大転換の時代の到来:世界の中心はグローバル・サウスへ

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、2月14日付の記事を紹介する。

 アメリカではトランプ大統領が次々と大統領令を発出していますが、その先行きは厳しいものと言わざるを得ません。

 これまで、「ドル」という強力な国際基軸通貨を握ることによって、必要なものを世界中からいくらでも調達できるということで、アメリカは世界を支配下に置いてきました。ところが、「グローバル・サウス」の国々を中心に「いくらドルを溜め込んでいても、ある日突然、紙くず同然になるかもわからない」との気づきが生まれたのです。アメリカの財政破綻状態に改善の可能性が見えないことが影響しています。

 そのため、サウジアラビアが先鞭をつける形で、「石油を売っても代金はドルではなく、裏付けのある金(ゴールド)とか、資源との交換という形でないとダメだ。あるいはビットコインのような転換が容易にできるような仮想通貨でないと受け取れません」と言い始めたのです。これはアメリカにとっては寝耳に水の出来事でした。

 要は、通貨を巡る暗闘は激化するばかりです。新興国の間では新たな貿易の決済システムを求める声が日増しに大きくなっています。

一時期、ドルの保有額で、日本を抜いて世界1の座を占めていた中国は、このところドルの保有額を急速に減らし始めました。アメリカの先行きに疑問を感じているためと思われます。このままでは、金融の「グレート・リセット」が起きるでしょう。

 BRICSのロシア、ブラジル、中国なども新興国に働きかけ、アメリカ離れの動きを加速させています。日本はアメリカとの同盟関係を重視し、ドルや米国債を買い支えていますが、このままのアメリカ頼み一辺倒では「こんなはずではなかった」と臍(ほぞ)を嚙むことになりかねません。

 しかも、2100年には世界の人口、即ち市場はアジアとアフリカが全体の8割を占めることが確実視されています。アメリカとヨーロッパは合わせても1割に達しません。少子化の進む日本は特に危険水域に突入するでしょう。何しろ、今後40年以内に、人口の4割が65歳以上になり、働力人口は現在の半分以下に減少する傾向にあるからです。

 2024年の名目GDPで見ると、アメリカは28兆8,000億ドルで世界第1位にあり、中国が18兆5,000億ドルで第2位、ドイツが4兆6,000億ドルで第3位です。日本は4兆1,000億ドルで第4位に付けていますが、上位11か国のうち、日本以外はDGPの成長率がプラスを維持しています。アメリカは5.2%、中国は4.9%、ドイツは3.0%のプラス成長ですが、日本はマイナス2.4%という状況に陥ったままです。

 購買力平価で比較すると、2024年の時点で、世界1は中国で37兆ドル、2位のアメリカが29兆ドル。インドが第3位で16兆ドル、そして第4位がロシアで6兆9,000億ドル。日本は第5位で6兆5,000億ドルとなっています。客観的に見れば、中国は日本の6倍で、アメリカを8兆ドルも引き離しているのです。

 今や、アメリカと日本を合わせても中国に届かないというのが、日本人の大半が気づいていない「不都合な事実」に他なりません。しかも、「グローバル・サウス」を代表するかのようにインドは日本のほぼ3培で、ロシアも日本を抜いているのです。

 一人当たりの名目GDPのランキングをIMFが発表しています。これには衝撃を受けざるを得ません。なぜなら、日本は世界で39位になっているからです。

多くの日本人はこれだけ日本の経済力が衰退し、世界ランキングで急降下していることに無関心であり、危機感を抱いていません。依然として、「日本は世界のトップクラスのはず」といった根拠なき楽観論に飲み込まれているのでしょう。

一方、「グローバル・サウス」の国々ではITやAIが普及し、医療研究も飛躍的に発展することが見込まれています。ITを使いこなすZ世代人口に限ってみても、中国は10億人、そしてインドは7億人と予測されているほどです。その結果、経済力で比較しても、「2030年には中国がアメリカを抜くであろう」ということが世界の常識になりつつあります。

 追われる立場のアメリカのトランプ政権ですが、対中政策の責任者となったのがマルコ・ルビオ国務長官です。その彼は昨年9月「The World China Made」と題する60ページのレポートを作成し、中国経済の急成長の秘密を分析しています。

 バンス副大統領も中国の力を評価しているようですが、トランプ大統領の意向を忖度し、「力で中国を抑える」との考えにとらわれています。果たして、「グローバル・サウス」を味方につける中国の新成長戦略に対抗できるのでしょうか。

日本とすれば、アメリカの主張するような「中国脅威論」に飲み込まれるのではなく、中国の持つ経済、技術力との連携の可能性を見出すことが必要ではないかと思われます。

 アメリカ保守派の間ではメディアを動かし、「中国崩壊論」を盛んに宣伝しています。また、CIAは中国の内部崩壊を工作しているようですが、その前途は楽観できません。なぜなら、ここに紹介したように経済力でアメリカや日本は既に中国に圧倒されつつあるからです。

 今必要なことは、そうした大転換の時代が始まっていることを冷静に受け止め、対立から共存への転換をいかにスムーズに実現するか、その方策を真剣に考えることだと思います。


著者:浜田和幸
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