AI・データセンターとエネルギー戦略 そしてエッジ・コンピューティングの未来(前)
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2022年のOpenAIによるChatGPTの発表以降、AIを利用したアプリが急速に浸透しつつある。同時に現実世界では、世界中でデータセンターが建設されている。莫大な安定電力を必要とするため、カーボンニュートラルとともに国のエネルギー戦略を左右する主要なファクターとなりつつある。そしてさらにその先には、中央集約型のデータセンターから分散型のエッジ・コンピューティングへの深化も視野に入ってくる。
世界のDC好立地・日本 膨大な電力需要増加予測
現在、日本各地でデータセンター(DC)の建設が進められている。大量なデータ処理を必要とするAIや、世界のあらゆる事象をデジタルデータ化するIoTデバイスの浸透によって、DCの需要は増加の一途をたどっている。
DCの立地は関東と関西に集中しており、2024年以降の新設についても、ほとんどが同地域だ。DCは高速通信インフラを必要とし、また利用者に近いほど処理応答速度が速くデータ転送効率が良いため、利用者が多い関東、関西に集中する傾向がある。今後も大都市部を中心にG5を利用したデータ処理のリアルタイム性が重視されるサービスの実装が進み、需要と供給の集中は続くと予想される。
日本でのDC建設は国内の需要ばかりではない、海外企業のネットワークのDCとしても需要が高まっている。理由は日本が地政学的に安定していることや、政治体制として情報機密の信頼性が高いことなどもあるが、日本が多くの主要な国際海底ケーブルのハブとして機能していることが大きい。日本からのケーブルはアジア、北米、オセアニアをつなぐ通信ネットワークの基盤を形成しており、日本を経由することで迅速かつ安定した通信インフラが確保できる。とくにアジアの主要市場(中国、韓国、シンガポールなど)と北米市場(アメリカ西海岸)を結ぶ主要なルート上にあり、海底ケーブルのインフラは日本がDCの好立地となる決定的な要因となっている。
日本を立地とした需要の増加を背景に、近年はDCが巨大化し、サーバー数5,000、電力容量25MWを超えるハイパースケールデータセンター(HSDC)の建設が相次ぐ。たとえば、オーストラリアのAirTrunkが東京都青梅市に建設中のTOK2は、3棟の建物からなり延床面積は4万790m2、全体の完成は27年を予定している。DCの規模を表す受電容量は110MWで、フル稼働すると一般家庭23万世帯分の消費電力量に相当する。
大量の電力を消費するDCの建設が続く場合、将来的な電力需要はどうなるのか。電力広域的運営推進機関の推計によれば、DCや半導体製造工場の電力需要は、23年から33年の10年間で受電量にして5.37GW増加、年間消費量にして最大47GWh増加すると見られている。日本全体では、省エネや人口減によって需要の低下が見込まれるとして、DC分の増加を織り込んでも、電力消費量は23年推定実績803TWhに対して33年の予測は834TWhで4%増に過ぎない。
だが、ソフトバンクらDC事業者によると、大型プロジェクトの進行により40年にはDC分の総受電量が23年比で10倍以上の33GWになると試算している。これは年間消費量としては最大289TWhに達し、日本全体の25%程度を占める予測になる。
技術的省エネは足踏み エネルギー戦略連携が急務
DCは24時間365日稼働で常に大量電源の安定供給が必要だ。しかも立地が大都市圏に偏るため、地方に偏る電源との需給バランスが問題となる。そこで事業者側はAIの機械学習やビッグデータ処理など、通信遅延が問題とならず、大量のデータを長時間にわたって処理する用途を地方のDCに振り向ける構想などを進めている。
DCが大量の電力を必要とするのは、データ処理と、それにともなって発生する熱を冷却するためで、それらが必要電力の40%ずつを占めている。消費電力を減らす方法の1つが、DCを大規模化(ハイパースケール化)して高効率な冷却システムを導入することだ。DCの電力使用効率を表すPUEは07年当時2.5だったが、大規模化による冷却効率の改善によって、13年には1.7を割るまで向上した。しかしその後の改善は足踏みしており、22年時点で1.55程度にとどまっている。
技術面での劇的な電力量削減は近々には望めないことから、やはり電源そのものの増設が不可欠である。しかし、施設建設から稼働までのリードタイムは、DCが3年に対して、発電所は環境調査などを含めると太陽光8年、風力10年、原子力は20年と大きな開きがある。よって長期的な視野で、DC建設とエネルギー戦略を連携させることが不可欠となっている。
世界的な電力消費量の増加 DC誘致国家アイルランド
私たちの身近なAI利用も直接的に電力消費量の増加を引き起こしている。たとえば、Google検索1回の電力消費量は0.3Whだが、ChatGPT1回問い合わせに対する生成AI応答の電力消費量は2.9Whで約10倍だ。
国際エネルギー機関(IEA)が予測する、DCやAI、仮想通貨に関わる世界の電力消費量は、22年に約460TWh(世界の電力需要の約2%)だったものが、26年には620~1,050TWhになる。最大でブラジル、カナダ、韓国のうち1カ国分の電力が増加するのに等しい。
DCの建設支出は今後10年増加の一途をたどると予想されており、30年には世界で490億ドルに達するとの予想もある。
現在、世界中で8,000を超えるDCが稼働している。33%がアメリカ、16%がヨーロッパ、10%が中国にある。また、日本がDCの好立地となっているように、アイルランドでもDCの誘致は国家的な事業となっている。同国にはFacebook、Google、Microsoftなどの企業が大規模なDCを建設している。同国は風力資源が豊富で、20年には風力の再生可能エネルギーによる電力構成が年平均で42%を実現した。再生可能エネルギーを利用するDCはカーボンフリーをうたうことができるため、巨大テックにとって同国のDCは魅力的だ。
だが、増え続ける電力消費量はアイルランド国内でも大きな課題になっている。22年に同国内で消費された電力29.5TWhのうち20%、5.2TWhがDCによるもので、DC分消費量は15年比で4倍になっている。29年までに総電力量の27%を占める可能性があると推計されている。だが同国政府はDC誘致を国家的重要戦略としており、電力問題をどのように乗り切るか注目される。
(つづく)
【寺村朋輝】
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