「余白」が周辺の価値向上にも寄与
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福岡大学 工学部社会デザイン学科
教授 柴田久 氏求められる3つの要因
──今年、梅田貨物駅跡地の再開発うめきた2期区域で「グラングリーン大阪」が一部開業し、大規模ターミナル駅直結の都市公園「うめきた公園」が話題となりましたが、都市開発においてオープンスペースやグリーンスペースなどの「余白」をいかに確保するかが、重要になってきているように感じられます。
柴田 たしかに、以前と比べると都市のなかにおける「余白」の重要性が増してきている傾向はあると思います。
その要因には、大きく3つあると考えられますが、まず1つ目は忘れてはならない防災上の観点です。つまり地震や水害などの災害の発生時に、避難場所や防災拠点としての役割を求められるということです。たとえば都市公園の一種、防災公園などは、周辺エリアからの避難者を収容し、市街地火災などから避難者の生命を保護する避難地としての機能のほか、復旧・復興拠点や復旧のための生活物資などの中継基地といった防災拠点としての役割を担うことが求められます。再開発における公開空地などの「余白」も同様の役割を期待されて然るべきですし、これだけ災害が増えている昨今では、その重要性がますます高まっています。
2つ目は都市環境を良好に保つ役割です。近年は気候変動が激しくなり、とくに夏場の暑さは軽視できなくなってきています。そうした状況下において、公開空地や緑などの都市の「余白」によって風通しを良くすることで、気温の上昇をできるだけ抑え、ヒートアイランド現象を抑制していくことが期待されています。
そして3つ目は、これが最近とくに言われていることなのですが、都市の「余白」部分を活用して賑わいを創出したり、魅力的な施設を入れることなどによって、その周辺の価値を上げ、ひいては都市全体の価値を上げる装置の1つとしていくというケースです。たとえば再開発によって生まれた公開空地の一角に話題性のあるおしゃれなカフェを入れたり、その広場を利用して集客イベントを開催したりすることで、その場所に人が集まり、ひいては周辺にも波及効果を生み出していくような──。これまで地方都市の都心部などでは、空き地が駐車場として利用されるようなケースが多かったですが、近年のようにテレワークや「ウォーカブルなまちづくり」が盛んになってきている状況下では、人が歩いてまちにやってきて、そこで都市的な楽しみ方ができる場所というのを「余白」を活用してつくっていく。そうすることで、わざわざでも、この「都市で働きたい」「都市に住みたい」という付加価値を見据えているとも言えます。
──最近はまた需要が戻りつつありますが、コロナ禍を経たことで、都心部のオフィスに対する考え方がガラリと変わりました。
柴田 以前であれば、都心にオフィスを構える第一の理由というのが利便性でした。ところがコロナ禍を経て、オンラインやテレワークなどの“どこにいても仕事ができる”というやり方が普及したことで、都市には利便性だけでなく、その場所自体の魅力というものが求められてくる時代となってきたように思います。そして、まさに「余白」が、その場所の魅力を上げるため、さらに周辺のビルや不動産の価値を上げるような使われ方へと段々とシフトしてきているというのが、私の見立てですね。
たとえば天神ビッグバンが進行して、オフィス機能を備えた再開発ビルが次々とかたちとして見えてきていますが、「大名ガーデンシティ」の中庭や「ONE FUKUOKA BLDG.」(略称:ワンビル)の公開空地など、いずれの再開発ビルでも「余白」の確保が意識されています。もちろん開発する企業側としては、経済効率性を考えた床面積の確保と、公共的な役割も担う空地の確保とのバランスの取り方が難しいとは思いますが、せっかくつくるのであれば、できるだけ再開発ビルや周辺の価値を高める「余白」の有効な使い方をいろいろと検討してもらえれば、明治通りや天神自体の価値がさらに高まると思います。たとえばワンビルなどは、渡辺通りと明治通りの交差点という非常に目につきやすい場所に公開空地を設けていますので、そこで「どんなイベントができるか」「どういうPRができるか」など、さまざまな使われ方の可能性が挙げられ、期待したいところです。
「N・H・K」の重要性
──近年はビルの一角の公開空地だけでなく、明治公園のPark-PFIや、熊本の「SAKURA MACHI Kumamoto」のように、公園や緑化を縦方向に積み重ねていくようなケースも見られるようになりました。
柴田 その代表的なものというか、先進事例が「アクロス福岡」ですね。先ほどもお話ししましたが、今年のように夏場の暑さがこれだけ厳しくなると、やはり都市のなかに緑や日陰がどれだけあるかというのは、かなり重要な要素になってきているように思います。屋上や壁面が緑化されることで、ビルに直接日差しが当たりにくくなり、ヒートアイランド現象を緩和していくことにもなりますし、視覚的にも良いイメージをもたらします。ただし一方で、その緑化部分の維持管理も必要になってきますので、当初の設計の段階から、そうした維持管理についてもセットで見込んでおく必要があります。
たとえば以前より、ある敷地に対してデザインの提案をする際に、そこで閉じて完結性を高めるデザインのやり方と、周辺との関係性をうまくつなぎながら、その土地のデザインを高めていこうというやり方の2つがざっくり言うと想定されますが、今はどちらかというとその後者のやり方が評価されているというか、好まれている傾向はあると思います。天神中央公園の緑とつながるようにデザインされたアクロス福岡は、維持管理面でも先進的で、すばらしい事例だと思います。
──以前、公園を含めた公共空間のデザインにおいては「N・H・K」(N=日常性、H=波及性、K=継続性)を意識することが重要だと教えていただきましたが、都市の「余白」についても同じことがいえそうですね。
柴田 冒頭、都市全体の価値を上げる装置としての「余白」の重要性についてお話ししましたが、その「余白」があることによって都市の回遊性が高まったり、周辺での買い物客が増えるなどの経済的な効果があったりなど、やはりそうした波及効果が生まれることを目指して意図的に「余白」をつくっていかなければならない時代へと、どんどん変わってきたように感じます。もちろん何でもかんでも詰め込まれ、いざというときに「余白」としての機能が発揮できないのは本末転倒ですが、今後は地域のニーズや利用する側のニーズ、そして商業的なニーズなども踏まえながら、周辺を含めた都市の価値を高める「余白」の活用法を模索していくべきではないだと思います。
【坂田憲治】
<プロフィール>
柴田久(しばた・ひさし)
1970年、福岡県生まれ。福岡大学工学部社会デザイン工学科教授。博士(工学)。2001年、東京工業大学大学院情報理工学研究科情報環境学専攻博士課程修了。専門は景観設計、公共空間のデザイン、まちづくり。カリフォルニア大学バークレー校客員研究員などを務め、南米コロンビアの海外プロジェクトや九州を中心に、四国、東北を含む数多くの公共空間整備、地域活性化に向けた事業、計画、デザインの実践に従事している。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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