2024年11月15日( 金 )

「青春18きっぷ」の改悪と今後の展望(前)

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運輸評論家 堀内重人

 利用者から好評の「青春18きっぷ」は、2024年冬の発売分からルールが変更される。自動改札機が通過できるようになる半面、従来は使用日にスタンプを押す方式であったが、3日用・5日用というかたちに変更となり、連続した日しか利用できなくなる。これにより、従来であればグループで1枚の「青春18きっぷ」を使用して旅行することができなくなるなど、リタイヤした高齢者の外出促進という効果が、そがれることになる。「青春18きっぷ」は快速も含めた普通列車の普通車自由席が乗り放題になる企画乗車券として、利益率は決して高くないものの、固定層がいるため、JRにとって貴重な収入源でもある。「青春18きっぷ」が改悪される背景と今後について言及したい。

「青春18きっぷ」が誕生した背景と特徴

イメージ    「青春18きっぷ」の誕生は、国鉄時代まで遡ることになる。当時の国鉄は、年間で1兆円の赤字を出す事業者であったため、当時の国鉄旅客局が増収策の一環として企画し、1982年3月1日に「青春18のびのびきっぷ」として、販売を開始したのが始まりである。当初は1日券が3枚綴、2日券が1枚の8,000円で販売されていたが、84年夏季から1日券が5枚綴りとなった。

 この企画乗車券は、主に学生などが休みとなる春季・夏季・冬季に期間限定で販売され、国鉄時代から一貫して、原則として特急(新幹線を含む)・急行などの優等列車は、利用することができなかった。これらの列車を利用するには、特急・急行料金だけでなく、乗車する区間の普通運賃も、支払う必要がある。利用が可能であるのは、旅客鉄道会社全線の快速列車を含めた普通列車の普通車自由席である。運賃だけで乗車が可能な列車に限定して、乗車が可能な企画乗車券である。

 当時の国鉄を取り巻く環境であるが、長距離を運転する普通列車が数多く存在しており、これらは機関車牽引の客車列車であった。

 だが当時は、民営化後のように需要の多い時間帯には、電車や気動車で高頻度運転を実施するような合理化および柔軟な運用が実施されておらず、長大編成の客車列車で運転されていた。そのため、学校が長期休暇となる期間中は、通学客がいなくなるため、輸送力を持て余していた。そこで既存の列車の輸送力を活用しながら、新たな需要を喚起することで、増収が狙われた。

 国鉄時代から、「SLやまぐち」など、全車座席指定の普通列車・快速列車に乗車するには、別途、座席指定券を購入すれば利用可能である。現在、首都圏の普通列車・快速列車のグリーン車自由席に関しては、自由席グリーン券を購入すれば、利用可能となっている。

 「青春18きっぷ」の名称の由来は、当時国鉄旅客局の局長であった須田寬(後のJR東海初代社長)が、青少年・学生をイメージした「青春」と、その象徴的な年齢で「末広がりの8」にも通じる「18」を組み合わせたものだという。

 青少年や学生向けに設定した企画乗車券ではあるが、若年層以外であっても利用可能なので、昨今ではリタイヤした高齢者が、グループで日帰り旅行をするような使い方をしている。

 国鉄時代の5枚綴りで販売する方法では、未使用の切符を金券屋へ販売する行為が横行したため、JRになってからは1枚の企画切符として販売されるようになった。

 だが「青春18きっぷ」も、2024年冬の販売からは、制度が改悪されて使いづらくなる。販売価格は、5日間用が24年夏季販売分と同額の1万2,050円で、3日間用は1万円である。連続した3日間及び5日間の使用となるので、使い勝手が非常に悪い。とくにリタイヤした高齢者は、グループで「青春18きっぷ」を購入して日帰り旅行する使い方が多かったため、今後は高齢者グループの利用が減少することが予想される。

「青春18きっぷ」が改悪される要因

 24年夏季販売分の「青春18きっぷ」は、切符の横幅が120mmもあるため、自動改札機を通らず、有人の改札口で使用前に日付の入ったスタンプを押してもらう必要があった。

 「青春18きっぷ」が販売を開始した国鉄時代は、改札口の合理化は実施されておらず、ほとんどが有人の改札口であるから、「青春18きっぷ」を利用する場合も、大して問題にならなかった。

 JR発足後は、各社が改札口の自動化を推進した結果、「青春18きっぷ」の販売時期になると、有人の改札口が混雑するようになった。また、職員の合理化が進んだこともあり、職員1人あたりの負担が増大するようになった。

 JRになってからは、特急券なども自動改札が使えるように切符の横幅が85mmとなったが、「青春18きっぷ」は日付のスタンプを押す関係から、横幅85mmにすることができない。

 そんな中、JR発足25周年を機に、それまで毎年10月に発売していた「鉄道の日記念・JR全線乗り放題きっぷ」に代わり、12年10月に「秋の乗り放題パス」の販売を開始したことも、今回の「青春18きっぷ」改悪に影響を及ぼした。

 「秋の乗り放題パス」は、利用可能な列車・路線の範囲は、「青春18きっぷ」や以前販売されていた「鉄道の日記念・JR全線乗り放題きっぷ」と変わらない。

 だが「鉄道の日記念・JR全線乗り放題きっぷ」と比較すると、販売開始当初の価格は、大人7,500円であった。また「青春18きっぷ」とは異なり、子ども用の価格が設定され、子どもは3,750円というように、「青春18きっぷ」よりも割安な価格となった。

(つづく)

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