2024年12月03日( 火 )

都市の「余白」再開発(後)

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国交省はまちづくりGX推進 縦方向への緑化・庭園化も

 これまで取り上げてきた公開空地や都市公園などの「余白」においては、ただ空間が空いていること自体も重要なのだが、もう1つ重要な要素がある。それは「緑」の存在だ。

 国土交通省では現在、気候変動への対応や生物多様性の確保に加えて、人々のライフスタイルの変化を受けたWell-beingの向上の社会的要請に対応するため、これらに対し大きな役割を有している都市緑地の多様な機能の発揮を図るため取り組みである「まちづくりGX(グリーントランスフォーメーション)」を進めている。まちづくりGXとは、文字通り、まちづくりにおけるグリーン化のことを指し、多様な役割を持つ都市緑地の活用と、エネルギーの面的利用の2つを軸とした取り組みのことである。

 そうした取り組みの一環で、10月29日には「都市緑地法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」および「都市緑地法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令」を閣議決定。さらに、都市緑地法に基づいて、民間事業者などによる良質な緑地確保の取り組みを気候変動対策・生物多様性の確保・Well-beingの向上等の観点から国土交通大臣が評価・認定する「優良緑地確保計画認定制度(TSUNAG)」を創設し、24年11月から運用を開始している。このTSUNAGを通じて民間事業者などによる良質な緑地確保に関する取り組みの価値を“見える化”することで、民間投資の促進を図り、都市における緑地の質・量の両面での確保を推進。良好な都市環境の実現につなげていきたいとしている。

 ともすれば無機質な空間になりがちな都心の景観に差し込まれた木々や芝生などの緑は、まるで一服の清涼剤のように爽やかな存在だ。だが、ある程度まとまった面積での緑化が可能な都市公園はともかく、都心部の公開空地で大胆な緑化を行うことはなかなか難しい。その解決策として考えられるのが、緑化や庭園化を縦方向に伸ばしていくやり方で、その先駆的な事例といえるのが、天神のランドマークの1つである「アクロス福岡」(95年3月竣工)だろう。

 東公園に移転した福岡県庁の跡地で開発されたアクロス福岡の最大の特徴は、何といっても天神中央公園から立ち上がるように連続する階段状のステップガーデンだ。大規模な屋上緑化であるステップガーデンでは、竣工から30年近くが経過して植えられている木々が生い茂り、もはや都心にそびえ立つ「山」といっていいだろう。天神中央公園と一体となったランドスケープを構成する景観的な効果のほかにも、木々が生み出す木陰によるヒートアイランド現象の緩和など、さまざまな恩恵をもたらしている。

 アクロス福岡が端緒を切り拓いた、こうしたいわば積層型の立体庭園とでも呼ぶべき「余白」「緑」の確保のやり方は、近年の都市開発ではよく目にするケースが増えてきたように思われる。たとえば前出の明治公園のPark-PFIのほか、博多区の「ららぽーと福岡」(22年4月竣工)でも2層のオーバルパークや屋上のスポーツパークなど、積層型の広場を整備している。

SAKURA MACHI Kumamoto
SAKURA MACHI Kumamoto

    ほかに、熊本市中央区の複合施設「SAKURA MACHI Kumamoto(サクラマチクマモト)」(19年9月竣工)でも、随所にせり出したテラスに植栽された空中庭園や、屋上庭園「サクラマチガーデン」を整備。これから再開発が本格的に進んでいく九大・箱崎キャンパス跡地における事業者提案でも、完成予想パースを見る限りでは中核施設の1つと目されるイノベーションコアにおいて同様の積層型のテラスでの緑化がなされている。こうした縦方向に緑化・庭園化を進めていくやり方は、土地が限られた都心部においては有効策の1つだといえるかもしれない。

九大・箱崎キャンパス再開発のイノベーションコア(九大・UR公表資料より)
九大・箱崎キャンパス再開発のイノベーションコア
(九大・UR公表資料より)

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 天神や博多のような都心部ではないが、たとえば新宮町ではJR新宮中央駅の開業に合わせて大規模な区画整理を行った際に、駅前に広大なセントラルパークとなる「沖田中央公園」を整備。同公園をまちづくりの核に据え、その周辺でIKEAなどの商業店舗誘致や分譲マンションなどの住宅開発を行い、魅力あふれる新たなまちの中心部をつくり出すことに成功している。

 これまでの再開発では、いかに有効活用するかの土地効率の観点から、「建物を敷き詰める」「床を埋めていく」ことばかりに目が行きがちなケースが多く見られた。だが、新宮町や冒頭のグラングリーン大阪におけるうめきた公園にも通じる、こうした「空いている」ことによって周辺を含めた全体の価値を高めていく「余白」を重視したまちづくり手法や、天神や博多における公開空地の確保を意識した再開発の進め方などは、今後の再開発において1つの潮流となっていくかもしれない。

(了)

【坂田憲治】

(中)

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