トリビュートの不動産再生(2)賃料増額でビルの収益改善
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地場企業によるバリューアップ
不動産のバリューアップでは、継続賃料が相場の賃料と乖離する場合、賃料改定を行うことで収益を向上させ、物件価格を引き上げる手法が一般的だ。不動産ファンドなどにおいては、大型のオフィスビルや商業施設などに対し、エントランス、共用部、水廻りなどにおいて積極的な改修工事を行い、賃料アップを図ったうえで、ビル管理コストなどの支出を抑え、収益を向上させることが多い。
こういったファンドなどが手がける大型アセットではなく、小型のオフィスビルやテナントビル、マンションのバリューアップを手がけるのが、(株)トリビュート(福岡市中央区)だ。同社が手がけてきたバリューアップ手法のうち、賃料改定について紹介したい。
借地借家法32条は、建物賃料の増減額請求権を定め、「土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動により、または近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき」には、当事者は契約期間中であっても、賃料の増減額請求権を行使することができるとしている。
物件オーナーが賃料改定を求める場合は、まず賃借人に賃料改定を求める旨の通知を送付し、具体的な金額について協議を行うことが一般的だ。合意に至らない場合は、裁判所に調停を申し立て、調停委員の仲介により協議を行い、それでも合意できない場合は、賃料改定を求めて訴訟を提起することなる。
トリビュートでは、住居のオフィスおよび民泊などへのコンバージョンによるバリューアップも手がけているが、西中洲のテナントビルが最も良いバリューアップ事例だろう。
西中洲ブランド確立 高級店の出店続く
トリビュートは、コロナ禍初期の2020年4月、西中洲のテナントビル「連スクエア・連ラウンド」(以下、連ビル)を取得し、バリューアップを経て23年8月に売却した。
都道府県地価調査によれば、コロナ禍でも福岡市の地価は大幅な上昇を続けてきたが、唯一低迷したのが歓楽街・中洲の地価だった。基準地となっている「中洲4-2-18」は、9月公表の地価調査(24年)では、20.7%増の大幅な伸びを見せたが、コロナ禍の20年は横ばい、21年は2.1%減と低迷を続け、23年は5.2%増となったが、それでも他地点と比べれば小幅な上昇で、依然として取り残された感があった。落ち着いた雰囲気で高級店も多く立地する西中洲は、中洲よりも実際の落ち込みは小さかったものの、コロナ禍の影響で空室率は最大3割まで上昇したという。
そんななかでも、同社は「立地の希少性からビルの収益性を伸ばす余地は大きい」(同社・田中稔眞社長)と見て、地道な収益改善を進め、取得当初から売却までに、賃料単価が最大で約1.7倍になった区画もあるようだ。
賃料増額には賃借人との合意が必要となるが、「連ビルはリーマン・ショック直後に竣工した物件ですが、ほとんど賃料改定が行われてきませんでした。適正賃料はもっと高い水準にあると判断し、テナントさまとの交渉を進めました」とグループ会社・(株)TRホールディングスの専務取締役・永田誠氏は話す。
一般的な賃料改定の要件として、固定資産税をはじめとする租税負担の増加、近隣の成約賃料の上昇が挙げられる。地価調査や地価公示からもわかるように、福岡市の地価は上昇しており、「固定資産税の増額」というかたちで現れている。また、西中洲においては、高級飲食店の出店も増えており、エリア内の新規賃料相場を引き上げている。相場賃料の適正化は、各ビルの収益性向上に限らず、テナントの新陳代謝を促進し、エリアの価値を向上させる効果も期待できる。「西中洲は全国的に見ても、飲食店の客単価が高いエリアと聞いています。とくにここ1~2年は高級店の新規出店も増えています。売却後も、連ビルの管理を手がけるなかで、西中洲ブランドの確立を実感することも多い」(田中社長)。
【永上隼人】
博多駅から8分のオフィスビルでも
同社は2月、御笠川と国道3号に挟まれた博多駅に近い立地のオフィスビルを取得し、バリューアップに取り組んでいる。同ビルはRC造・地上6階建のオフィスビルで、JR博多駅まで徒歩8分という立地にも関わらず、連ビルと同じく賃料水準が低いままだった。すでに多くの既存テナントとの交渉を終え、賃料単価を大幅に上昇させることに成功したという。賃料増額にともなう退去はほとんどなく、ビルの入居率は9割以上を保っているようだ。「適正賃料はまだ上の水準にあると考えていますが、急激な増額はテナントさまの負担も大きいため、市況を見ながら今後判断していきたいと考えています」(永田氏)。
<COMPANY INFORMATION>
代 表:田中稔眞
所在地:福岡市中央区渡辺通1-1-1
サンセルコビル6F
設 立:2009年4月
資本金:1,600万円
TEL:092-292-2313
FAX:092-292-2314月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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