老朽インフラの維持管理・再生へ 福岡・建設業界の取り組み

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

(一社)福岡県建設業協会
会長 松山孝義 氏

(一社)福岡県建設業協会 会長 松山孝義 氏

 埼玉県八潮市の道路陥没事故を受け、老朽化したインフラの維持管理の必要性が改めて提唱されている。とくに高度経済成長期に整備された道路や上下水道といった公共インフラは、その多くが耐用年数とされる50年を経過。維持管理が必要となるが、財源確保や技術者不足といった課題も多い。福岡におけるインフラ維持管理の現状と今後の課題について、福岡県建設業協会の松山孝義会長に話をうかがった。松山会長は、維持管理の効率化や点検における新技術の導入、官民連携の強化などを提言する。
(聞き手:(株)データ・マックス  代表取締役社長  緒方克美)

インフラの老朽化 維持管理のコストは増加

 ──埼玉県八潮市で1月28日に発生した道路陥没事故を受け、日本における各種インフラの老朽化問題がクローズアップされています。

 松山 インフラの老朽化は、日本が抱える深刻な社会問題の1つです。高度経済成長期に道路や橋、トンネル、上下水道、河川管理施設など多くのインフラ施設が集中的に整備されました。それらインフラの耐用年数は50年が目安と言われていますが、その多くが建設されてから50年以上経過し、老朽化が急速に進んでいることから、問題が顕著になっています。

 各地でインフラをめぐる事故が多発しているのは、このように老朽化が進む一方で、維持管理がしっかりとなされていないことが要因となっています。記憶に新しいところでは、2012年の笹子トンネル天井板崩落事故や21年の和歌山県での水道橋崩落事故などがありますが、このように、多くの犠牲者を出した重大な事故が発生しています。

 こうしたインフラの老朽化問題は、関係者の間では以前から指摘されてきました。米国では1920~30年代に道路や橋などのインフラ整備が進められていましたが、その後の維持管理が十分でなかったため、整備から50年が経過した80年代、修繕されないままのインフラが放置され、道路や橋の老朽化による事故が相次いで発生しました。「荒廃するアメリカ」と呼ばれるほど社会問題化しました。

 日本でもこうした米国の状況を受け、将来起こり得るインフラの問題に対して建設業界の関係者や研究者も警鐘を鳴らしてきました。私も、急速に整備が進んだ時期に敷設されたインフラ、たとえば下水道管を例にとっても、それらのなかには維持管理が十分行き届いていないものも多く、それらが耐用年数の50年を迎え老朽化している現状があること、そして放置されたままの老朽管は、漏水・侵入水の発生はもとより、管路破損によって引き起こされる道路陥没を始め、排水能力不足による臭気発生や耐震性能の不足など、さまざまな問題を誘発する可能性があり、大変危険であると訴えてきました。また、水道管といっても下水道管はじめ農業用水管や工業用水管など、多岐にわたる改築・更新が必要となります。

 日本では高度成長期以降、半世紀以上にわたり、社会資本となる下水道の整備に尽力してきました。その結果として、下水道普及率は全国で8割にまで達しています。しかし、2000年以降は、国の公共事業への予算が減っており、今もピーク時を大幅に下回っています。地方自治体の財政難も課題です。老朽化したインフラの維持管理・更新には多額の費用がかかります。加えて、今後少子高齢化と人口減少が進むことで、納税者1人あたりにかかる維持管理費の負担が増加する恐れがあります。

 福岡県と福岡市の予算(令和7年度)では、老朽化したインフラの整備は重点項目の1つとなっています。県では一般予算(知事選挙実施の関係で4~7月分の暫定予算として編成)において、道路・橋梁、緊急輸送道路の機能確保のため約83億円を投じ、道路法面の崩壊・落石防止や代替ルート整備を実施するとしているほか、老朽橋梁の補修やトンネルの点検についても、国の補助制度を活用しながら計画的に進める方針が見られます。

 福岡市については道路橋梁の整備・補修費に約92億円を充当し、幹線道路の改良や生活道路の改修、老朽橋の補修などを推進するとしています。道路の定期点検結果を踏まえた補修・更新を計画的に実施しており、市内に2,000橋以上ある橋梁について5年に1度の近接目視点検を行い、劣化度に応じた補修工事を予算化しています。

 市は水道事業を運営していますが、下水道については老朽管渠やポンプ場、処理場の計画的な更新に注力するとしており、下水道整備に約296億円を計上するとしています。

「公営企業としての上下水道事業の現状と課題」(総務省、2024年9月27日)より引用
「公営企業としての上下水道事業の現状と課題」
(総務省、2024年9月27日)より引用

業界挙げ取り組む インフラ維持の課題

 ──今回の八潮市での事故も、下水管の老朽化により引き起こされました。インフラの維持管理を実施・継続していくには多くの課題があると思いますが、どのような課題があり、どのように取り組んでいきますか。

 松山 私たち地域建設業は、まさに現場でインフラ整備を担っています。インフラの維持管理コストについては、設備の予防保全を推進することで、設備の劣化が進行する前に適切な対策を講じるようにし、関連コストの削減を図っています。劣化が深刻な状態となってから大がかりな修繕を行うよりも、劣化が軽微な段階で修繕を実施できれば、コストはその数分の1で済みます。

 また、従来よりも耐久性の高い材料や工法の開発・導入を進めることで、設備の長寿命化も図っていきます。導入時の初期費用が高くなる材料や工法もありますが、耐用年数が長くなり、点検や修繕にかかるコストも抑えられますので、長期的には維持管理コストを抑制できます。

 老朽化した下水道管路の再生に、多大な効果を発揮する工法の1つが「SPR工法」(スパイラル自動製管管路更生工法)です。これは、機能・耐久面では老朽化した下水道管を新管と同等以上の強度に復元でき、汎用性においては口径の大小や形状を問わず、あらゆる下水道管に対応できるという非常に優れた工法です。また、道路を掘り起こすことなく、かつ下水を流しながらでも施工可能であるという点も強みとなっています。

SPR工法を用いた工事現場
SPR工法を用いた工事現場

    点検については、ドローンやAIを活用した点検技術の開発・導入により、効率的かつ精度の高い点検を実施していきます。また、X線や超音波など非破壊検査技術の活用により、構造物を壊さずに内部の劣化状況を把握することが可能になっています。この非破壊検査技術の進歩も著しく、機器の小型化、AIの活用などが進んでいます。

 ──国も自治体もインフラ維持管理を重視する一方で、行政が財源を捻出し続けるのには限界があります。

 松山 まずインフラ整備・維持管理は、従来の行政主体の手法では継続していくことがますます難しくなっていくだろうということを前提に考えるべきだと思います。そこで、PPP・PFIのような官民連携の活用により、私たち民間のノウハウや資金を活用したインフラ整備・維持管理を推進していきます。当協会としても地方自治体と連携し、地域の実情に応じたインフラ老朽化対策を推進しています。

 また、インフラ投資によって生産、雇用や消費などの経済活動が生まれ、短期的に経済全体を拡大させるというフロー効果のみならず、整備された社会資本が機能することで、社会・経済活動が継続的かつ中長期にわたって行われることにより富を生むというストック効果も期待できます。インフラ整備は、このような意義のある投資だと考えるべきでしょう。

 技術者の高齢化の進行による技術者の不足と技術の継承も、待ったなしの課題です。若手技術者の育成や確保のため、当協会としても、産学官連携による人材育成プログラムの実施を進めているほか、各企業でもより魅力的な労働環境の整備を進めています。

「公的ストックの適正化について」(国土交通省、2019年10月11日)より引用
「公的ストックの適正化について」
(国土交通省、2019年10月11日)より引用

防災・災害対策 地域の安全を守る

 ──地域の安全を守るという点で、防災・減災対策において建設業界がはたす役割も大きいです。

 松山 日本では昨年も地震、異常気象による豪雨や台風など大規模災害が発生し、土砂崩れや河川の氾濫などにより、多くの国民の生命・財産に甚大な被害をもたらしました。巨大地震への備えの必要性など、防災・減災、国土強靭化の加速化対策の重要性はますます増大しています。福岡県に限らず全国で、国土強靭化にともなう防災・減災の予算が確保され、関連する事業が進められています。

 私たち地域建設業は、いったん災害が発生した際には、その最前線で対応に当たる地域の守り手として、長年にわたり極めて重要な社会的使命をはたしてきました。また、社会資本整備の担い手として、これからも中心的な役割をはたしていかなくてはなりません。

 地域建設業がこれらの使命を担い続けていくためには、先に述べたようなさまざまな課題を解決するとともに、安定的・持続的な事業量を確保し、健全な経営を続ける必要があります。そのために、当協会としても、公共工事の円滑な施工への取り組みの強化、働き方改革の推進、事業を継続していくための経営基盤の強化など、魅力ある建設産業の再構築と地場建設業の発展に向け、行政および関係団体と連携を図りながら事業計画を推進していきます。

 また、国土強靭化実施中期計画の早期策定や社会資本整備の着実な推進などについて、引き続き九州地方整備局、福岡県などの機関に提言・要望活動を行うほか、全国建設業協会委員会など国・県などの関係機関に参画しています。

 さらに、減災・防災、国土強靭化対策の推進はもちろん、今後の公共事業予算の安定的な確保のためにも、公共事業を円滑に執行し、建設業界の施工余力が十分であることを示すことが重要であることから、全国建設業協会などの関係団体と連携し、受発注者間の意思疎通を図り、不要な不調・不落の発生を防止するなど、公共事業の円滑な施工の推進に取り組みます。

 社会資本整備の計画的推進のための安定的な公共事業予算の確保と災害に強い国土づくりに関しては、全国建設業協会など関係団体と連携し、あらゆる機会をとらえ、公共事業予算の安定的な確保と社会資本整備の計画的推進について、国・県など関係機関に提言・要望活動を行います。

 将来の担い手の確保について改めて強調しますと、業界全体としてこれまで3Kのイメージが払拭できず、多くの企業が若年層の入職に苦労してきました。一方、昨年4月に始まった時間外労働の上限規制適用や6月に施行された第3次担い手3法は、新4Kの実現を加速させる契機になると考えます。当協会では、全国建設業協会が進める、週休2日と時間外労働の上限を年間360時間以内とする「2+360(ツープラスサンロクマル)運動」や「工期に関する基準」に沿って工期を見積もる「適正工期見積運動」、土日の現場閉所を目指す「目指せ!建設現場 土日一斉閉所運動」に協調して労働条件や労働環境の改善に努めるほか、これらの運動を活用し民間発注者への働きかけも推進していきます。ICT・DXの推進による生産性向上、イメージアップのための広報誌『ひとまちふくおか』や一般紙による広報活動等にも積極的に取り組み、建設産業で働く若者が夢と誇りをもって活躍できる希望に満ちた、憧れの産業となるよう、新4Kの1日も早い実現を目指します。

 福岡市は、2003年の御笠川の氾濫による博多駅周辺の浸水など、大水害に何度も見舞われた歴史があり、その浸水対策が急ピッチで進められました。次の喫緊の課題が老朽化した上下水道管の再生であると思い、早期に解決することを訴えてきました。当協会としても今後は従来以上に本腰を入れて取り組んでいきたいと思いますし、業界のもつ施工技術が、お役に立てればと願っています。

【文・構成:茅野雅弘】


<プロフィール>
松山孝義
(まつやま・たかよし)
1962年、福岡県椎田町(現・築上町)生まれ。明治大学法学部卒業。95年に松山建設(株)に入社。2000年に代表取締役社長に就任。現在、(一社)福岡県建設業協会会長のほか、福岡県建設関連産業協議会会長、建設業労働災害防止協会福岡県支部長などを務める。

月刊まちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事