2024年09月02日( 月 )

空き家問題解決へ、「戸建賃貸」で流通促進(前)

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(一社)全国古家再生推進協議会

 全国に約900万戸あるとされる空き家。その増大の抑止策として、ストック(中古・既存)住宅の流通システムを整えることが重要といわれるが、これまではあまり成果が表れていない状況である。そんななか、ストック住宅と投資家を結びつけ、「戸建賃貸」として再生することで流通を促進するビジネスモデルで年々成果を上げているのが、(一社)全国古家再生推進協議会(以下、全古協)だ。

古い木造戸建を再生

 国や自治体による「空き家バンク」をはじめ、これまでにいくつかのストック住宅流通の仕組みが立ち上がっているが、さまざまな課題を抱え、成果が上がっていないケースが目立つ。空き家バンクを例にすると、所有者と購入者のマッチングをベースとしているが、得られる情報が住所や建物面積などの基本的なものに限られることから、建物の状態は購入希望者が自ら判断することが必要であり、その難易度の高さから、成約に至るのが難しい。制度を運用するのは不動産事業者だが、わずかな仲介手数料しか発生しないため、仲介に積極的ではないという実状もある。

 近年は大手の住宅会社や不動産会社なども、ストック住宅流通への取り組みを行っているが、こちらも大きな成果を上げているとは言いがたい。たとえば、彼らがストック住宅を買い取り、構造補強を含む大規模改修を行ったうえで再販する「買取再生住宅」などがそれにあたるが、これは新築並みに高額になることもあり、取引実績は多くなく、そのため空き家問題に影響を与えるほどの成果は見られていない。

理事長・大熊重之氏
理事長・大熊重之氏

    全古協の大熊重之理事長は、「900万戸ある空き家のうち、とくに重要なのは高度経済成長期に建てられた木造戸建住宅。数が多いそれを流通市場に乗せ、住み続けられるようにすることが大切です」と強調する。

 全古協が進めるストック住宅再生におけるビジネスモデルの根幹は、主に木造戸建住宅に改修を施し戸建賃貸とすること。戸建賃貸は賃貸市場のなかで非常に希少性が高いことに着目したもので、それを購入するのは全国の投資家である。投資家がストック住宅を購入し、入居者から家賃収入を得ることが、この仕組みの柱となっている。なお、誰でも投資できるわけではなく、全古協の会員となり、さらにオンラインで行われる「古家再生プランナー」の資格を取得しなければならない。これは不動産取引やストック住宅について、全古協などと知識やノウハウを共有し、安全・安心な購入を行えるようにするためだという。

見学ツアーを開催

見学ツアーの様子

    もう1つ、カギとなるのが「古家再生士」の存在。工務店や職人などの関係者で構成され、賃貸改修や賃貸不動産、戸建住宅特有のノウハウについて全古協の講習を受け、認定を受けた人たちのことを指す。彼らは戸建賃貸として入居者を獲得できるストック住宅の選定や家賃・利回りの判断、販売価格を決定する。そして、各地で「空き家・古家物件見学ツアー」を開催し、全国から投資家を集い、物件の詳細な説明を実施。彼らの納得を得たうえで契約し、投資家の資金によって改修を施し、引き渡しを行うというのが、全古協が行う古家再生の一連の流れだ。1棟当たりのリフォーム工事の平均は約350万円とされており、この金額であれば古家再生士が比較的多い収益を上げられる仕組みでもある。

 見学ツアーでは、1日で数件の物件(改修中、完成済み)を見学。物件価格はもちろん、改修の内容と費用、周辺物件から算定される家賃や利回りなどについて説明され、投資家はそれをベースに購入を判断する。ツアーには複数の投資家が参加して意見交換を行えるほか、オンライン上のコミュニティも存在するため、売り手(全古協や古家再生士)の価値観だけに左右されず、幅広い見地から購入の是非について判断できるのだという。

 ストック住宅の売買においてネックとなるのが、それぞれの建物の耐久性や耐震性がどれくらいあるかという点だが、これについては建築のプロである古家再生士の選別の眼が入っているため、不動産事業者のみの視点で仲介されるストック住宅に比べると、信頼性はより高いといえそうだ。このため、改修の内容は内装や設備の更新にとどまり、耐久性や耐震性を向上させるための工事は行われないケースがほとんどだという。

(つづく)

【田中直輝】


<INFORMATION>
理事長:大熊重之
所在地:大阪府東大阪市布市町3-2-57 
設 立:2014年7月
TEL:072-943-1560
URL:https://zenko-kyo.or.jp

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