地域を支える老舗ゼネコン 働きやすい職場づくりで技術つなぐ
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(株)大藪組
代表取締役社長 小川海志郎 氏建築工事を主体に土木工事からリフォームまで幅広い分野を手がけ、女性社員の雇用にも積極的に取り組む(株)大藪組。今年で創業135周年を迎える同社の代表取締役社長・小川海志郎氏に、その軌跡と強み、社員教育、建設業界の魅力などについて話を聞いた。
創業135年の歴史 土木工事にも強み
──まずは筑後地区の上位ゼネコンとして知られる貴社の概要および強みをお聞かせください。
小川 当社の部門としては大きく分けると、建築部門、土木部門、そしてリフォーム部門で構成されています。売上高の内訳は建築工事の比率が最も大きいですが、土木工事もある程度のシェアを占めています。現在は従業員数約80名で、建築部門が40名ほど、土木部門が20名弱、リフォーム関連やその他の管理・営業・事務部門で20名前後という構成です。ただ、プロジェクトによっては兼務するケースもあります。
当社の強みの1つは、歴史の長さです。おかげさまで創業から135年という長い年月を歩んできました。その間に培った技術やノウハウは、他社に負けない大きな武器となっています。また、建築・土木工事の両部門をもっていることで、公共工事でも民間工事でも多角的に対応することができます。
たとえば福岡市内だと建築工事偏重になりがちですが、当社は土木工事も手がけられるため、安定して受注することができます。公共工事は県立高校の改修など、大型案件が出たときに土木の経験があると幅が広がります。また、筑後地区は自然災害の多い地域であるため、河川やインフラの維持・管理といったニーズも高く、それらに臨機応変に対応できるのは大きな強みと感じています。
多くの女性が活躍 産育休後の復職多数
──事務職のほか、営業や設計、現場監督から施工管理まで、多くの女性従業員が活躍されていますね。
小川 当社では「女性を優遇しよう」という考え方ではなく、「男性だから、女性だから」といった区別をしないことを心がけており、現在では現場監督など現場に関わる女性従業員が10名ほど在籍しています。以前から事務職以外でも女性には活躍してもらっていました。今でこそ建設業における女性従業員・職人は増えてきましたが、当時は珍しかったと思います。
──貴社のそうした想いが根付いているからこそ、産休・育休後に復帰される方も多いのでしょう。
小川 そうですね。会社としてもそういった人材には「ぜひ戻ってきてほしい」と声をかけています。育児のために退職されて、その方のスキルや資格が失われるのは非常にもったいないと思います。実際に復職した従業員は5~6名いますが、皆それぞれが活躍してくれています。
採用・育成に注力 若手にはコーチ2名
──建設業の採用難が続くなかで、貴社はテレビCMにも力を入れていますね。
小川 建設業はどうしても「きつい」「危険」「給料が不安定」という3Kのイメージが根強く残っています。そこで少しでも印象を変えようと思い、数年前からテレビCMを打ち始めました。実際に「テレビCMを見て入社を決めました」という人がいるわけではありませんが、営業面を含めた広報活動としては効果的だと考えています。また、テレビCMには従業員の子どもや孫が出演していることもあり、従業員たちが喜んでくれています。
その他、SNSを活用した広報にも注力し、幅広い年齢層の方々へ日常的な会社の魅力をお伝えすることで、身近に感じてもらえるよう努めています。
──採用面については、いかがでしょうか。
小川 採用面については地元の工業高校をはじめ、土木や建築の学科があるところを重点的に回っています。先生とのコミュニケーションがやはり大事ですね。先生が「この会社ならいいよ」と言ってくれることが、学生にとってかなり重要だと思います。また、1~2年目の従業員を連れて、出身高校への学校訪問も行っています。それぞれ当時の担任や部活動の顧問の先生、後輩など、すでにつながりがある人々へのコミュニケーションは、互いに喜ばれたり、懐かしがられたりするので、良い取り組みだと考えています。
インターンシップも積極的に受け入れています。また、水害の復旧作業を行う「大藪組」の社名がついた重機を幼いころに見て、「すごいな。かっこいい」と感じてくれた子が工業高校に入学し、その後、当社への入社を希望してくれました。その従業員は3年目になりますが、今でも元気に働いてくれています。
──若手の育成は、どのようなかたちでされていますか。
小川 基本的にOJTを中心に行っています。ただ、1年目は1名に対して2名のコーチを付ける体制にしています。マンツーマンだと相性や指導の仕方などでトラブルも起こりやすいため、あえて複数人が指導するかたちをとっています。また、指導側に負荷がかかり過ぎないように、チームでの育成を意識してさせています。相談しやすい職場環境、コミュニケーション体制は、当社の強みの1つでもあります。
──社員旅行や全社的なイベントは、定期的に行っているのでしょうか。
小川 コロナ禍の際に一時中断しましたが、基本は年に1回の社員旅行を実施しています。仕事の都合で全員が同じ日に行けない場合は、2班に分けたりします。忘年会や月1回の社員研修会でも、従業員同士が交流する場を設けています。社長や管理職が全社員の前で「今月はこの人が頑張った」と表彰する機会も設け、モチベーションアップを図っています。
採用強化と配置工夫で労働環境の変化に対応
──昨年より、残業時間の適正化や週休2日制などの法改正もあり、現場をもつ企業はその対応に苦慮されています。
小川 本当に悩ましいところです。工事は工期が決まっているため、土日が休めないことも少なくありませんが、平日に代休を取得してもらうなど、週休2日を守れるよう取り組んでいます。また、現場管理者が残業しすぎないよう、人員配置も工夫しています。下請業者さんや協力会社さんに協力してもらうこともあります。
──建設業界の人材不足はますます深刻化しています。
小川 過去には、リーマン・ショックなどのさまざまな要因を理由に、新卒採用を控えていた時期がありました。その歪みで一時期は平均年齢が高くなったのですが、ここ数年で若手を積極的に採用したため、平均年齢は少しずつ下がってきており、現在は42歳ほどになっています。
若手の採用も重要ですが、平均寿命も年々上がっていますので、豊富な経験と資格をもち、健康体で本人が続けたいのであれば、どんどん活躍してもらいたいとも思っています。定年後に嘱託で働く社員も多く、70代の現場監督もいます。
──災害大国ともいわれる日本では、インフラ維持や復旧対応が不可欠ですよね。
小川 大雨などの自然災害が起きると、自治体の要請を受け、当社の土木チームが出動します。2015年9月に茨城県常総市で鬼怒川が氾濫した「常総水害」では、国土交通省の要請に応じて、当社からも2チーム・8名が復旧・復興作業に参加したこともあります。約2週間、現地で頑張ってくれました。従業員たちもこうした取り組みを使命だと感じてくれていて、緊急時は土木チームに限らず「酒は飲まずに待機だ」と自主的に準備をしていますね。災害対応は大変ですが、地域の方から感謝されることがやりがいにもなっているようです。
地域を支える役割重要に 建設業これからの在り方
──日本は人口減少が続くと予測されていますが、今後の建設業はどうあるべきでしょうか。
小川 新築一辺倒の時代は終わり、今後は維持管理や改修工事がメインになるでしょう。従来通りの売上拡大だけを追い求めるのではなく、“必要なインフラを必要な規模で守っていく”という意識が重要だと思います。老朽化が進むインフラを補修し、地域を支えていく役割は、ますます増えるはずです。その点で、土木部門がある当社にもチャンスがあると見ています。
また、この筑後地区で135年もの間、建設業を続けて来られたことは、地域の皆さまのおかげであるという想いが根底にあります。地元の一企業として、地域のボランティア活動への参加や、地域活性のためにスポーツ事業への支援を行うほか、将来を担う子どもたちのための基金への寄付など、今後も続けていきたいと思っています。
──これから建設業を志す方々に向けて、メッセージをお願いします。
小川 建設業は人の暮らしをつくり、支える仕事です。家を建てれば家族が喜び、インフラを整備すれば災害から地域を守ることができます。災害時の復旧では「ありがとう」と心から感謝されます。目に見えるかたちで人の役に立つ、非常にやりがいのある業界だと思います。
当社は、「創りたいのは街の笑顔」をテーマとして掲げていますし、それが実現できる会社だと思います。女性でも男性でも、ものづくりや人の暮らしに興味がある方は、ぜひこの業界に飛び込んできてほしいですね。
【内山義之】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:小川海志郎
所在地:福岡県筑後市長浜2043-1
創 業:1890年10月
設 立:1945年12月
資本金:5,000万円
URL:http://oh-yabu.co.jp月刊まちづくりに記事を書きませんか?
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