2024年10月28日( 月 )

紅麹問題が突き付けたものとは?残された機能性表示食品の課題、問われる国の対応(前)

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 小林製薬の紅麹問題は、機能性表示食品制度の改正へとつながった。その間、健康食品市場は冷え込み、業界に動揺が広がった。制度の信頼回復を目的に、消費者庁はガイドラインによる運用から法令化へと舵を切り、一応の決着を図った。だが、制度をめぐる深刻な課題は山積しており、早急な対応が求められている。

安易な新規成分の使用

 紅麹原料による健康被害の発生は、さまざまな議論を呼んだ。小林製薬の企業体質や製造管理を批判する声も。さらには、規制の甘さをはじめ、機能性表示食品の廃止論まで飛び出した。さまざまな指摘があるが、紅麹問題は多数の被害者を生み、これまでに消費者が口にすることのなかった「新規成分」の危うさを突き付けた。

 小林製薬の機能性表示食品に配合された「米紅麹ポリケチド」は、同社が初めて届け出た新規成分だった。新規成分については同社に限らず、先を争うように各社が使用している。そのなかには、海外の一部地域でしか生息しない植物に由来した成分や、新たな製法によって抽出された成分など、日本人に馴染みのないものが多い。長期にわたって摂取し続けた場合の健康への影響は不明だ。そうした新規成分が次々と登場し、機能性表示食品などに使用され、消費者の口へ入っている。紅麹問題は、新規成分の危険性を認識させたといえる。

 また、発酵物の製造・品質管理の難しさを印象づけたことも、紅麹問題の特徴の1つ。小林製薬の製品に配合していた「米紅麹ポリケチド」は、米麹菌によって発酵させた米に含まれる成分。しかし、紅麹原料には、それ以外のさまざまな成分も含まれている。

 同社は「機能性関与成分の濃度や一般的な各種検査は行った」(広報・IR部)と説明するが、発酵過程で生じるさまざまな成分を精査したわけではない。このことは紅麹原料に限らず、サプリメントに用いるほかの発酵物についても同様だ。コントロールが困難な発酵物を機能性表示食品などに用いる場合、細心の注意を払わなければならないことも教訓となった。

10年の歳月を経て懸念解消 法令運用で規制強化へ

改正案を審議した消費者委員会(7月16日、東京・霞が関)
改正案を審議した消費者委員会
(7月16日、東京・霞が関)

    紅麹問題を受けて、消費者庁は機能性表示食品制度を改正。その一部が9月1日に施行され、動き出した。これまでにもマイナーチェンジが行われてきたが、今回は抜本的な改正となった。

 改正の柱は、届出時のルールや届出後の取り組みをすべて法令化したこと。従来の制度運用は、ガイドラインに基づくものだった。ガイドラインには法的拘束力がなく、届出制を採用していることから、いったん届出が公表されれば、その後に疑義が出ても、消費者庁は届出者に撤回を求めることができなかった。そうした事情から、真面目な事業者は問題が生じた場合に迅速に対応するが、そうでない事業者では放置したまま売り続ける傾向にあった。事業者の性善説に立った制度で、正直者が馬鹿を見てきたわけだ。

 この点については、制度がスタートした2015年当時から懸念されていた。今回、消費者庁はガイドラインによる運用から法令に基づく運用へ改めた。これは、要件・基準を順守しない届出者に対し、国が強制的に機能性表示を禁止できることを意味する。10年の歳月を経て、最大の懸念が解消されたことになる。

2段階に分けて施行

 改正点が多岐にわたることから、今年9月1日と来年4月1日に分けて施行される。9月1日に施行された施策は、健康被害情報の収集・報告の義務化、GMP(適正製造規範)による製造管理の要件化、表示方法の見直しだ。

 このうち、緊急性をともなう健康被害情報の収集・報告の義務化は即日施行となった。残りの施策は、事業者が準備する時間が必要なため、2年間の経過措置期間を設けた。健康被害情報の収集・報告の義務化とGMP管理の要件化については、機能性表示食品の届出者に加え、特定保健用食品(トクホ)の許可を受けた事業者にも適用される。

 9月1日から義務づけられた健康被害情報の収集・報告は、厚生労働省が中心となって対応する。ただし、届出者は保健所に加えて、消費者庁へも報告しなければならない。厚労省は被害の拡大防止を目的に、違反者に対し、食品衛生法に基づいて営業の禁止または停止を命じることが可能。一方、消費者庁では、順守事項が守られていない場合、食品表示法に基づいて機能性表示をやめるよう指示・命令ができる。

 来年4月1日に施行される施策には、新規成分への対応、更新制の導入、買い上げ調査の拡充、PRISMA2020(研究レビューの国際的な指針)の準拠などがある。これらに加え、原料の安全性確保に関する手順を定めた指針を告示に落とし込む予定だ。

概算要求で浮かび上った施策の概要

記者会見する小林製薬の首脳陣(8月8日、オンライン)
記者会見する小林製薬の首脳陣
(8月8日、オンライン)

    消費者庁が8月30日に公表した来年度予算案の概算要求を通じて、制度改正の具体的な姿が浮かび上がった。機能性表示食品の安全性確保に3億円を計上。GMP管理の要件化にともなう立入検査、新規成分への対応、医薬品との相互作用や過剰摂取をテーマとしたリスクコミュニケーションに充てる。

 GMP管理の要件化は、サプリメント形状の製品が対象。届出者は製造工場でGMPによって製造・品質が管理されていることを確認し、届出を行う。製造工場が順守事項を守っていない場合、消費者庁は食品表示法に基づき、機能性を表示しないように指示・命令することが可能。対象となるサプリメントの定義を食品表示基準で定めたが、詳細については今年度内に通知などで示す。

 来年度予算案の定員要求では、保健機能食品(機能性表示食品・トクホ・栄養機能食品)の体制強化で16人の確保を目指す。そのうちの8人はGMPの指導・監査に充て、GMP管理が適切に行われているかどうかを確認するため、工場への立入検査を実施する。「経過措置期間を利用して、すべての対象工場で実施する」(食品表示課)としている。

 改正の“目玉”の1つとして、新規成分を配合した製品が届け出された場合、消費者庁で慎重に確認するという取り組みを予定している。専門的な知見が必要となるため、医学や薬学などの専門家に意見を求めるアドバイザリーボードの仕組みを設ける。

 また、来年度には、販売中の機能性表示食品やトクホを対象とした買い上げ調査を拡充する。前年度予算は2,000万円だったが、来年度予算案として9,000万円を要求。買い上げ調査の対象件数を従来の年間100件程度から、10倍の1,000件に増やす。トクホも含むが、大部分は機能性表示食品となる。

 このほか、新規事業として、保健機能食品の在り方に関する調査研究も予定している。消費者庁によると、「機能性表示食品などは疾病者を対象外としているが、疾病者の範囲があいまいなことから明確化する」(食品表示課)という。これに加え、いくつかの成分をピックアップして国が研究レビューを実施する。適切な研究レビューを普及させて、制度の信頼性を向上させる考えだ。

(つづく)

【木村祐作】


<プロフィール>
木村祐作
(きむら・ゆうさく)
1965年生まれ、大阪府出身。熊本大学法学部法律学科卒。食品専門誌の記者、データ・マックスのヘルスケア事業部編集長などを経て、2020年11月からフリーライター。中央官庁を中心に、消費者被害・食品・ヘルスケア・通信販売などの各分野に関わる行政動向を取材。「NetIB-NEWS」「通販通信ECMO」「週刊エコノミスト」などに寄稿するほか、講演活動も行う。

(後)

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