大船渡の山火事に見る里山の重篤な問題(後)

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千葉茂樹(福島自然環境研究室)

 現在の日本の里山には、重篤な問題がある。この問題が表面化したのが岩手県大船渡の山火事である。日本全国には同様の問題があり、今後、表面化する可能性が高い。この記事では、その問題および解決案を提起する。ぜひ読んでいただきたい。
 なお、大船渡の林野火災のニュース自体は、ネット上に多数の情報があり、そちらをご覧いただきたい。この記事は、それらと違った観点で書かせていただく(本記事は3月7日時点の執筆原稿です)。

鎮火後の問題

 林野火災では、鎮火後も適切な処置をしなければ、さまざまな災害が発生する。「鎮火して良かった」ではない。後始末が重要である。

〇残り火

 林野火災では、火が消えたように見えても、灰の下に残り火があり、完全消火には時間がかかる。私は幼少期に伯母から聞いたことを思い出した。「所有の山で、雑木の伐採をし、山焼きを行った。山焼きの後に雨が降ったが、1週間後、その場所に行き灰を掘ったところ、その下にはまだ残り火があった」。灰の下の残り火はなかなか消えない。林野火災の場合、可燃物が燃え尽きるまで、再燃の可能性がある。

〇保水力

 雨の水は、里山の木々の根や下草により、土壌に蓄えられる。林野火災の後は、木や草がなくなるため、保水力が失われる。
 また、保水力は、針葉樹林(杉林)では小さく、広葉樹林で大きい。林野火災の後は、火災抑止のため、保水力の大きな広葉樹を植える必要がある。

〇焼け残った樹木

 焼け残った樹木は、早急に伐採して処分しなければならない。林野火災で燃えるのは、山肌にある枯れ草・枯れ枝・落葉が中心である。下草などが燃え尽きても、大木は焼け残る。上記のように、保水力が低下した山で、大雨が降れば、山肌は削られ、場合によっては土砂崩れが発生する。その際、焼けた木が土砂に混じり流れ下る。木の物理的な破壊力はすさまじく、土砂崩れの下流で大きな災害になる。

〇その後の植林

 いずれにせよ、焼けた木々を伐採し、植林せねばならない。早急に行わなければ、上記のような土石流発生の際の危険性が高まる。植林する場合、里山のことを考えるのであれば、多種の広葉樹が望ましい。これは保水力の問題だけではない。里山を歩けばわかるが、針葉樹の林には野生の動物や鳥類はほとんどいない。これらが生息するのは、広葉樹の森である。日本本来の里山の姿に戻すべきである。これでスギ花粉問題も解決できる。

里山・山里の復活

 私の考えを提示する。こういった問題は、固定観念で考えてはいけない。

〇誰に託すのか

 現在の都市部には、就職氷河期の影響で「低賃金」「非正規」の労働者が多数存在する。これらの方々は、将来的に生活保護を受給する可能性が高く、将来は国の財政負担が増大する。すなわち、将来、国民の税金で、この人たちを養うことになる。

 であれば、今のうちに公務員や準公務員として雇用し、この人たちに里山・山里の管理をしてもらえばよい。住宅も、公務員住宅を用意するなり、空き家を活用するなりすればよい。これで、里山の問題、将来的な財政負担増の問題が一気に解決する。

 また、都会を離れるのに不安を感じる方もいると思うので、里山手当などを付加し、給与の増加も図るべきである。また、山里に住むだけではなく、里山の管理方法や樹木の伐採などの「山で生きるすべ」の研修も十分に行う必要がある。
 これにより地方の人口が増え、地方経済の活性化を図ることもできる。

〇子どもたちの学校

 次に、この人たちの子どもの教育をどうするかである。

 現在、山間集落では、学校が閉鎖され、子どもたちはスクールバスで時間をかけて通学している。これは、成長期の子どもの貴重な時間を奪うこととなる。このことで、「子どもの教育はできない」と、人々が里山から去る原因となる。

 私なら、山里ごとに「小規模な学校」をつくり、生徒ではなく先生を通勤させる。具体的には、職員数名を常駐させ、残りの先生はローテーションで移動させる。生徒サイドで見れば、月曜はA先生B先生、火曜はC先生D先生、先生サイドで見れば、月曜はα学校、火曜はβ学校といった感じである。この考えは、生活面を常駐の先生が見て、授業を教科担任が行うといったヨーロッパスタイルの分業である。基本的に「生徒中心」の考え方である。なお、大規模な催しの場合は、その日だけは生徒を町の中心部にバスなどで集めればよい。

〇病院など

 基本的に、学校と同様に、山里に小さな診療所をつくり、曜日ごとに診療科の違う先生が通えばよいと考える。私が学生であった1980年頃は、福島市でも周辺部の集落に小さな診療所が散在していた。
 この診療所で対応できない場合は、救急車を呼ぶなり、自家用車で通院するなりすればよい。

〇食料・生活必需品

 里山には、山菜などが多量にあり、ある意味、自給できる。また、畑で自給用の作物をつくることもできる。さらに、沢には魚が住み、山には野生動物が住む。これらを捕獲してタンパク源とできる。余談であるが、私が住んでいる猪苗代町の中心部では、堀にイワナが生息する。
 そのほかの生活必需品は、インターネットを使い、スーパーマーケットの宅配などを充実させればよいと考える。

〇燃料

 里山には、樹木の小枝、間伐材などが大量に存在する。これらを使えばよい。石油のように金はかからない。私の知り合いに、間伐材などを燃料にしている方がいて、「石油の高騰はほとんど影響ない」とのことである。

 なお、「地球温暖化に影響を与える二酸化炭素が出るのではないか」と指摘する方がいるかと思う。材木に含まれる炭素は、もともと樹木が光合成で大気中の二酸化炭素を取り込んだものであり、大気と樹木との間を循環しているだけである。従って、大気中の二酸化炭素の増加はない。

〇まとめ

 このように山里は、里山からの恩恵が多く、ある意味自給自足できる。子どもの学校や病院などの諸問題は、行政の頭の使い方でいくらでも解決できる。要するに、固定観念にとらわれない柔軟な考え方があれば克服できる。肝心なのは、行政の考え方と対応である。現在のように固定観念で縛られている限り、日本に明るい未来はない。発想の転換が必要である。

(了)


<プロフィール>
千葉茂樹
(ちば・しげき)
千葉茂樹氏(福島自然環境研究室)福島⾃然環境研究室代表。1958年⽣まれ。岩⼿県⼀関市出⾝。福島県猪苗代町在住。専⾨は⽕⼭地質学。2011年の福島原発事故発生により放射性物質汚染の調査を開始。11年、原子力災害現地対策本部アドバイザー。23年、環境放射能除染学会功労賞。
著者の論⽂などは、京都⼤学名誉教授吉⽥英⽣⽒のHPに掲載されている。
原発事故関係の論⽂
磐梯⼭関係の論⽂
この他に、「富⼠⼭、可視北端の福島県からの姿」などの多数の論⽂がある。

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