駅前に新たなランドマーク 南の副都心・大橋(2)
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駅開業と区画整理事業でまちの基盤が完成
大橋エリアの成り立ちについては、前述のvol.26で取り上げた際の少々の焼き直しにはなるが、改めて触れておきたい。
大橋エリア一帯は、もともとは、古くから那珂川の河口付近に形成された農業地帯だった。近隣に今も残る野間大池や野多目大池、老司大池などのかつての灌漑用の大きな溜池が、この一帯が肥沃な農地であったことを物語っている。なお、大橋駅から日赤通りを挟んで北東側にあたる地名「塩原」は、かつて「汐原」と記述され、すぐ近くまで博多湾の海岸線が迫って塩田のようなものがあったとされている。
昭和初期に合併によって福岡市の一部となった大橋エリアだが、合併当時は数軒の民家が点在するだけの農地がほとんどだったとされる。発展の契機となったのは、今なおエリアの中心となっている大橋駅の開業だ。1924(大正13)年4月の九州鉄道(株)(現在の西日本鉄道(株)の前身の1つ)による福岡~久留米間(現在の西鉄天神大牟田線の一部)の電気軌道の開業の際に、近隣の平尾や高宮、井尻といった駅とともに「大橋駅」(現在の大橋駅より東に約400mの場所にあった)が開業。すると、駅周辺では27年に現在の九大・大橋キャンパスの場所に「筑紫中学校」(現在の筑紫丘高校の前身)が開校。また、那珂川市方面に向かう大橋老司線(国道385号)や、それに交差するかたちで高宮通りなどの道路が通ると、その交差点や大橋駅を中心として、商店や住宅などが増えていった。
終戦後には、福岡市の人口が急増して都心部などで開発が進むにつれて、天神に近い立地と、西鉄大牟田線(路線名は2000年12月に西鉄天神大牟田線に改称)や複数の主要幹線道路が通る交通利便性の高さから、急速に市街化が進行。公団住宅「大橋団地」(60年竣工、25棟・全631戸)をはじめ、市営住宅や一般住宅も次々と開発され、新興住宅地としてスプロール化が進んでいった。
さらに、福岡市が政令市の指定(72年4月施行)および区制の実施に向けて都市整備に力を入れていくなかで、業務拠点機能の整備を図る“副都心”として大橋・塩原地区を位置付けた。そして拠点化の最初の一大事業として実施されたのが、「塩原地区土地区画整理事業」と、関連事業としての「西鉄大牟田線連続立体交差事業」(平尾~大橋間)だ。
塩原地区土地区画整理事業は施行期間約15年および総事業費約348億円をかけた大規模プロジェクトで、1,600余人におよぶ地区内外の権利者の調整や、2,300戸におよぶ建物の移転、鉄道高架化と周辺道路の整備、下水道幹線の整備、駅移転を契機とした商業環境の再編、行政機関を始めとするコミュニティセンター機能の強化など、実に多岐にわたる要素が盛り込まれたもの。同時施行された西鉄大牟田線連続立体交差事業は、平尾駅から二級河川・那珂川の手前までの3,240mの区間を高架化すると同時に、旧大橋駅を西に約400m移転させて現在の場所で高架駅として整備するというものだった。高架化および駅移転は78年3月に完成し、大橋駅は急行停車駅へと昇格。同時に、駅ビル内には西鉄名店街が開業した。
さらに、同区画整理事業の目玉の1つとして、駅西口側に形成されている「大橋ショッピングモール」の整備も行われた。これは、駅移転によって取り残された旧・駅前商店街の集団移転の実施とともに、既存の主要商店街と新大橋駅との連携を密にするために、地元商業者からの請願を請けた市の振興策として提示された「ショッピング歩道」の建設を目指したもの。名前に付けられている「モール」とは「樹陰のある遊歩道」を意味し、自動車の通行を制限するとともに、街路樹やストリートファニチャーなどによって積極的な修景が施された歩行者優先道路のことを指す。大橋ショッピングモールにおいては、車道を蛇行させるなどして自動車の速度を下げさせ、歩行者との共存を図ろうとする「ボンエルフ」の概念が取り入れられた。この大橋ショッピングモールは81年度に着工し、総工事費約4億6,000万円をかけて84年度末に完成。現在では街路樹も成長し、緑豊かな大橋のシンボルとして地域住民に定着している。
こうして、大橋ショッピングモールの建設を含めた塩原地区区画整理事業と、それにともなう関連事業の数々によって、現在の大橋の街としての基盤が完成。現在に至るまで、南区の中心地として発展を続けてきている。
多彩な顔をもつ市の南部広域拠点
現在の大橋エリアを住所表記上で見ていくと、「大橋1~4丁目」「向野2丁目」「筑紫丘1丁目」「塩原1~4丁目」「大橋団地」などに細分化される。エリアは、概ね大橋駅を起点に半径1km内に収まっており、その大部分は前述の大規模な区画整理事業によって誕生したもの。この範囲に、福岡市南部の副都心として位置づけられた、まちとしてのさまざまな機能・性質が集約されているかたちだ。
エリアの中心は何といっても大橋駅だ。西鉄天神大牟田線では「西鉄福岡(天神)」「薬院」に次いで第3位の乗降客数(23年度1日平均3万8,622人)を誇る同駅は、天神まで特急で2駅・約6分と都心へのアクセスにも優れているうえに、駅東口にはバスターミナルが設けられ、福岡空港国際線やららぽーと福岡などへの直行便もある。また、北へ約1.1kmとやや距離があるものの、JR竹下駅を利用することも可能で、竹下駅から博多駅までは約4分。さらにエリア内には国道385号(日赤通り/みやけ通り)をはじめ、県道31号(高宮通り)や長浜太宰府線、御供所井尻1号線などの複数の幹線道路が通過しており、交通結節点の様相も呈している。なお、複数の幹線道路が通過する関係上、渋滞などの交通混雑も頻発しそうなものだが、国土交通省九州地方整備局道路部が公表している「地域の主要渋滞箇所 福岡県(令和5年11月)」のなかでは県内173カ所の主要渋滞箇所のなかに大橋エリアに該当する箇所はなく、時間帯にもよるだろうが、意外とスムーズな通行が可能なようだ。
福岡市の都市計画による用途地域では、エリア内のとくに駅周辺や幹線道路沿いは商業地域(建ぺい率80%/容積率400%)となっている。そのほかは、幹線道路沿いが準住居地域(建ぺい率60%/容積率200%)や第2種住居地域(建ぺい率60%/容積率200%)、近隣商業地域(建ぺい率80%/容積率300%)が配置されているほか、幹線道路から入った部分が第1種住居地域(建ぺい率60%/容積率200%)となっており、これらの用途地域に沿ってエリア内の建物配置がなされている。
駅西側の大橋1丁目は前述の大橋ショッピングモールとして、商店・飲食店が軒を連ねる商店街となっている。また、駅東側の塩原2・3丁目の日赤通り沿いには、南区役所や南区保健福祉センター、福岡市南体育館、南市民センター、福岡市南図書館、南警察署などの行政機関や公共施設、2次救急指定病院や地域医療支援病院である九州中央病院などの医療施設がそろっている。そして大橋2~4丁目や大橋団地、塩原1・4丁目、向野2丁目、筑紫丘1丁目には、戸建から低層の集合住宅、マンションまで多彩な住居が所狭しと軒を連ねる住宅街となっており、その合間に企業事務所なども点在。近隣には公園や溜池が点在して水と緑に恵まれるほか、スーパーや商店、銀行などもそろっていることで、生活利便性にも優れている。さらにエリア内および周辺には九州大学芸術工学部(旧・九州芸術工科大学)や第一薬科大学、純真学園大学、香蘭女子短期大学などの複数の大学があるほか、福岡市公立高校“御三家”の一角である筑紫丘高等学校をはじめとする多くの高校が点在し、文教地区としての顔ももっている。
こうして多彩な顔をもつ大橋エリアは、10年間の長期にわたる福岡市のまちづくり目標・施策となる「第10次福岡市基本計画」においても市の南部広域拠点に位置付けられており、南区の中心部としての役割をはたしている。
(つづく)
【坂田憲治】
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