2025年01月20日( 月 )

トランプ次期大統領の対外政策:日本は食い物にされかねない恐れ

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、1月17日付の記事を紹介する。

ドル イメージ    アメリカでは間もなくトランプ新政権が発足しますが、その先行きは厳しいものと言わざるを得ません。

 これまで、「ドル」という強力な国際基軸通貨を握ることによって、必要なものを世界中からいくらでも調達できるということで、アメリカは世界を支配下に置いてきました。ところが、「グローバル・サウス」の国々を中心に「いくらドルをため込んでいても、ある日突然、紙くず同然になるかもわからない」との気づきが生まれたのです。

 サウジアラビアが先鞭をつけました。「石油を売っても代金はドルではなく、裏付けのある金(ゴールド)とか、資源との交換というかたちでないとダメだ。あるいはビットコインのような転換が容易にできるような仮想通貨でないと受け取れません」と言い始めたのです。これはアメリカにとっては寝耳に水の出来事でした。

 要は、通貨をめぐる暗闘は激化するばかりです。新興国の間では新たな貿易の決済システムを求める声が日増しに大きくなっています。一時期、ドルの保有額で、日本を抜いて世界1の座を占めていた中国は、このところドルの保有額を急速に減らし始めました。アメリカの先行きに疑問を感じているためと思われます。

 このままでは、金融の「グレート・リセット」が起きるでしょう。BRICSのロシア、ブラジル、中国なども新興国に働きかけ、アメリカ離れの動きを加速させています。日本はアメリカとの同盟関係を重視し、ドルや米国債を買い支えていますが、このままのアメリカ頼み一辺倒では「こんなはずではなかった」と臍(ほぞ)を嚙むことになりかねません。

 「頼みの綱」ともいうべき通貨ドルの効力が怪しくなってきているため、当然でしょうが、トランプ次期大統領もそのことを懸念しています。そのため、「アメリカを再び偉大な国にする」とのスローガンを掲げ、アメリカに挑戦しようとしている中国を押さえつけようと、関税強化をはじめ、あの手この手を繰り出そうとしているわけです。と同時に、1月20日の大統領就任式に習近平国家主席を招待したいと、対中融和策も模索しています。

 「アメリカの言いなりにはならない」との姿勢から習近平氏は訪米しませんが、政府高官を派遣するようです。米中共に全面対決ではなく、お互いに共存共栄を図る別ルートを開拓しようという狙いが透けて見えます。

 こうした「トランプ流」の交渉スタイルを株式市場や投資家は好感していますが、どこまで効果があるのか、現時点では余談を許しません。もし、中国とのディールがうまくいかなければ、中国からの輸入品に高関税が課せられ、結果的にアメリカ国内ではインフレがますます広がるはずです。となれば、アメリカ国民の間では不平不満が高まり、社会の不安定化が一層深刻化することになりかねません。

 今後、対中政策の責任者はマルコ・ルビオ国務長官になります。去る9月「The World China Made」と題する60ページのレポートを作成した中心人物です。中国経済の急成長の秘密を分析しています。

 タカ派のルビオ氏を国務長官に指名したのは、1972年のニクソン訪中に倣った米中和解の秘策が隠されているのかもしれません。グローバル・サウスを味方につける中国の新戦略にいかに対抗できるのか、アメリカの命運がかかっているといっても過言ではありません。

 一方、アメリカの保守派の間では「中国崩壊論」が活発化しています。日本でもそうした影響が顕著に見られるようになってきました。CIAに至っては中国の内部崩壊を工作しているとの指摘もあるほどです。

 注目が集まるルビオ氏は政権転覆工作を厭わぬ対中強硬派で、「台湾に力で平和を」と銘打つ運動の中心人物のため、台湾の独立を支援することは確実で、結果的に米中対立は冷戦化しかねません。

 トランプ氏は「アメリカ・ファースト」の美名のもと、「トランプ・ファースト」を追求することは間違いありません。「勝つためには嘘も平気」という性格です。台湾有事といった危機感を煽っては、日本や台湾に米国製の武器を売り込むことに熱心になるでしょう。と同時に、トランプ氏は中国市場で儲けようとする電気自動車のテスラなどアメリカ企業をけしかけ、政府の支援や後押しが欲しければ献金額を増やすように要求する姿勢も見せています。

 新政権の発足を待たずして、トランプ陣営の政権移行チームは日本政府に対しても、「石破氏がトランプ氏に会いたいなら、孫正義より多額の対米投資案件をまとめてもってこい」などさまざまなディールをもちかけているようです。「米ドルや米国債をもっと保有しろ。米国製の武器やワクチンをもっと買い増せ。防衛予算をGDPの3%にし、在日米軍の経費負担ももっと増やせ。日本企業の対米投資をもっと増やせ」。

 こうした際限のない要求を振りかざしてくるトランプ氏に、このままでは日本政府は食い物にされかねません。流れを変えるには、アセアンやグローバル・サウスを味方につけ、対等な立場でアメリカとも交渉する条件を整えることを最優先すべきです。


著者:浜田和幸
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