中国、低迷する経済と不穏化する社会 再びの米中貿易戦争に耐えられるか(後)
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『現代ビジネス』
編集次長兼中国問題コラムニスト
近藤大介 氏近年、中国経済の悪化が言われ続けているが、その現状および原因、中国政府がいまどん講じている対策について、そして、アメリカのトランプ政権発足にともなう「米中貿易戦争」を中国はどれほど警戒しているのか。長年中国を観察してきた近藤大介氏(講談社『現代ビジネス』編集次長兼中国問題コラムニスト)に寄稿してもらった。経済の悪化にともない中国人がどんな生活を送っているかについて、2024年の中国の流行語ベストテンで示したものも興味深い。
トランプ台風の襲来
25年1月20日に確実に起こっている2点目は、この日、太平洋の彼方で、ドナルド・トランプ米大統領が就任することだ。トランプ氏はすでに選挙中から、「中国製品に60%の追加関税をかける」「中国の最恵国待遇を取り消す」……と、対中強硬策を縷々(るる)述べてきた。
仮にこれらがもし、25年に現実のものとなったら、中国は一体どんな影響を受けるのか? 私が前述の中国の経済学者に訊ねると、虚ろな表情でこう答えた。
「それにより、25年の中国のGDPは半減するか、2%程度落ちるだろう。つまり、中国経済はもうもたない。いまの中国に、18~19年のときのような経済的余力は残っていないからだ」。
18年3月、トランプ大統領の突然の宣言により、「米中貿易戦争」が勃発した。第1弾として、同年7月にアメリカが340億ドル分の中国製品に追加関税をかけると、中国も同額分のアメリカ製品に追加関税をかけた。同年8月に第2弾として、160億ドル分ずつに追加関税をかけ合った。
アメリカが同年9月に第3弾として、2,000億ドル分の中国製品に追加関税をかけると、中国は600億ドル分のアメリカ製品に追加関税をかけるのが精一杯だった。さらにアメリカは、19年9月に第4弾として、3,000億ドル分もの中国製品に追加関税をかけた。この時も中国側は、750億ドル分が精一杯だった。
総じていえば、このガチンコの「米中貿易戦争」は、中国側がほぼ一方的にパンチを浴び、のたうち回った格好だった。結局、20年1月に米中は「ファースト・ステージの合意」に達したが、それは中国側が大きな妥協を強いられたものだった。
それから間髪を置かず、新型コロナウイルスの3年が始まり、前述のように中国経済は瀕死の状態と化した。そして25年にようやく、V字回復しようかという時に、再び「トランプ台風」が吹き荒れようとしているのだ。中国からすれば、まさに「悪夢」にほかならない。
流行語が示す暗さ
思えば、そんな不景気な世相を反映して、24年の中国の流行語(隠語も含む)には、暗い内容のものが多かった。私が勝手にベストテンを選ぶなら順不同で、①「報復社会」、②「八失人員」、③「歴史的垃圾時間」、④「夜騎大軍」、⑤「上岸」、⑥「地攤女友」、⑦「単身狗」、⑧「千金粧容」、⑨「白菜価」、⑩「献忠」(※)。
①は、失業者らが起こした「社会に報復する」無差別刺殺事件。②は、それらを起こす「予備軍」にされた、仕事や家庭、社会的信用など「8つを失った人々」。③は、今時の若者たちが自虐的にいう「自分たちの人生なんか歴史のなかのゴミの時間」。④は、大学生や若者たちの憂さ晴らしのナイト・サイクリング。⑤は、公務員試験に合格することで、12月の国家公務員試験(「国考」)には、わずか3万人余りの枠に、史上最多の325万人もが受験した。
⑥は、仕事がなくて街頭で男性に握手やハグ、キスをして収入を得る若い女性。⑦は、結婚できない若者たち。⑧は、安くて見栄えがする化粧。⑨は、マンション価格が白菜価格並みに下落していくこと。⑩は、明代末の大量虐殺者の名前で、いまと社会状況が似ているということだ。
本当に、何だかなあである。2025年「乙巳(きのとみ)」が、中国にとって佳い年でありますことを──。
※:①バオフシャーフイ、②バーシーレンユエン、③リーシーダラージーシージエン、④イェチーダージュン、⑤シャンアン、⑥ディータンニュイヨウ、⑦ダンシェンゴウ、⑧チエンジンジュアンロン、⑨バイツァイジア、⑩シエンジョン ^
(了)
<プロフィール>
近藤大介(こんどう・だいすけ)
1965年生まれ、埼玉県出身。浦和高校、東京大学卒。国際情報学修士。講談社入社後、中国や朝鮮半島などの東アジア取材をライフワークとする。北京大学留学、講談社北京現地代表などを経て、『現代ビジネス』編集次長兼中国問題コラムニスト。連載中の毎週1万字の中国レポート「北京のランダム・ウォーカー」は760回を数え、日本で最も読まれる中国コラムの1つ。2008年より明治大学国際日本学部講師(東アジア国際関係論)を兼任。著書は『尖閣有事』(中央公論新社)、『進撃の「ガチ中華」』など36冊に上る。19年『ファーウェイと米中5G戦争』で岡倉天心記念賞最優秀賞を受賞、NHKスペシャルの原作にもなる。関連記事
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