2025年01月15日( 水 )

中国の世界制覇戦略:宇宙強国を目指す習近平国家主席

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、1月10日付の記事を紹介する。

宇宙 イメージ    日本ではアメリカの影響もあり、中国経済に対する悲観的な見方が主流になっています。しかし、2025年の幕開けに際して行われた習近平国家主席の挨拶にも明確に描かれているように、中国の国家戦略は長期的な視点に立っており、アメリカや日本の想像を凌駕しつつあることを見逃してはなりません。

 たとえば、宇宙開発です。貴州省にある「天眼」と命名された世界最大の「球面電波望遠鏡(FAST)」は、直径500mの巨大な宇宙観測用の望遠鏡であり、宇宙からの電波を受信するのみならず、天空を移動する惑星の探査には、これ以上の強力な武器はありません。

 2020年1月から正式に運用が開始されましたが、規則正しい周期で光を放つ「パルサー」という天体を240個以上観測したほか、「宇宙の謎」といわれる1000分の1秒ほどの間に起きる電波フラッシュ「高速電波バースト」の観測など、すでに多くの成果を上げています。

 そうした実績を基に、「ビッグバン」発生当初の物理プロセス、すなわち「宇宙誕生の謎」に迫るという目標も掲げています。また、地球外生命体の探査にも正式に名乗りを上げているではありませんか。いわゆる「UFO」との交信にも可能性を見出そうとしているわけで、大いに興味をそそられます。

 現地で説明を受けましたが、アメリカや日本の天体観測機関からも熱い眼差しが寄せられているとのこと。というのも、それまで世界1を誇っていたアメリカのアレシボ望遠鏡(直径300m)は2020年に主鏡に亀裂が生じ、その直後に望遠鏡が崩壊するという大事故に見舞われてしまったからです。

 そのため、中国はこの「天眼」を世界の科学者に開放することを決定し、観測時間を分配する決定も下しました。要は、中国は「宇宙強国」を目指し、国際的な宇宙研究の中心拠点を目指そうとしているわけです。

 そのためにもアメリカや日本を圧倒する規模で、莫大な資金と人材を投入しているとのことでした。しかも、2024年10月からは可動式大型電波望遠鏡アンテナを24基追加する拡張工事が始まっています。

 宇宙開発をめぐっては、アメリカと中国が競合しているわけですが、この電波望遠鏡の運用実績から見れば、「中国がアメリカに追いつき、追い越しているのではないか」と思わざるを得ませんでした。

 さらに興味深いのは、この世界最大の電波望遠鏡を観光資源として活用していることです。巨大な望遠鏡を見下ろす高台の上には宇宙博物館や宇宙ホテルが完成しており、来訪者や宿泊客は最新の宇宙関連技術や宇宙探査の歴史を学ぶことができます。しかも、ホテルでは宇宙旅行の疑似体験も可能です。

 また、最近話題の月面探査についても、中国がアメリカから主導権を奪い取るのではないかとの観測が専らです。

 1969年から1972年の間に、合計12人のアメリカ人が月面に着陸しました。その後は足踏み状態が続いていますが、アメリカ政府は今後10年以内に月面に返り咲く準備を進めています。

 一方、中国も探査機を月面に送り届けており、2030年までに中国人宇宙飛行士が月面着陸に挑もうとしています。2003年に初の宇宙飛行士を打ち上げた国にとって、これは異例のスピードです。

 要は、米中の月面到達と月資源開発に向けての競争が激化しつつあるわけで、目前の不動産バブル崩壊や若年層の失業増加にばかり目を奪われていては、長期的な米中関係の方向を見誤ることになりかねません。

 今や、アメリカがリードしてきた月探査レースで中国がアメリカに競り勝つ可能性が現実的になってきたのです。

 トランプ次期大統領はイーロン・マスク氏の力を当てにしながら、中国に先を越されないように宇宙関連予算の確保に励んでいるため、この勝負はますます過熱することになるでしょう。


著者:浜田和幸
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