福岡城名物カンサイタンポポ 北部九州では珍しい在来黄花タンポポの群生地

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 春の日和が多くなり、外を出歩くのが気持ち良い季節となった。福岡市界隈の人は、時間があればそのうちぶらりと舞鶴公園、大濠公園あたりを歩いてみようという人もいるのではないだろうか。

 ところで、舞鶴公園、大濠公園で春を楽しむ方々に、この福岡城界隈にしかない名物を1つご紹介したい。

 カンサイタンポポである。

カンサイタンポポの株
カンサイタンポポの株

 カンサイタンポポは、その名の通り関西地区、岡山、四国東部を中心に分布していて、それらの地方では珍しくないタンポポだ。しかし、北部九州では珍しい。だが珍しいというのは、カンサイタンポポが本来関西にしかないタンポポだから北部九州にあるのは珍しいというのではない。北部九州にあるタンポポというと、黄花のタンポポはほぼセイヨウタンポポやアカミタンポポといった外来種であり、在来種としては白花のシロバナタンポポが広く分布しているばかりだ。

 つまり、北部九州では黄花タンポポの在来種(国産)が珍しいのである。

 過去に行われた西日本タンポポ調査で、筆者が在住している佐賀県では県内にもともと自生していると思われる在来タンポポはほとんどがシロバナタンポポ(わずかにキバナシロタンポポ)であり、黄花の在来種はほぼ外部からの持ち込みであることが分かっている。福岡県内は必ずしも十分な調査が行われたわけではないようだが、おそらく福岡城は福岡県内における在来の黄花タンポポのほとんど唯一の群生地なのではないだろうか。

 なぜ福岡城にカンサイタンポポが群生しているのかは不明だ。

 ところで、佐賀県でも唐津市にもカンサイタンポポが群生している集落があることが知られていた。ところが、改めて現地を調査して土地の人に話を聞いたところ、戦前におじいさんが福岡で珍しいタンポポを見つけて持ち込んだものだということが判明したという。おじいさんの採取地が福岡城周辺かどうかは定かでないが、その可能性が高いだろう。もし戦前から福岡城にあったとすれば、陸軍の車両や部隊の移動による持ち込みだろうか。かつてのうわさとしては、関西出身である黒田家の持ち込み説なども聞いていたが、福岡に来る前は大分の中津藩であり、そこも調査してみなければならない。

カンサイタンポポの特徴

 では、カンサイタンポポの鑑賞の仕方を案内したい。タンポポの在来種と外来種の基本的な区別の仕方だが、花弁の裏にある緑のガクに見える部分(タンポポを含むキク科植物では「総苞外片」という)が総苞(花の根元の鉢の部分)にピッタリとくっついていれば在来種だ。これはカンサイタンポポだけでなく在来タンポポに共通する特徴だ。一方、外来種は総苞外片が反り返っている。

カンサイタンポポ、外来種の区別
カンサイタンポポ、外来種の区別

 福岡城には外来種のタンポポもあるため、ぜひ、見比べてみてほしい。カンサイタンポポは総苞が小ぶりなものが多く、一方、外来種はでっぷりと膨らんでいる印象だ。その他、筆者が観察した限り福岡城では、カンサイタンポポは首(花柄)が長いものが多く、外来種は首が短く地面にへばりついているものが多いようだ。

 さて、これらの形態的違い以外に、カンサイタンポポと外来種には大きな違いがある。カンサイタンポポは虫による媒介で受粉しなければ結実しないと言われているが、外来種は受粉しなくてもクローンで次々に種をつくることができるのだ。

外来種の株
外来種の株

 このようにいわれると、繁殖力が高い外来種が在来種を駆逐しているのではないかと心配したくなるが(また、在来と外来で雑種もつくるため純粋種が駆逐されるともいわれる)、福岡城におけるカンサイタンポポと外来種がどのような競合を生じているかは不明だ。両種が福岡城内に共存している様子を見る限り、ひょっとすると排他的関係にはないかもしれない。そう考えると微笑ましい。

 福岡城の名物カンサイタンポポのけなげな姿を、のんびりしたお休みの日、あるいはオフィスワークの休憩がてらに眺めてみてほしい。

【寺村朋輝】

関連キーワード

関連記事