職の大統領による選挙は米国史上、前例がありません。

日本製鉄 イメージ    そんな異常な選挙戦ですが、日本に関する話題が急浮上しています。何かといえば、日本製鉄(旧・新日本製鉄)によるUSスチールの買収提案です。トランプ候補は「自分がホワイトハウスにカムバックしたら、こんな買収は絶対に認めない」と明言。バイデン大統領も買収には慎重な姿勢を崩していません。

 理由は明らかで、鉄鋼労組が買収に反対しているためです。11月の選挙では労組の組織票が欲しいため、組合員の職を守るという大義名分で日本製鉄の買収提案に反対していると思われます。

 日米関係は盤石のように見えますが、実は、米国の日本への不信感は根深いものがあります。先の岸田・バイデン会談でも、この問題は議論になったようですが、岸田首相はバイデン大統領を説得することはできませんでした。今後も日米関係に暗雲を投げかけ続けるでしょう。

 米連邦取引委員会(FTC)は、日本製鉄が141億ドルでUSスチールを買収する計画に対する反トラスト法調査の勧告をまもなく発表する模様です。この調査は、米国の鉄鋼生産能力の中核を外国企業が買収することを承認する前の手続きに他なりません。

 USスチールの年次株主総会では、売却派の経営陣とウォール街の投資ファンドが日本製鉄による買収に賛成するよう働きかけました。株主総会では買収は認められたのです。しかし、全米鉄鋼労働組合は、日本の大手企業は労働者の権利を抑圧しているとの理由で、買収計画に断固反対したままです。

 現時点では、バイデン大統領とトランプ前大統領の両名が共に買収に反対を表明していますが、日本製鉄への売却を阻止する大統領令が裁判所に支持されるかどうかは不透明です。

 注意すべきは、日本製鉄の今回の買収計画は、単なる商取引の域をはるかに超え、米国の中核経済インフラの牙を抜くことになる可能性を秘めていることです。これは、まだ表立っては議論されていませんが、後述するように、米国の軍事力に深刻な影響を与えることにもなりかねないと受け止められています。

 日本製鉄の経営陣は、電気自動車(EV)メーカーに販売する薄鋼板の導入について簡単に言及した以外、子会社となる可能性の高いUSスチールの再編計画の詳細を明らかにしていません。

 そもそもUSスチールは1901年、銀行家のJPモルガンや鉄鋼王のアンドリュー・カーネギーによって誕生した米国を代表する企業で、1960年代までは世界最大の鉄鋼会社でした。しかし、日本や韓国のアジア勢に追い抜かれ、2022年の粗鋼生産量は世界27位にまで落ち込んでいます。米国内でもかつての勢いは失われ、ニューコア、クリーブランド・クリフスに次ぐ3位に甘んじる有り様です。

 とはいえ、米国有数の鉄鋼メーカーであることは間違いなく、日本製鉄が買収計画について詳細を明らかにしていないため、米国の議会関係者や経営者の間では多くの疑問がささやかれています。とくに、米国の老朽化した原子力発電所に鍛造鋼部品を取り付けるために日本製鉄がエネルギー省(DOE)と契約を結んでいる点も疑心暗鬼を生んでいるようです。

(つづく)

浜田和幸(はまだ・かずゆき)
    国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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