孫正義を生んだ日本の時代~「超知能AIは日本の大企業から始まる」
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孫正義氏についてさまざまな方面の専門家が語る当シリーズ。第10回の今回は森村和男氏による孫正義論をお届けする。
希代のギャンブラー投資家・ソフトバンクグループ(SBG)会長兼社長の孫正義が復活した。投資の失敗で巨額の赤字を垂れ流し、決算発表への出席を見送った際には、「孫、老いたり」と口さがない連中が揶揄した。しかし、昨今のAI(人工知能)の爆発的進化でギャンブラー投資家の血が再沸騰している。男・孫正義は最後の賭けに挑んでいる。(文中敬称略)米オープンAIと新会社「SB OpenAI Japan」をつくる
ソフトバンクグループ(SBG)会長兼社長の孫正義(67)と米オープンAIの最高経営責任者(CEO)のサム・アルトマン(39)は2月3日、東京で開いた日本企業500社を集めた法人向けイベントで、共同出資会社「SB OpenAI Japan」を設立すると発表した。生成AI(人工知能)に企業が保有するあらゆる情報を学習させ、経営判断の助言やシステム開発の効率化につなげることを狙う。報道各社が大々的に報じた。
報道によると、合弁会社は、企業向けのAIの開発・販売に向けて、SBGとオープンAIが50%ずつ折半出資する。このAIは自律的に業務を進める「AIエージェント」の機能も目指すとしている。
孫社長は「大企業向けの最先端のAIを、世界で初めて日本から始める。AIがリアルタイムでイノベーションアップし、正しい判断をしてくれる」と述べた。アルトマンCEOは「今、AIにとって重要な時期が訪れている。非常にすばらしい発表になった」と述べたという。
ソフトバンクグループは合弁新会社に巨額投資
具体的にはどういうことか。合弁会社は1業種1社をメドに日本の代表的な企業と提携。各企業専用に特化した最先端AIを開発する。「クリスタル・インテリジェンス」と名付けた企業専用AIは、未来を予測する水晶玉(クリスタル)のような超知能にしていきたいと孫社長は語る。
第一号の顧客となるのはソフトバンクグループ(SBG)。合弁会社に毎年30億ドル(4,500億円)を支払うと表明。孫の大言壮語には慣れっこになっているとはいえ、その金額の規模の大きさに圧倒された会見だったとメディアが報じた。
SBGは、AIを次の成長に向けた事業の柱の1つに位置づけ、生成AIに強みをもつオープンAIとの連携を深めてきた。SBGは、グループ全体で、AI関連の事業や投資を強化する方針を打ち出し、半導体、データセンター、ロボットの3つの事業に注力する。
孫社長は2024年10月のイベントで、オープンAIのChatGPT(文章で質問した内容に対して適切な返答を生成する会話型AI)について、「革命が起こった。知のゴールドラッシュがきたということだ」と述べた。
トランプ大統領に宣言「ゴールデンエイジを迎える」
1月21日、アメリカのホワイトハウスでドナルド・トランプ大統領が明らかにしたに巨額なAIインフラ投資「スターゲート計画」も4年で5,000億ドル(約75兆円)というもの。ケタ違いの凄まじい金額だ。とにかく金額の規模が大きい。
トランプ大統領の会見には、SBGの孫正義社長に加え、アメリカのオープンAIのサム・アルトマンCEOとソフトウエア大手「オラクル」のラリー・エリソン会長が出席した。
3社はアメリカ南部のテキサス州などで大規模なデータセンターなどAIに関するインフラ整備を進めるため、「スターゲート」と呼ぶ新たな事業を立ち上げ、投資会社などとともに今後4年間で5,000億ドルを超える巨額の投資を行う計画だという。
トランプ大統領は「これまでにない莫大な投資を呼び込む史上最大のAIインフラ事業だ」と期待を示したと報じられた。
会見後、記者団から「トランプ大統領とどのような話をしたのか」と問われた孫社長は「これからゴールデンエイジだという話をした」と答えた。アメリカの「黄金時代」を掲げるトランプ大統領の琴線をくすぐったわけだ。強い指導者にあっという間に食い込むことを得意技とする「ジジ殺し」の面目躍如だ。
大きいことは大好き。希代のギャンブラー投資家である孫にとって、一世一代の大勝負の年を迎えたのである。
トランプ時代のパワーカップル、孫正義とアルトマン
SBGの孫正義社長とオープンAIのサム・アルトマンCEOがタッグを組むことをアメリカのメディアはどう報じたか。米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルの「トランプ時代のパワーカップル、孫正義とサム・アルトマン『双方の思惑』」を引用する。日本語訳は、講談社が発行するオンライン雑誌「クーリエ・ジャポン」(25年2月3日付)に基づく。
〈ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長は、東京近郊に新築した、ローマ皇帝の石像が並び、18ホールのゴルフコースに囲まれた豪邸で過ごしながら、悶々としていた。人工知能(AI)革命が目前に迫っていると何年も前に明言しながら、そのチャンスをつかみ損ねていた。「(自分は)まだ何もしていない」。昨年SBGの投資家向けに行った講演によると、孫氏はこう考えていた。「このまま年老いて死んでいいのか」結局、孫氏に必要なのはゴールデンボーイだった。そしてカリスマ的なスタートアップ企業創業者に飛びついてきた彼は、サム・アルトマン氏にその素質を見いだした〉
孫とアルトマン、AIの新パワーカップル
引用を続ける。
〈スタートアップ企業への過去最大の投資となる見通しの取引で、孫氏はアルトマン氏率いる米オープンAIに最大430億ドル(約6兆7,000億円)をつぎ込む準備をしている。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の30日の報道によると、SBGは対話型AI「チャットGPT」を開発したオープンAIに150億~200億ドルを出資する協議を進めており、それは400億ドルの大型資金調達の一環だという。この資金調達でオープンAIの企業価値は3,000億ドルに達する見通し。これは昨年10月時点の評価価額のほぼ2倍となり、将来性に対する孫氏の紛れもない自信の表れだ。それに加え、事情に詳しい関係者によると、オープンAIが使用するクラウドコンピューティング拠点を構築するベンチャー事業「スターゲート」にSBGは180億ドルを投資する約束をした。30日に東京へ向かっていたアルトマン氏にとって、この提携は重大な時期に豊富な資金力を持つ支援者が表れたことを意味する。〉
ChatGPTが空前の大ヒット
孫正義が“恋”をしたオープンAIのアルトマンとは何者か。
サム・アルトマンは1985年生まれの39歳。シカゴ出身でミズーリ州のセントルイスで育ち、スタンフォード大学でコンピューターサイエンスを学んだ後、2005年に19歳で、スマートフォン向け位置情報サービスアプリの開発会社の共同創業者となった。
その後、投資会社の代表を務めた後、起業家で電気自動車メーカー・テスラのCEOを務めるイーロン・マスクらとともに15年にサンフランシスコで「オープンAI」を設立した。
孫はアルトマンとの出会いについて、東京のイベントでこう語っている。
「2017年に会ったとき、あなたは『(人間並みの知能をもつ)汎用人工知能(AGI)の実現を目標にしている』と話していた。当時多くの人があなたのことをクレージーと言っていたが、そのころから、私は信じていた」
オープンAIは22年11月、ChatGPT(チャットGPT)を公開した。質問に答えて自然な文章を生成できるAIは爆発的な人気を呼び、今や全世界で4億人が利用している。アルトマンはAI時代を切り拓くスーパースターになった。
“影の大統領”イーロン・マスクがオープンAIの買収を仕掛ける
生成AIのChatGPTの大成功によって、その果実を求めて内部分裂が起きる。
サム・アルトマンと袂を分けたイーロン・マスクは、オープンAIの買収に乗り出す。マスクはトランプ政権で、“影の大統領”といわれるほど権勢をほしいままにしている。
そのイーロン・マスクが、オープンAIに対して974億ドル、日本円にして14兆8,000億円の買収を提案したと米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。
これに対して、オープンAIのサム・アルトマンは2月10日、SNSのX(旧・ツイッター)に「ノーサンキュー。望むのであれば旧ツイッター社を97億4,000万ドルで買収します」とコメントし、これに対してマスクは「詐欺師」と投稿し、2人の対立が続いている。
トランプ政権のお墨付きを得た「孫正義=サム・アルトマン連合」対“影の大統領”イーロン・マスクとの壮絶バトルだ。
孫正義のアキレス腱は「軍師官兵衛」がいないこと
孫正義は10年の創業30周年のときに「40年に時価総額世界トップ10入りする」目標を掲げた。現在、その目標について「自信がある」と言い切っている。足元の大赤字と未来への自信、そのギャップを埋めるのがAIの爆発的進化だ。
孫正義は、次の大きなトレンドを追い求めてきたことで知られる。中国のアリババグループや半導体設計の英アーム・ホールディングスなど、テック企業への大規模投資のなかには成功したものもある。一方で、米シェアオフィス大手のウィーワークのような高くついた失敗例もある。
孫には発展段階ごとに、しっかり、助言できる人が側にいた。なかでも有名なのが、「軍師官兵衛」と呼ばれた故・笠井和彦である。
笠井は銀行界では「為替の神様」といわれた。富士銀行(現・みずほ銀行)副頭取、安田信託銀行(現・みずほ信託銀行)会長を務めた。定年退職後の2000年、ソフトバンクの取締役に就任。「富士銀行の副頭取までやった人間がいく会社じゃない」と言われた。
笠井の転職は、銀行界で物議をかもした。勝負師は勝負師を知るという。若き勝負師である孫に共鳴したのが、誘いを受け入れた理由といわれている。
今の孫正義には、笠井のような軍師がいないのではないか。取り巻きの連中は、異議を唱えずに褒めそやすだろう。ウィーワークの投資の失敗は軍師がいなかったことに起因する。
孫正義は、AI革命に大勝負を賭ける。「軍師官兵衛」の不在がアキレス腱になる恐れがないとはいえない。
【森村和男】
法人名
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