2024年12月02日( 月 )

都市型民泊の不動産ファンド 賃貸マンション活用で成長見込む(後)

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 都心部でのホテル需要が高まっている。インバウンド需要の復活で急増する訪日外国人の宿泊に加え、札幌市ではイベント開催期間中にホテル需要が急増してどこも満室になる事態が報じられている。こうした需要の増減に柔軟に対応できる、都市型民泊への注目が集まる。既存の居住用不動産を宿泊施設として利用する都市型民泊を手がけるスタートアップも登場し、それを資金的に支援する動きも顕在化している。

賃貸マンションの活用 都市型民泊の調査レポ

 都市型民泊がホテル需要の一部を代替する受け皿として期待できるとの判断の根拠となっているのが、今回の不動産ファンド組成と同じタイミングで発行した、日本政策投資銀行とDBJアセットマネジメント、(株)価値総合研究所が共同で都心部の居住用不動産を活用した都市型民泊の現況と今後の可能性に関する調査レポートだ。

 このレポートは、既存住宅ストック(居住用不動産)を活用し、適切に宿泊施設として管理運営される民泊、とくに都心部の集合住宅(賃貸マンション)を活用した都市型民泊に着目。17年の民泊新法制定からコロナ禍の冬の時代を経た都市型民泊の現在地と、今後の発展の可能性について考察するものと位置付けている。

 調査レポートでは、まず民泊の需要動向として、訪日外客数は回復傾向が続き、月別では23年末頃にはコロナ禍前の水準に回復したほか、外国人宿泊者数も増加しており、外国人比率もコロナ禍前の水準を超過したと指摘。その一方で、東京都におけるホテル・旅館の施設・客室ストックは19年度から微増程度にとどまっている。近年の建設費や地価・不動産価格の高止まり、慢性的な従業員不足から、今後の宿泊施設の供給に陰りが生じる懸念についても指摘し、人手を抑え、既存ストックを活用できる民泊が宿泊需要を取り込む可能性を示した。

 東京都の民泊利用者は約7割が外国人観光客であり、「現地の人の暮らしが体験できる」「大人数でも利用できる」「安く泊まれる」などの理由から、訪日外国人の6.7%が宿泊先として民泊を選択。民泊は多様な訪日外国人の宿泊ニーズのために活用されていることから、既存住宅ストックを都市型民泊とすることで、こうした需要の受け皿になることが期待されているとしている。ただし、東京都では宿泊者全体の民泊宿泊比率は2%前後で推移しており、停滞気味。一方で、外国人来訪者の3割程度が民泊の利用意向を示しており、民泊の潜在的な需要は大きいと想定している。

 民泊物件の利益率にはばらつきがあり、30%以上の物件と10%未満の物件が入り交じっている。また、17年の住宅宿泊事業法施行以来、4割程度の物件が事業廃止に至っていると指摘。規制上限日数換算の宿泊者数よりも延宿泊者数が下回っていると試算され、民泊全体で見たときの稼働率は、向上余地が大きいことから、収益性に課題があると想定されている。そのため、個人・小規模から大規模事業者が混在し、運営の質にばらつきがある可能性を推察している。

民泊需要の将来予測 30年に約242万人泊

民泊需給分析

 今回の調査では、宿泊需要全体と民泊需要の将来シミュレーションを実施し、民泊の延べ宿泊者数予測を算定した。日本のGDPは概ね1.0%前後の成長率が予測(OECD)されており、それにともなって可処分所得が上昇する見込み。そのため、日本人延べ宿泊者数はやや上昇していくと予測した。外国人延べ宿泊者数は政府目標である訪日外客数6,000万人を達成すると仮定して算出しているため、30年に向けて大きく拡大するとし、これらの前提に基づく東京の民泊需要は30年時点で約242万人泊、23年比で29%増と予測した。

 なお、民泊選択比率(宿泊者総数のうち民泊に宿泊している割合)が、23年の訪日外国人の民泊利用経験率に近づいていくと仮定した場合の民泊潜在需要は約593万人泊、23年比で約3.2倍増となる。

 将来シミュレーションにあたり、民泊供給量は都道府県知事などへ民泊事業を営む旨の届出を提出した届出住宅数を使用。居住世帯のない住宅(いわゆる空き家)の一部(共同住宅の持家以外)のうち、一定割合(民泊転換比率)が民泊に利用されると仮定した。民泊転換比率は過去平均が継続すれば、将来的な民泊供給量は、居住世帯のない住宅が増加することを背景に増加していくことが予想される。東京都の民泊供給予測としては、24年の8,725件から30年に1万1,120件へ拡大するとしている。

 民泊潜在需要との供給量比較で見た場合には、需給バランスがタイトになることが予想されるため、民泊供給量が増加する必要があると示唆。供給サイドの現状を踏まえれば、適正に管理運営がなされた質の高い事業者を中心に事業規模を拡大させることが望ましいとの考えを示した。

賃貸マンションを民泊に デジタル活用で効率化

 民泊の需給や投資への課題や展望として、営業規制の理由ともなっている近隣住民の懸念などを踏まえ、市場拡大のためには、適正管理を行いながら高い収益性を持つ事業者が増加し、民泊に対する社会的信用を高めていくことが必要であると指摘。また、賃貸マンションは現在新規供給量も多く、人口減少時代にあることを踏まえれば、中長期的に築年数の観点から空室を抱えるマンションは増加していくことが見込まれる。このため、マンションのストック再生・良質化の策として、民泊との複合用途への転換を促進する動きが期待されるとしている。

 今後の民泊の適切なマーケット形成に向けては、事業者サイドに稼働率の向上、法令遵守、質の高い管理運営、業務効率性の向上が求められる。これらの多岐にわたる対応すべき事項に対して、デジタル技術の活用などにより効果的・効率的に対応した事業者が現れ始めており、そうした事業者を中心に適切なマーケット形成が行われることが望ましいと考えられると結論付けた。

 今回、調査レポートの発行を通じた都市型民泊市場の分析と不動産ファンドを通じた出資実行により、日本政策投資銀行グループの知見と市場からのリスクマネー供給の両面から、都市型民泊市場の健全な発展に貢献することを目指すとしている。

都市型民泊ではないが、東京・西麻布では賃貸マンションを利用した家具付きアパートメントも(写真は三菱地所が運営する米国「ブルーグラウンド」の居室)
都市型民泊ではないが、東京・西麻布では
賃貸マンションを利用した家具付きアパートメントも
(写真は三菱地所が運営する米国「ブルーグラウンド」の居室)

(了)


<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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