2025年01月10日( 金 )

2025年 日本企業を取り巻く地政学リスクの行方

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国際政治学者 和田大樹

日本と世界 イメージ    2025年が始まった。日本企業を取り巻く地政学リスクがどうなっていくかは、トランプ政権の外交・安全保障政策によって大きく変わってくるだろう。ここでは日本企業のビジネスにも影響を与えるいくつかの問題を取り上げたい。

 まず、日米関係の行方だ。石破・トランプ関係については、石破政権が少数与党であることでトランプ氏と長期的に安定した関係を構築できないのではないかという見方もあるが、トランプ氏が石破氏に気を配るのではなく、石破氏が日米関係が不安定化、後退しないようトランプ氏の様子をうかがいながら新たな関係をつくっていくという様相にあろう。トランプ氏にとって、伝統的な同盟国が同盟国になるとは限らないので、日本としては新たに同盟国となる意識が求められるが、日本製鉄によるUSスチール買収でバイデン氏が阻止の決断を下したことで、トランプ側の思惑(日本の防衛費増額)や石破側の思惑(日米地位協定の改訂やアジア版NATO)なども重なり、日米関係は安倍・トランプ時代、岸田・バイデン時代よりは後退したものになる可能性が十分にあろう。アジア版NATOはトランプ氏にとっては本末転倒なものであり、石破総理もそれを露骨に提示することはないだろうが、双方が内心で疑念を抱き続けるような関係になっていくことが考えられる。

 また、今年は日韓関係が大きく後退するシナリオが考えられる。22年5月、ユン大統領が就任し、その後、日韓関係は岸田・ユン時代となって大きく改善し、昨年12月までは良好な関係が保たれてきた。しかし、周知のように、ユン大統領による戒厳令発出によって同大統領は国家運営ができなくなり、韓国は混乱の道へと舵を切っている。今後どうなるかは不透明であり、仮に最大野党「共に民主党」陣営から次期大統領が選出されると、日韓関係は大きく後退することになろう。岸田・ユン時代、日韓の間では経済安全保障上の結束も強化されたが、対韓ビジネスは日本企業にとって暗い影を落としている。

 そして、保護貿易主義路線に徹するトランプ政権の発足により、中国が日本との経済、貿易で歩み寄りを図ってくることが考えられる。日本企業の間でも、脱中国依存に米国の保護主義が重なって二重苦に追いやられているような動きがみられるが、日中をめぐる地政学リスクの状況は何も解決しておらず、脱“脱中国”に舵を切るような動きは企業の間で広がらないだろう。また、日中に関連し、中台関係では依然として軍事的緊張が続いており、今年も頼総統が「台湾は中国に隷属しない」など中国を刺激するような発言をすれば、中国はそれを機会と捉えて大規模な軍事演習を行うことだろう。トランプ氏は台湾を軽視するような発言もしているが、中国に対抗する姿勢も鮮明にしており、具体的な姿勢は読めない部分が多い。すぐに有事に発展する恐れは依然として低いが、今後も台湾をめぐっては軍事的緊張が続くことになる。


<プロフィール>
和田大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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