2024年10月03日( 木 )

【国交省】多様な入札契約方式を試行

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 国土交通省は、直轄の維持・修繕工事における効果的な入札・契約方法について、複数の入札契約方法の目的と効果を組み合わせて運用する方式を検討している。道路などの地域インフラの維持や災害対応などについて、「担い手不足などさまざまな課題に直面している建設業界だが、今後も地域の守り手として持続可能であるための議論を」(沓掛敏夫・大臣官房技術審議官)として、働き方改革などの社会変化を反映した入札・契約方法など学識経験者などを交えて議論。今回の会合では、これまで地方整備局で試行的に実施してきた8つの契約方式と効果の組み合わせを整理し、今後は各地方整備局で組み合わせ運用を試行していく方針を示した。

維持修繕の入札契約、8種の方式を試行

部会長の堀田昌英 東京大学大学院工学系研究科教授
部会長の堀田昌英 東京大学
大学院工学系研究科教授

    8月22日、「発注者責任を果たすための今後の建設生産・管理システムのあり方に関する懇談会 維持管理部会」(部会長=堀田昌英・東大院工学系研究科教授)を開催。この部会では、効果的な入札・契約方法の選定について議論された。

 維持修繕工事の課題として、一般土木工事と比較して工事1件あたりの契約金額が低い。また、地域の担い手不足により応札者が減っており、不調・不落が多くなる傾向があり、地域インフラを適切に保つために維持修繕工事の特異性を踏まえた入札・契約方法を検討している。国土交通省では、将来像として複数年度発注の拡大や指名競争入札(フレームワーク)などの活用拡大、企業グループによる受注拡大、不調・不落が少ない方式の拡大・改善を検討・試行すべきとした。

 効果的な入札・契約方式の選定では、国土交通省からは維持修繕の多様な入札契約方式として、次の8つを試行してきた。

 これまで地方整備局では、アスファルト舗装工事でよく利用される長期性能保証やフレームワーク方式による発注が実施されてきた。国土交通省は、それぞれの方式の課題を踏まえ、目的とこれまでの試行による効果を整理した。

効果別の入札契約方式、課題やニーズから選択も

挨拶する国土交通省 沓掛敏夫 大臣官房技術審議官
挨拶する国土交通省
沓掛敏夫 大臣官房技術審議官

    効果別に入札契約方式を整理すると、地域企業の発注機会確保においては、地域維持型JV、事業協同組合、参加者確認型契約、フレームワーク方式において効果が認められる。また、維持水準の向上に関しては、参加者確認型契約、フレームワーク方式を除く6つの契約方式で有効。維持管理費用削減では長期性能保証と性能規定方式、長期的な契約では長期性能保証と性能規定方式、参加者確認型契約、フレームワーク方式での効果がある。高度な修繕の対応にはECI、設計工事連携型が、不調不落対策には長期性能保証と性能規定方式を除く6方式で有効となっている。事務手続きの効率化には、性能規定方式や参加者確認型契約とフレームワーク方式の発注手続きにおいて効果があり、迅速な修繕の対応としては性能規定方式と設計工事連携型で有効とした。

 入札契約方式の効果的な組み合わせの整理として、長期保証とECI、設計工事連携型、参加者確認契約を組み合わせて、より高度な修繕工事により高い水準の維持管理を求めることができないか検討中としている。また、地域維持型JVや事業協同組合の参加者を募る際には、参加者確認随意契約やフレームワーク方式を導入することで、受発注者の手続きを簡素化し、受注機会を増やすことなどの効果を期待している。今後は、地方整備局において試行し、その結果を各地方整備局で共有していく方針だ。

 委員からは、「長期性能保証と地域維持型JVを組み合わせて、工事完成から10年、20年と同じ事業者が関与することで維持修繕工事費の削減などにも貢献するのではないか。ECIと長期性能保証を組み合わせ、それぞれの効果を同時に求めることは、事業者、発注者の両者にとって非常に複雑で難しいのではないか」との意見があった。

 国土交通省は、維持管理の入札契約方法について、それぞれの目的・効果を踏まえて選定フロー案を策定した。このフロー案について、委員からは「山間部の除雪体制のように、担い手がいない場合も視点に入れるべき。また、災害対応では皆が協力して実施可能な者が実施するという発想もあっていい」や「試行されている入札方式を組み合わせて使うことを目的として作成されていて、課題・ニーズから入札方式を選択するといった視点が不足している」との指摘があった。

国土交通省が提示した各入札・契約方式の目的と効果(部会資料から資料抜粋)
国土交通省が提示した各入札・契約方式の目的と効果
(部会資料から資料抜粋)

 維持工事における複数年工事の課題と今後の積算方法の改善方策に関する議論では、2~3年の複数年契約が増加傾向にあるなかで、積算基準で定める日当たり標準作業量を下回る小規模な作業に対する積算と、緊急作業における監理技術者の拘束を解消するための体制確保を課題として提示。委員からは、「適正な積算のための実態把握には限界もある。総価契約方式やコストプラスフィー方式などの支払いを工夫していくことを検討できないか」「現場の実態に合わせて監理技術者の必要な交代が可能となることは重要。監理技術者制度運用マニュアルを改定することも含めて考えるべき」との意見が出された。国土交通省は、今回の議論や意見を踏まえて検討を進めていくとした。

【桑島良紀】


<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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