林業再生と木材活用促進へ 党派や市町村を超え後押し(後)
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福岡県議会議員
林活議連福岡県連絡会議会長
井上忠敏 氏林業再生と木材活用の推進は、健全な森林環境の保全や水源の確保、生態系の維持、そして持続可能な地域社会の実現などさまざまな効果が期待でき、国や自治体はもちろん、民間でも取り組みが活発化している。そこで、政治の立場からこうした動きを後押しする、福岡県の「林活議連連絡会議」会長の井上忠敏県議会議員に、福岡県の現状や課題、今後に向けて強化すべき取り組みなどについて聞いた。
自治体に促す森林保全(つづき)
──福岡県における林産業について、どのような現状認識をお持ちですか。
井上 福岡県の森林率は45%と全国平均の67%より20ポイント以上も低く、宮崎県や熊本県などと比べると、林産業が盛んとはいえません。しかしながら、スギやヒノキを中心とする人工林は11万ha、人工林率は65%と全国平均の40%を大きく上回る水準にあります。その大半が植栽後50年以上の伐採可能な森林となっていますが、適切な時期に伐採されない放置林が多く存在することを意味します。
その要因として、木材価格の低下が挙げられます。ピーク時の1980年にはスギの木材1m3あたりの価格は4万円ほどでしたが、現在はウッドショックにより多少値上がりしたものの、1万3,000円から1万4,000円程度にとどまっています。こうした状況を改善するため、森林環境税や森林環境譲与税の仕組みを生かし、林業の事業採算性の改善や木材の有効活用、そして森林環境の保全を進めることが重要なのです。
需要先も福岡県の役割
──福岡県には林産業が盛んな地域もあります。
井上 戦前から高度経済成長期には電柱材としての木材生産を中心に行い栄えた八女林業地域をはじめ、今でも木材生産が盛んな地域もあります。浮羽地域には、林業が盛んな八女や大分県の日田に隣接している好条件もあり、古くから製材業が発達し、現在も製材工場が多く立地しています。全国一の家具の産地である大川市の家具産業が盛んなことも福岡県の強みの1つで、家具産業では近年、国産材・地域材を材料としている業者も増えていると聞いております。その一方で、福岡県は政令市や中核市などもあり、九州のなかで最も多い500万人もの人口を抱えています。
つまり、福岡県は木材の需要先としての役割も強く担っていると考えています。これらを考慮すると、福岡県においては今からでも、林業・木材産業を盛り返せる状況にあると考えています。なかでも注目なのが、近年になって公共・民間による中・大規模木造建築物の普及が始まっているなど、新たな木材活用先ができつつあることです。私も先日視察しましたが、来年開催される大阪・関西万博の木造リングは全長約2kmにおよびます。技術的にはこうした大規模な木造建築物が可能になっており、そうした建築物による木材の需要が高まれば、山側の林業に還元できるなど、好循環が生まれるはずです。
ワンヘルスと連携
──取り組むべき重点施策には、どのようなものがありますか。
井上 やはり木材を使いやすい状況にすることが最も大切で、民間による木造ビルや商業施設の建設などを進めやすい環境づくりが求められます。伝統的木造建築物の技術継承などの観点からも、職人育成などについても取り組みが必要だと考えています。安定した需要先があれば、林業、つまり山の手入れも継続してできるようになるはずです。その場合、山の管理がしっかりとできる木材価格でなければ意味がありません。忘れてはならないのが、森林を整備することが災害の防止につながるということ。山の管理をしっかり行えば森林も健全になり、災害の発生を抑止できるものと私は考えています。
また、「ワンヘルス」(※3)を推進するという観点から、大野城市、太宰府市、宇美町にまたがる「ワンヘルスの森 四王寺」をベースとした、森林浴体験ツアーなども県内に広めていければと考えています。
木に囲まれた暮らしや森林浴をすることは、健康に良い効果をもたらすということは、医学的にも証明されています。ワンヘルスの取り組みと、林業再生・木材活用の推進の取り組みが連携することで、県民の皆さまの健康的な暮らしを実現することにもつながるのではないでしょうか。そうしたことを具現化することも、私たち林活議連、政治の役割だと認識しています。
※3:「人の健康」「動物の健康」「環境の健全性」を1つの健康と捉え、一体的に守っていくという考え方。 ^
(了)
【田中直輝】
林政セミナー
林野庁森林整備部長・長崎屋圭太氏が講演10月9日に福岡市内のホテルで開催された森林・林業・林産業活性化促進議員連盟福岡県連絡会議の総会後に、「林政セミナー」が行われた。林野庁森林整備部長・長崎屋圭太氏が「木を使って森林を育てよう~街の木造ビル・スマート林業・森林環境譲与税~」と題した講演を行ったもので、関連産業の現状や今後について紹介した。福岡県の林活議連、市町村林活議連、林業関係団体などの関係者約200人が聴講した。
長崎屋氏は、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、森林のCO2吸収能力の強化と木材の炭素固定料の拡大が必要としたうえで、公共・民間による建築物の木造化の事例を紹介。そのなかで、「木造化した場合、躯体の重量が軽いため、他の構造に比べて基礎工事費を抑えることができる、さらに構造材をあらわしにすることで、追加内装工事が不要になるケースもあり、他構造よりも建設工事費を抑えられる可能性がある」などと話した。
一方で、川上となる林業の経営にはコスト高と労働災害の多発などという問題があるとも指摘。それを改善するためのスマート・デジタル技術などを用いた改善策や、それによる将来像も示した。このほか、19年に制度が開始された「森林環境譲与税」の活用事例なども紹介した。長崎屋氏は、「地方公共団体や事業者などの方々が木材利用に取り組めるよう、木材利用促進本部事務局(林野庁林政部木材利用課)に国が実施する建築物の木造化・木質化などに関する支援事業・制度などに関する一元的な案内窓口を設置しており、何でも相談していただきたい」などと述べていた。
<プロフィール>
井上忠敏(いのうえ・ただとし)
1947年、福岡県小郡市生まれ。福岡大学・法学部卒。古賀誠前衆議院議員の公設第一秘書を経て、99年に福岡県議会議員に初当選。現在7期目。2015年5月14日から16年5月20日まで県議会議長(第65代)を務めた。福岡県林活議連会長、林活議連九州連絡会議副会長などを務める。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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